まるで落書き…ブラジル聖像の“トホホ修復”が炎上! 日本で「著作権切れ」作品を勝手に直したらどうなる?【弁理士解説】
日本で著作権切れの作品を勝手に修復した場合、どのような責任を問われる可能性があるのでしょうか。弁理士に聞きました。

ブラジルのミナスジェライス州カルモ・ド・カジュル市にある教会関連施設で行われたキリスト像などの修復が、「元の姿とかけ離れすぎている」として、6月に大きな話題になりました。
報道によると、専門家ではない人物が塗装を施した結果、キリストや聖母マリアの表情が大きく変わってしまい、SNS上では「遺産に対する攻撃だ」「神聖冒涜(ぼうとく)だ」といった批判の声が相次いだとのことです。
実はこのような「残念な修復」が報道されるのは今回が初めてではありません。2012年にはスペインの教会で、女性が善意でキリスト画を修復したところ、こちらも元の姿とは大きく異なる仕上がりとなってしまい、世界中で話題になりました。後に「エッケ・ホモ事件」と呼ばれるこの出来事は、善意の修復が思わぬ結果を招いてしまったとして、今でも修復の話題になるたびに取り上げられています。
では、このような修復は法律上どのように考えられるのでしょうか。特許や著作権といった知的財産権に関する業務を行う弁理士の筆者が、この騒動について考察したいと思います。
著作権が残っている作品ならもっと大きな問題になった可能性も
美術作品や彫像に著作権が残っている場合、無断で修復や改変を行うことで著作権侵害の問題に発展する可能性があります。著作権法には、作品を複製する権利や、作品を改変・翻案する権利などが定められているためです。
さらに著作者には、自分の作品を意に反して改変されない権利も認められています。そのため、作者や権利者の許可なく大きく手を加えた場合には、権利侵害が問題となることがあります。
しかし、今回話題となったような宗教彫像や歴史的な宗教画の多くは、制作から長い年月が経過しているため、著作権がすでに消滅しているケースが多いと考えられます。
もしもこれが作られて間もない現代彫刻だった場合には、作者から損害賠償請求や無断改変の差し止めを求められるなど、民事上の大きなトラブルに発展した可能性があります。場合によっては、刑事上の問題となる可能性も否定できません。
実は「著作権切れ」でも自由ではない
ブラジルの法律では、著作権の保護期間は原則として著作者の死後70年です。今回のカルモ・ド・カジュル市のモニュメント群は、教会の設立(1815年)以降の古い時代に作られたものとされていますが、著作権はすでに消滅している可能性が高いと考えられます。
そのため、今回問題となったのは、著作権侵害ではなく、歴史的・文化的価値を持つ遺産をどのように保全するかという点です。現地でも、文化遺産を損なう行為として問題視されました。
例えば、文化財として指定されている場合には、文化財保護に関する制度が関係します。また、作品の所有者や教会、美術館など管理者の許可が必要になるケースもあります。ブラジルでも同様で、歴史的・文化的価値を持つ遺物に無断で手を加える行為は、善意による修復であっても問題視されることがあります。今回も、地元の文化財委員会や市民から「文化遺産の破壊だ」と厳しい批判の声が寄せられました。
なお、日本でも著作権の保護期間が終了した作品だからといって、自由に改変できるとは限りません。
日本では著作者人格権そのものは著作者の死亡によって消滅します。一方で、著作権法では、著作者の死後であっても、著作者が存命であれば著作者人格権の侵害となるような行為は原則としてしてはならないとされています。
さらに、文化財保護や所有者や管理者の権限など、こちらも著作権とは別のルールが問題となることもあります。
「著作権」が切れているからといって、誰でも自由に修復や改変を行えるわけではないことが分かりますね。
修復した人にも著作権は生まれる?
では、「修復した人に新たな著作権は発生するのか?」という点はどうでしょうか。
一般的に、欠けてしまった部位の補修や原状回復であれば、新たな著作物が生まれたとは言えず、著作権は発生しないと考えられます。
一方で、元の作品から大きく離れた独自の表現が加えられ、創作性が認められる場合には、新たな著作物として評価される余地もあります。スペインのエッケ・ホモ事件では、「これはもはや修復ではなく新しい作品ではないか…」といった冗談も飛び交いました。
もちろん、実際に著作権が発生するかどうかは個別の判断になりますが、修復なのか、それとも新たな創作なのかが議論になることがあります。
AIによる復元でも同じ問題が生じる
この問題は、近年注目されているAI技術とも関係するところです。例えば、AIを使って古い写真をカラー化したり、劣化した画像を補完したりする技術が普及しています。
しかし、AIによる処理も「失われた部分を復元しているだけなのか」あるいは「新たな表現を創作しているのか」という点が議論になることがあります。
このように、修復や復元の世界では昔から、どこまでが元の作品で、どこからが新しい創作なのかが問われてきました。
「善意で直しただけなのに、なぜこんなに批判されるの?」そう思う人もいるかもしれません。
ですが、美術品や宗教画、彫像などには、作者の思いや歴史的価値、さらには長い年月の中で人々の信仰の対象としての意味を持っていることがあります。そのため、たとえ善意であっても本来の姿を大きく変えてしまえば、「作品への敬意を欠いている」「文化的価値を損なった」と受け止められ、強い反発を招くことがあります。
今回のブラジルのマリア像騒動、一見すると修復失敗のニュースに見えるかもしれませんが、その背景には、どこまでが修復で、どこからが創作なのか、そしてオリジナル作品をどこまで、なぜ尊重すべきなのかという、信仰や文化、著作権にもつながる深いテーマが隠されていたのです。
(オトナンサー編集部)




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