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「あんな旦那は切り捨てるべき」と周囲が言っても離婚できない夫婦の現実

子どもがいる“普通”の家庭の場合、夫が不倫をしても簡単には離婚しないケースが多く、妻が感情を押し殺すしかないようです。なぜでしょうか。

渡部建さん、佐々木希さん(2019年6月、時事通信フォト)
渡部建さん、佐々木希さん(2019年6月、時事通信フォト)

 お笑いコンビ・アンジャッシュの渡部建さんの「多目的トイレ不倫」が、かなりの衝撃を持って報じられています。それを受けて、妻で女優の佐々木希さんを心配する人たちから、「あんな旦那は切り捨てるべき」「佐々木希さんの価値が下がる」など、離婚を勧める声が多く出ています。

 当然、これらの決断は周りがどうこう言う話ではなく、本人たちが決めることですし、佐々木希さんの場合、仮に離婚したとしてもその人気から、お子さんとの生活をしているだけの経済力を十分持っているでしょう。

 しかし、“普通”の家庭で、特にお子さんがいる場合、夫が不倫をしたからといっても、そう簡単に別々の道をというわけにはいきません。なぜなのか、筆者が解説します。

感情を優先するか、金銭面を考慮するか

 筆者はFP(ファイナンシャルプランナー)という仕事を通じて、個人のお金に関するさまざまな相談を受けていますが、その中には離婚に関することもあります。その際、夫の不貞行為がきっかけであることも多いのですが、どのようなアドバイスをすべきかという点については、いつも非常に難しいと感じています。

 率直な感想としては、お子さんがいると「不倫だけ」で離婚するケース、もっと言えば「不倫だけで離婚できるケース」はまれだからです。数年前に相談を受けた小田さん(仮名)の場合もそうで、夫は上場企業に勤めるエリート会社員でしたが、妻の育休中に職場の同僚と不倫し、それが発覚。当然ながら、夫婦の間には大きな亀裂が入り、「子どもと2人で離婚後の生活が成り立つか」という点から相談に来られました。

 小田さんご自身もしっかりとした企業にお勤めで、育休終了後に復職すれば、それなりの収入を得ることができます。しかし、元々が夫婦共働き、さらに、一方の夫は高給という状況での生活レベル、そして、それに基づいた子どもの教育プランがあったため、妻の収入と夫から支払いが想定される養育費だけでは、かなりの部分のスリム化、つまり、「生活していけないことはないが、特に教育のために投資できる金額は相当下がる」という結果になりました。

 こうなると、大きな選択を迫られます。「許せない」という感情を優先して離婚するか、それとも、経済的なメリットを考慮して夫婦生活を続けるかということですが、大抵の場合は後者を選びます。

 どうしても「子どものために」という発想になるのでしょう。むろん、妻側に十分な収入があって、何のちゅうちょもなく離婚を選択する人もいますが、やはり、夫の収入に依存している家庭は多く、妻としては自分の感情を押し殺すしかないという現実があります。

 実際、不倫と聞くと、離婚の原因の代名詞のように感じるかもしれませんが、実態はちょっと違うことがデータにも表れています。以下は、裁判所がまとめた「妻側が挙げる離婚の原因」をランキングしたものです。

申立件数         4万7807件
離婚の理由(3つまで挙げる方式で調査) 
1位 性格が合わない   1万8846件
2位 生活費を渡さない  1万3820件
3位 精神的な虐待    1万2093件
4位 暴力をふるう(DV) 1万0311件
5位 異性関係        7987件
(2017年裁判所司法統計 婚姻関係事件数申し立ての動機別申立人別より抜粋)

 2017年に妻側からの離婚の申し立ては4万7807件あり、その理由を3つ挙げてもらうという調査において、異性問題(男性側の不倫)は5位で7987件。全体の16.7%、約6人に1人が異性問題を挙げているものの、逆に言えば、6人のうち5人は不倫が主な理由ではないということです。

 もちろん、これは裁判所にまで至ったケースの中での割合であり、話し合いだけで離婚となった場合の数字は含んではいませんが、筆者の経験上も、「不倫だけ」では離婚の決定打とはならないことが多いような気がします。不倫は妻からすれば、裏切り以外の何物でもないのですが、それでも原因の上位にあるお金やドメスティックバイオレンス(DV)などの問題に比べれば、「まだ軽い」ということかもしれません。

無責任な「別れるべき」

 先述の通り、このようなとき、お金が専門である筆者としては金銭面でのデメリットを告げるしかありませんが、それに対して、友人や親族(親や兄弟など)の中には、非常に強硬なことを言う人がいます。

 いわく、「別れるべき」「そんな父親、子どものためにもいない方がよい」などなど。しまいには自分の夫でもないのに、「気持ち悪くて一緒にいられない」などとこき下ろしてきます。

 これらの意見は、当人の気持ちを代弁している面もあるのでしょうが、少々無責任な“正義感”のように感じます。あまりに強い意見を聞き過ぎると、「裏切られたのに離婚もできないのか」と、当人が追い込まれてしまう可能性があるからです。

 筆者はこのようなとき、無為な慰めだとは知りつつも「夫なんて金をくわえてくる犬だと思いなさい」と言っています。少々乱暴な言い方かもしれませんが、あなたこそ飼い主であり、家族の柱なのですと。夫の不倫を知った女性に対しては、一緒に悪口を言うだけでなく、どこかで逃げ道をつくってあげる。それも一つの優しさだと思うからです。

(あおばコンサルティング代表取締役/1級FP技能士・宅建士 加藤圭祐)

加藤圭祐(かとう・けいすけ)

あおばコンサルティング代表取締役、1級FP技能士、宅建士

大手外資系生命保険会社にて11年間、個人・法人のコンサルティング業務に従事。2015年に株式会社あおばコンサルティングを設立。日本初の、チャットでのお金のサービス「みかづきナビ」を開始。現在ではzoomも活用し、FP相談や保険相談で顧客の課題解決に取り組んでいる。みかづきナビ(http://www.mikazuki-navi.jp/)。

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