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「愛のある体罰」なら許されるという空気、なぜ存在する? その是非は?

日本の学校現場では、体罰そのものが法律で禁止されていますが、「愛のある体罰」であれば許されるとの空気が一部にはあります。

「愛のある体罰」なら許される?
「愛のある体罰」なら許される?

 日本の学校現場では、体罰そのものが法律(学校教育法11条)で禁止されていますが、一方で「ただの体罰はいけないが、『愛のある体罰』であれば許されるのではないか」という教師や保護者も一定数いるようです。「愛のある体罰」とはどのようなもので、なぜ許される空気があるのでしょうか。

 小中高で教員経験のある、元千葉県警上席少年補導専門員で少年問題アナリストの上條理恵さんに聞きました。

言葉そのものが矛盾している

Q.「愛のある体罰」とは、どのようなものでしょうか。

上條さん「『愛のある体罰』という言葉は、教師が児童・生徒をたたいても、『先生は自分のためを思って手を上げたんだ』と児童・生徒が納得するような体罰と思われるのではないでしょうか。これは、教師と児童・生徒の間に強固な信頼関係があることで成立し、以前は美談のように扱われた時代もありました。しかし、そもそも、『愛のある体罰』は存在しないと思います」

Q.存在しないというのは、どういうことですか。

上條さん「児童・生徒をたたくなどの体罰をしなくても、教師の中に本当の愛があれば、子どもたちは教師の言うことを聞くと思います。『愛のある体罰』という言葉そのものが矛盾しています」

Q.以前は「愛のある体罰」のようなことが学校現場でもあったそうですが、当時の子どもたちは、教師が手を上げることをなぜ納得できたのでしょうか。

上條さん「教師に対する絶大な信頼感があったからだと思います。児童・生徒が体罰を『愛のある体罰』と思うようになるのは、教師が絶対的な存在、あるいは神格化されたときに起こり得るのではないでしょうか。

例えば、平均的な運動能力の児童・生徒が集まる部活動に、熱血指導を行う教師が顧問として就任したとします。子どもたちが、この教師の言う通りに一生懸命練習し、力を付けて強豪校に勝利すると教師への絶大な信頼感が生まれます。

こうなると、親も教師に絶大な信頼感を抱くようになり、多少子どもがたたかれようが、みんなが一つの目標に向かって優勝するためには仕方ないという、体罰をも許容する風潮が出てくるのです」

Q.現在でも、教師が絶対的な存在になったり、神格化されたりすると、「愛のある体罰」のようなことが起こるのですか。

上條さん「現在では難しいと思います。時代が許しません。もし、当事者の児童・生徒が先生にたたかれることを納得していたとしても、それを見ている他の児童・生徒や保護者らが体罰だと理解すれば、それは体罰になります。

また、自分の子どもが先生にたたかれたりすれば、親が黙ってはいません。まして、今は何でもネット上にアップされる時代なので大問題になってしまいます。そうなれば、教師は顧問や担任を外されるといった不利益を被るので、学校現場では体罰そのものが起きにくい環境になりつつあります」

Q.学校現場の体罰は以前に比べて減少しているということでしょうか。

上條さん「学校現場の体罰は以前に比べてかなり減っています。小中高に勤めている複数の現役教師に聞くと、現在の学校現場では、体罰そのものがほとんどないと言っても過言ではないそうです。部活動でも、顧問の教師は体罰を行いにくい環境に変わっています。

例えば、顧問の教師が試合中、ミスをした児童・生徒に罵声を浴びせたり、手を上げたりしたら、試合中であっても審判が監督にペナルティーを課すようになりました。練習中の体罰も子どもたちが見ていますし、体罰は駄目だという風潮があるので、今は手を上げにくい環境になっています」

Q.学校現場の体罰は完全になくなりますか。「愛のある体罰は必要、あるいは、やむを得ない」と考える人が一定数残り続けるのでしょうか。

上條さん「これからは、こうした考えを持つ教師はどんどん減っていくと思います。今の20代から30代半ばの若い教師も、子どもの頃に体罰をあまり経験していない世代で、教師になり体罰をすることも考えにくいからです。

ただ、一定数は残り続けると思います。本来は、教師が児童・生徒に何が悪かったのかを納得できるよう説明しなければならないわけですが、一部の教師は説明よりも感情が先立ち、暴力を振るってしまうためです。

こうした教師は校長や教育委員会が指導をしていくしかなく、一定期間を使って、暴力を肯定するような考えを改めさせなければなりません。体罰は暴力であり、言い換えれば“犯罪”です。学校は教育する場所ですから、学校現場で教師が犯罪を行うことなど絶対にあってはならないのです。それでも止められないのでれば、子どもたちのためにも学校現場を去ってもらうしかないと思います」

(オトナンサー編集部)

上條理恵(かみじょう・りえ)

少年問題アナリスト

少年問題アナリスト、元上席少年補導専門員、東京経営短期大学特任准教授。小学校、中学校、高校講師を経て、1993年より、千葉県警察に婦人補導員として、青少年の非行問題(薬物問題・スマホ問題・女子の性非行)・学校との関係機関の連携・児童虐待・子育て問題に携わる。学会活動として、非行臨床学会の会員としての活動も行う。小中学生、高校生、大学生、保護者、教員に向けた講演活動は1600回以上に及ぶ。

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