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背景に学校不信? わが子のいじめに備える「いじめ保険」人気、心配な親は加入すべき?

子どもが学校でいじめられることに備える「いじめ保険」の加入者が増加傾向です。学校の対応が後手になることが多い以上、加入した方がよいのでしょうか。

「いじめ保険」加入者が増加傾向という
「いじめ保険」加入者が増加傾向という

 子どもが学校でいじめられることに備える「いじめ保険」の加入者が増加傾向です。いじめを解決する手段として弁護士に依頼するための費用を補償する保険で、5月にエール少額短期保険(東京都中央区)が発売しました。いじめに対して学校側がきちんと対応できなかったり、加害者の親がいじめの事実を認めなかったりして、いじめの問題を当事者間で解決するのが難しいケースがあるため、第三者の弁護士に介入させる狙いです。

 学校のいじめへの対応が後手になることが多いことを考えると、保護者は、いじめ保険に加入した方がよいのでしょうか。元教員で保護者からのいじめ相談にも応じている少年アナリストの上條理恵さんに聞きました。

学校のいじめ解決能力は?

Q.エール少額短期保険によると、いじめ保険の加入者は発売開始から増加傾向とのことです。この保険が広がる背景として、何があると思いますか。

上條さん「いじめ保険が広がる背景は、『いじめの解決を学校や教師に任せてもあてにならない』という不信感が、保護者の根底にあるからだと思います。ただ、学校側からすると、弁護士が学校内の問題に直接介入してくることは、気持ちのよいものではないでしょう」

Q.学校や教師が身に付けているはずである、いじめを解決する能力が弱ってきているのでしょうか。

上條さん「現在の教育現場は『いじめ』という3文字にかなり過敏です。少しでもいじめの兆候が見られれば、学校内やクラス内で無記名のアンケートを行い、いじめの有無を明確にしようとします。もし、いじめがあると判明すれば、いじめている側といじめられている側から話を聞き、なぜいじめが起きたのかをはっきりさせようとします。

いじめに、どのように対応したらよいのかを示したマニュアル本もありますし、いじめへの対応方法を分かりやすく示した図解なども作成してあります。このように、いじめの原因を見つけることには時間を割いていますが、解決方法を見つける部分には手が回っていないのが現状のように思います」

Q.なぜ、解決方法を見つける部分に手が回らないのですか。

上條さん「さまざまな原因がありますが、特に、教師の経験不足が関係しているからだと思います。現在の教師は、数十年前に採用数を抑制していた影響で、中間層の人材が不足しています。30歳未満の若く、経験の浅い教師の比率が高まっているのです。

そのため、若い教師にいじめの解決方法を身近で教えられる教師が不足しています。教師がいじめの解決まで導けないのも、それが影響しているのかと思います。私は教師を対象にした、いじめ対策のリーダー研修の講師も務めていますが、22歳の新卒で教師になった人が、30歳になる手前で、いじめへの対応を若い教師に教えるリーダーになっています」

Q.いじめ保険を利用、つまり弁護士にいじめ問題に介入してもらうとすると、いじめられた側の子どもと親にとって、どのようなメリットがありますか。

上條さん「第三者の弁護士が入ることで、いじめた側やいじめられた側、学校がお互いに冷静になって、いじめの解決に向き合うことができます。いじめの解決には、どうしても時間がかかります。学校や教師の対応が遅いと保護者はいら立ち、感情論の言い合いになりがちです。

また、いじめられた子どもの保護者は『被害者だ』という意識が強いので、学校側から『いじめがなかった』という調査結果を聞くと、『学校はいじめた側の味方なのか』と思ってしまうことがあります。そこに第三者の弁護士が入ることで、結果を吟味した上で、保護者に対して冷静に伝えることができると思います。特に、保護者が学校に対して不信感を持っているような場合には、弁護士に入ってもらった方がよいかもしれません」

Q.一方で、デメリットは何ですか。

上條さん「いじめた側、いじめられた側の保護者同士が反目し合った場合、その感情が子どもの人間関係にも影響することです。弁護士が介入すると、いわゆる被告と原告のような線引きができてしまいがちです。子どもが仲直りしたくても、それぞれの保護者が反目し合い、子どもに『仲良くするな』と言えば、普通に話せなくなるでしょう。

また、多数がいじめ保険に入っていない現状では、当事者ではないクラスメートの保護者の間で、『あの子の家は弁護士を雇ったんだって』と口コミで広がるでしょう。そうすると、『そんなことまでするの? 何だか嫌よね』という感情が広がり、クラスメートの保護者が距離を置いてしまうのではないでしょうか。学校や教師も『自分たちは信用されていないんだ』と思い、いじめ保険の加入者である保護者との関係が悪くなる可能性もあります」

Q.お話を聞いていると、いじめ保険はデメリットの方が大きいように聞こえますが、保護者は子どもがいじめられたときに備え、いじめ保険に加入するのは避けた方がよいのでしょうか。

上條さん「加入した方がよいかどうかは、一概には言えません。何に基準を置いて、いじめを解決するかであり、それは保護者ごとに異なるからです。いじめは、当事者間で解決できればベストですが厳しい面もあります。学校や教師がもっとしっかりと対応し、いじめ保険を必要としない教育現場になることが本来の姿だと思います。

また、世間の目がこれだけいじめに厳しくなっても、いまだにいじめに対する初期対応がまずい教師や管理職がいることを、相談に来る保護者からよく聞きます。初期対応のまずさがいじめを深刻化させてしまうので、早いうちに適切な対応をしないと手遅れになります。

こうした教師や管理職を見ると、不安に思う保護者もいるのでしょう。初期対応がまずい教師や管理職、そして保護者のためにも、現状では、いじめ保険が広がるのも仕方のないことかと思います」

(オトナンサー編集部)

上條理恵(かみじょう・りえ)

少年問題アナリスト

少年問題アナリスト、元上席少年補導専門員、東京経営短期大学特任准教授。小学校、中学校、高校講師を経て、1993年より、千葉県警察に婦人補導員として、青少年の非行問題(薬物問題・スマホ問題・女子の性非行)・学校との関係機関の連携・児童虐待・子育て問題に携わる。学会活動として、非行臨床学会の会員としての活動も行う。小中学生、高校生、大学生、保護者、教員に向けた講演活動は1600回以上に及ぶ。

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