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自殺と保険と景気の“悲しい関係”

自殺免責が無効となる事案の増加

 しかし、昨今ではこの自殺免責が無効となる事案が増えています。きっかけは2010(平成22)年8月の奈良地裁の判決で、精神疾患によって免責期間中に自殺未遂した加入者について、裁判所が、当時は「自由な意思能力を失ったと言えるほどだった」として、保険会社に保険金の支払いを命じたのです。

 つまり、「明確に自ら死のうとした」というより、混乱状態で取った行動が結果として、重大な事態を招いたということで、印象としては、病気が原因の事故に近いという解釈です。

 こうした判例を受けて、免責期間であっても、精神疾患の末に自殺をした場合は支払いに応じる保険会社も一部で出ています。自殺の原因として、精神疾患は非常に大きな割合を占めるため、こうした問題に業界がどのように対応していくかが、自殺免責の試金石となるでしょう。

 病気の長患いの末の死とは異なり、自殺は周りの家族が何の覚悟もないまま、ある日突然愛する人がこの世からいなくなります。しかも、自ら命を絶ったという事実は、「何で気付いてあげられなかったのか」と長年、家族を苦しめます。

 自殺という選択をしてしまう事情は個々で異なりますが、自殺者の数がこれだけ景気に連動しているところを見ると、自殺と「世の中の雰囲気」、そして「お金」が無縁ではないことがわかります。事実、アベノミクスが始まった5年前から自殺者は減少し、現在では年間2万5000人を割っています。

 人の死をお金に換える――。それが保険屋の仕事ではありますが、特に自殺の場合は、残されたご家族のお話を聞くに、所詮、お金はお金に過ぎず、大事な“あなた”の代わりになるものではないと、切なさを感じずにはいられません。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)

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加藤圭祐(かとう・けいすけ)

あおばコンサルティング代表取締役、1級FP技能士、宅建士

大手外資系生命保険会社にて11年間、個人・法人のコンサルティング業務に従事。2015年に株式会社あおばコンサルティングを設立。日本初の、チャットでのお金のサービス「みかづきナビ」を開始。現在ではzoomも活用し、FP相談や保険相談で顧客の課題解決に取り組んでいる。みかづきナビ(http://www.mikazuki-navi.jp/)。

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