葬儀で死因を詮索され…身内の「自殺後」に取り残される遺族の苦悩
生命保険も扱う筆者は自殺した契約者の遺族から、故人を救えなかったことへの自責の念を聞くなど、シビアな現実も見るそうです。どのような現実なのでしょうか。
生命保険も扱う筆者は、自ら命を絶った契約者の遺族と接する機会も多く、故人を救えなかったことへの自責の念を遺族から聞くこともあるそうです。筆者が見た「自殺後の話」とは、どのようなものなのでしょうか。
「自殺は絶対にしてはいけない」
女優の芦名星さんが亡くなりました。自殺ではないかとされていますが、つい先日も有名俳優が、その前にも女子プロレスラーが自宅で亡くなっているのが見つかり、著名人の自殺とみられる事態が相次いでいます。
芦名さんは、筆者も大好きな女優さんでした。人気ドラマ「相棒」では、重要な記者役を任されていましたし、2018年公開の映画「検察側の罪人」では、反社会的組織の一員を演じ、あの美しい顔立ちに何とも不気味な雰囲気を漂わせていました。正統派から、ちょっと癖のある役までこなす名バイプレーヤーとして、今後も期待されていただけに残念です。ご冥福をお祈りいたします。
さて、筆者は生命保険のビジネスに携わっていますが、この仕事も長くやっていると保険金を届けることが増えます。つまり、契約者が亡くなってしまうということですが、その理由が自殺であることも少なくありません。
筆者自身、自殺による保険金を数件お届けしてきました。特に20代、30代という若さで亡くなった場合、かなりの確率で自殺であることが多いです。実際、厚生労働省の死因調査でも、20代の約50%、30代の約35%が自殺であり、どちらも死因1位です。
日本は「自殺大国」と言われ、特に若者の自殺が多く、きっと社会的に何か理由があるのだと思いますが、筆者はその関連の専門家ではないのでここでは触れません。しかし、断固として言えるのは「自殺は絶対にしてはいけない」ということです。それは多くの「自殺後」を見た経験からの率直な感想です。
誰にも言えない苦悩
契約者が亡くなると、ご遺族から連絡が入ります。電話に出ると、「実は○○(契約者)が亡くなりまして」と言われ、何度経験しても嫌なものですが職務上、死因をお聞きしなくてはなりません。そのようなとき、ご遺族が何か言いだしにくいような、口ごもるようなときには、大抵は自殺です。
経験上、ピンとくるので、それ以上は深くお聞きしませんが、死亡保険金の請求書類などをお届けする際にはなぜか、ご遺族側から死因の話が出ることが多いのです。その理由は「ほかに誰にも言えない」からだと思います。
子どもが、妻が、親が自殺したということは、誰にでも気軽に言えるような話ではありません。家によっては、家族の重大な秘密として、親族にも隠している場合もあります。そのため、故人を知っているという共通点はありながらも、保険金を届けにきただけで「もう二度と会わない保険の人」というのは、何ともやるせない気持ちを吐露する相手としては都合がよいのでしょう。
せめて話し相手になれればと、じっと耳を傾けますが、遺族が語る内容は「なぜ、なぜ、なぜ」だけです。「なぜ、悩みを打ち明けてくれなかったのか」「なぜ、気付いてあげられなかったのか」「なぜ、自ら命を断ってしまったのか」。そこには何の正解も救いもありません。
誤解を恐れずに言えば、自殺した人が抱えていた苦悩が形を変えて、他のご家族に乗り移ってしまったようなもので、残された人たちはやり場のない憤りを感じ、ただただ涙を流すしかないのです。それが数年、長ければ、数十年も続いていく。自殺は自分の身内をも傷つけ、その魂を長い間、閉じ込めてしまう行為なのです。
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