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ストレスのはけ口に? 神戸・教師いじめ、問題の背景には何がある? 元教師の見解

神戸市の小学校で発生した教師間のいじめ問題。しかし、報道では、どのような背景があったのか必ずしもはっきりとはしていません。専門家に聞きました。

東須磨小学校での、教諭間のいじめ問題を受けた記者会見(2019年10月、時事)
東須磨小学校での、教諭間のいじめ問題を受けた記者会見(2019年10月、時事)

 先日、神戸市立東須磨小学校の40代女性教師と30代男性教師の計4人が、20代の男性教師に対し、「いじめ行為」を繰り返していたことが報道されました。「教師が教師をいじめる」構図が珍しいことや、いじめの内容が悪質であったことから、テレビの情報番組などで繰り返し取り上げられています。ただ、それらは「いじめた教師はとんでもない!」との批判がほとんどで、何が教師間でのいじめを引き起こしたのか、必ずしもはっきりとはしていません。

 今回の問題の原因や背景について、元教員で、いじめ相談にも応じている少年問題アナリストの上條理恵さんに聞きました。

労働環境悪化によるストレス?

Q.まず、今回の教師間でのいじめ事件について、率直にどう思われましたか。

上條さん「いじめている様子を動画に撮り、ネットにアップするような教師は前代未聞で、『ここまで落ちたのか』という思いです。非行少年のやっていることと何ら変わりなく、あきれるしかありません。私が知っている教師も皆、あっけにとられています」

Q.教師間のいじめは、全国的にも珍しいのでしょうか。

上條さん「いじめている様子を動画に撮り、ネットにアップすることは珍しいでしょう。ただ、他の全国の学校でも、以前から教師間でのいじめは存在していたと思います。学校の中でも、ピラミッド状の階層組織(ヒエラルキー)があったり、自らの方が立場が優位であるとアピールする(=マウンティング)教師がいたりします。もし、全国の教師にアンケートを取れば、『いじめを受けた経験がある』という回答が多く出てくると思います」

Q.なぜ、教師間でのいじめが起きるのでしょうか。

上條さん「労働環境の悪化によるストレスのはけ口として、いじめが起きていると思います。また、児童生徒の指導力が不足している教師をばかにしてしまうような文化が、一部の学校にあるからだと思います。指導力や経験が不足し、若くて自己主張できない教師は、からかわれる対象になりやすいです。これは、児童生徒が勉強のできない子や運動のできない子をいじめてしまう構図と似ているところがあります」

Q.今回のいじめが起きた背景については、どのように見ていますか。

上條さん「今回の学校では、いじめが起きるような文化や風潮が過去からあったと思います。周囲の教師もいじめを『やめろ』と言えない空気があり、声を上げられなかったのでしょう。小学校では、担任の教師が全ての授業や指導を受け持つため、クラスで何をやっても周囲からは見えにくい『担任の王国』になりがちです。そうした環境の延長で『何をやっても誰からも何も言われない』という意識が生まれ、今回のいじめ事件が起きたのではないでしょうか。

校長をはじめとした、学校の管理職のコンプライアンスが全然できていないということも、大きな問題だと思います」

Q.「いじめはいけない」と教えている教師が、実はいじめをしていたという事実は大きいです。児童生徒や保護者にどのような影響を与えると思いますか。

上條さん「影響は『大』などというものではありません。いじめ事件が起きた小学校だけでなく、全国の学校に影響があり、教育界全体の問題です。このいじめ事件の報道を、児童生徒と親が一緒に見たり聞いたりすることで、『あなたの学校の担任もそんなことをやっているのでは?』という不信感を募らせかねません。

児童生徒に対する影響も、当然あるでしょう。子どもたちの間でのいじめについて、先生が注意しても、『先生だってやってるじゃん』と言われてしまう恐れがあります。そうなると、何を言っても教師の指導が子どもたちの頭に入らず、児童生徒は教師を信頼できなくなり、瞬く間に学校全体の秩序が崩れていくでしょう。

しっかりといじめに対応している教師にとっては、本当に迷惑な話です。『みんながそうなのか』と思われるからです。少しでも教師に不安を感じている保護者は、さらに不信感を増大させる可能性があります」

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上條理恵(かみじょう・りえ)

少年問題アナリスト

少年問題アナリスト、元上席少年補導専門員、東京経営短期大学特任准教授。小学校、中学校、高校講師を経て、1993年より、千葉県警察に婦人補導員として、青少年の非行問題(薬物問題・スマホ問題・女子の性非行)・学校との関係機関の連携・児童虐待・子育て問題に携わる。学会活動として、非行臨床学会の会員としての活動も行う。小中学生、高校生、大学生、保護者、教員に向けた講演活動は1600回以上に及ぶ。

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