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「女子高生にウインクで通報」は過剰? 元刑事が明かす、何気ない行為が“犯罪”と見なされる必然の理由

日常の何気ない行為が犯罪と見なされる可能性について、元刑事が解説します。

ウインクしただけで犯罪に?(画像はイメージ)
ウインクしただけで犯罪に?(画像はイメージ)

「ウインクしただけで“不審者”になるの?」。東京都中央区の公式Xアカウントが4月7日に投稿した“ある注意喚起”をきっかけに、SNS上では「どこからがアウトなのか」という大きな議論が巻き起こりました。一見すると軽いジェスチャーにも思えるウインクですが、実際に社会ではどのように判断されるのでしょうか。元警視庁刑事が解説します。

東京都中央区が投稿した「不審者情報」にネット騒然

 話題となった東京都中央区の投稿は次の通りです。

【不審者に注意!】
昨日午後10時35分頃、中央区日本橋人形町1丁目の路上において、帰宅中の女子高生を見てウインクをした男性がいるという不審者情報がありました。不審な人を見かけたら、ためらわずに110番通報してください。

 この投稿に対し、SNS上では「ウインクしただけで不審者なのか」「もう外を歩けない」「偶然まばたきしただけかもしれない」という困惑の声が上がる一方、「深夜に知らない女子高生へウインクする時点で普通ではない」「怖いと感じるのは当然」という意見も少なくありませんでした。

 そして実は、このケースと同じような「認識のズレ」によるトラブルが、私たちの職場でも起きています。

 例えば、「不機嫌そうな態度を続ける」「舌打ちやため息を繰り返す」「距離感が近い」「容姿に言及する」「視線を向け続ける」といった行為が、社内相談やハラスメント対応の対象になるケースがあります。では、どこからが「違法」で、どこからが「注意」や「処分」の対象になるのでしょうか。

「不審」だから即「犯罪、逮捕」というわけではない

 まず整理しておきたいのは、「不審者情報」と「犯罪認定」は別だという点です。実際、警察が出す不審者情報には、法律上の明確な定義があるわけではありません。例えば千葉県警は、防犯対策として「声掛け事案」や「つきまとい」などの不審者情報を積極的に提供しています。

 その内容を見ると、「声を掛ける」「後ろを歩く」「手を振る」「見つめる」といった、単独では直ちに犯罪とは言い切れない行為も含まれています。これは、「犯罪者として断定する」というより、“注意喚起”として運用されている側面が強いものです。

 犯罪捜査の現場でも、重大事件は突然発生するというより、「小さな違和感」や「前兆行動」が積み重なった末に起きるケースも多く、例えばストーカー事案でも、「偶然を装った接触」「執拗(しつよう)な視線」「待ち伏せ」「SNS上での接触」など、「その段階では違法と断定しにくい行為」から始まることがあります。

 そのため現在の防犯実務では、「すでに犯罪が成立したか」だけではなく、「将来的なリスクにつながる可能性があるか」という観点で情報共有が行われています。

 今回話題になった“ウインク”の件でも、後から「ニヤニヤしながら接近していた」という状況説明が追加されました。つまり、「ウインク」という単独行為だけではなく、過接近態様や距離感、表情、時間帯、相手との関係性までを含めて、「不安を生じさせる行動だったか」を見ているわけです。

単発では違法になりにくいが、「繰り返し」で評価は変わる

 もちろん、ウインクをしただけで直ちに犯罪になるわけではありません。刑法で罰するには暴行や脅迫、不同意わいせつなど、一定の法益侵害が必要になります。つまり、「気持ち悪いと感じられた」というだけでは、通常は直ちに犯罪にはなりません。ここで重要なのは「反復性」、つまり繰り返しです。

 例えばストーカー規制法では、待ち伏せや見張り、進路への立ちふさがり、拒絶後の接触などを繰り返すことで、違法かどうかの評価が変わっていきます。

 実務上も、「単発か継続しているか」「相手が拒絶しているか」「恐怖や萎縮を与えているか」によって評価は大きく変わります。つまり、「まだ犯罪じゃないから問題ない」「1回だけだからセーフ」という単純な話ではなく、「違法かどうか」がはっきりする前の段階でも、相手に強い不安を与える行為は、警察や行政の警戒対象として位置づけられているのです。

 特に現在は、ストーカーや性犯罪への対応が、「被害が深刻化してから」では遅いという考え方が主流で、以前のように「警察は事件が起きてからしか動かない」という発想ではなく、“前兆段階”から情報共有や警戒を行う方向へ変わってきています。

 そのため実務では、「本人に悪気があったか」「本当に犯罪目的だったか」ということで判断されるのではなく、「相手が恐怖を感じたか」「行為に不自然さがあるか」「今後エスカレートする可能性があるか」という視点が重視されます。

 今回の“ウインク”の件でも、「1回だけだから問題ない」と考える人がいる一方で、「深夜に、見知らぬ女子高生へ、わざわざウインクをする必要があるのか」という根本的な違和感を持つ人も少なくありません。今の社会は、こうした「小さな違和感」を軽視しない方向へ変わってきていると言えます。

職場では「違法」より「就業環境」が重視される

 さらに分かりにくいのが、職場でのハラスメントです。厚生労働省のハラスメント指針では、企業に対し、「ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること」を求めています。つまり企業側は、明確にアウト/完全に問題なしという単純な線引きではなく、その中間にある“グレーゾーン”にも対応を求められているわけです。

 背景にあるのは、「明確に違法ではないから放置する」という対応では、職場環境の悪化やトラブルの深刻化を防げない、という考え方です。ここで重視されるのは、「違法かどうか」より、「就業環境が害されるか」です。

 厚労省の資料でも、パワハラやセクハラは「労働者の就業環境が害されるもの」と整理されています。

 そのため、不機嫌な態度や舌打ち、無視、威圧的な沈黙、執拗な視線、距離感の近さなども、継続性や上下関係によっては相談対象になります。

 最近では、いわゆる「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」という言葉も広がっています。怒鳴っていなくても、周囲を萎縮させたり、話しかけにくい空気を作ったりするなど、職場全体の雰囲気を悪化させることで、組織運営上の問題として扱われるようになっています。

 特に管理職では、「怒鳴っていないから問題ない」では済まされず、“態度そのもの”が評価対象になるケースもあるのです。

今は「処分型」より「予防型」の時代

 以前は、「事件が起きてから対応する」という考え方が中心でした。しかし現在は、防犯や学校安全、ハラスメント対策、コンプライアンスの多くが、「予防型」に移行しています。つまり、「明確に違法になってから動く」のではなく、「問題化する前に対応する」という方向です。

 だからこそ、ウインクや視線、距離感、不機嫌な態度のような、一見すると軽微に見える行為でも、相談や情報共有の対象になる時代になっています。一方で、主観的な印象だけで人を危険視することへの慎重論があるのも事実です。ただ現在は、防犯も職場も、「実際に大きな問題が起きてから動く」のではなく、「不安やトラブルの芽を早めに拾う」という方向へ変わっています。

 そのため、時には「これくらいで?」「悪気はなかったのに」と思うような行為でも、通報や相談、注意の対象になることがあります。

 小さな違和感や不安を軽視せず、早い段階で共有し対処していくというのが、今の社会のスタンダードです。だからこそ、自分にとっては何気ない行動でも、相手にどう受け取られるのかを意識することが、トラブルを未然に防ぐ第一歩になると言えるでしょう。

(治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト 小比類巻文隆)

【要注意】「えっ…」 これが“犯罪”と見なされる可能性がある“何気ない行為”です

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小比類巻文隆(こひるいまき・ふみたか)

元警視庁警部補/治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト

30年にわたって警察官として勤務し、危機管理の第一線を歩んできたスペシャリスト。1993年に警視庁へ入庁後、爆弾処理班を経て中国語通訳捜査官、さらに国際捜査官として、銃器・薬物犯罪を中心に情報収集や秘匿捜査、海外組織による密輸入事案の解明に従事。殺人・強盗・誘拐など重大事件の捜査本部にも多数参加。2023年に退官後は、警察での実践経験を社会に還元すべく、講演や執筆、メディア対応など幅広く活動中。現場のリアルを伝える、数少ない治安専門家のひとり。【公式サイト】https://kohiruimaki-fumitaka.info/contact

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