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家族3人一蓮托生、親と2カ月会わず…「家庭内感染」対策を諦めた家と続ける家

新型コロナウイルスの「家庭内感染」が問題視されていますが、家庭内での感染予防対策を継続的に行ったり、完璧に行ったりするのは大変です。幾つかの家庭の事例を紹介します。

家庭内感染対策、どうしたらいい?
家庭内感染対策、どうしたらいい?

 感染拡大が止まらない新型コロナウイルスは、外出先で感染したと思われる人が自分の家族にも感染させてしまう「家庭内感染」も問題視されています。その対策として、「家の中でのマスクの着用」「部屋の小まめな換気」「食事は別々の時間に取る」「睡眠はそれぞれ別室で」といった対策が推奨されています。しかし、こうした予防策は確かに効果的でしょうが、実践し続けたり、完璧に行ったりするのはなかなか大変です。実際に試みている家庭や、かつて試みていたものの、もうやめてしまった家庭の様子を紹介します。

「意識の差」が障壁となり…

 Aさん(37歳、女性)一家は共働きで、3歳の娘がいる3人家族です。住まい、勤務先、子どもの保育園は全て都心にあります。「最近、知り合いが1人(新型コロナに)感染した」と話すAさんですが、家庭内感染の防止策については「ほとんどやっていません」と話します。

「甘い考えかもしれませんが、家庭内での感染防止はほぼ不可能だという諦めの気持ちが強いです。というのも、娘の入浴や寝かしつけは私と夫が交代でやっているので、誰か1人が感染すれば、あと2人もそこから感染するだろうという一蓮托生(いちれんたくしょう)の状況です。

厳格にやるなら、せめて寝るのだけでも別室がいいのかもしれませんが、怖がりな娘に急に『コロナがうつると危ないから1人で寝てね』と言うのは酷な気がして、現実的ではありません。家庭内のライフスタイルは変えられないので、外から家へと持ち込まないよう極力努力するのが精いっぱいです」(Aさん)

 確かに、小さい子どもがいる世帯では対策が難しいのかもしれません。

 一方、Bさん(45歳、男性)は5人家族で、子どもは大学生の長女、中学生の長男、小学生の次男です。この家庭では、長女が率先して感染防止対策を行っているようです。

「徹底しているのは『帰宅後、真っ先に手洗い消毒をする』ことです。これをやらないと長女に叱られるので。私と妻は気を付けていますが、長男と次男はよく怒られています。食事は同じ時間帯に在宅している家族で一緒に取りますが、じか箸が禁止になって、取り箸を添えるようになりました。

とはいえ、そこまで厳密な対策をしているわけではありません。家の中でマスクをしているわけでもありませんし、長女が『うちの中でも感染予防をしっかりやる』と宣言してから1週間ほどはドアノブの消毒を続けていたのですが、消毒液を数日間切らしてしまったことをきっかけにやめてしまいました。結構な手間だったので、あのような対策は家族全員で高い意識を共有していかないと続けるのは難しいのではないかなと思います」(Bさん)

 感染予防を主導する人が家族に1人いるだけで、そうではない家庭に比べて意識は高くなりそうです。とはいえ、Bさんの家では、長女以外の意識がそこまで高くないようなので、「意識の差」によって生じる難しさをBさんは肌で感じる日々です。

予防意識が育ちやすい家庭も?

 親が近くに住んでいる場合はどうでしょうか。Cさん(42歳、男性)は2世帯住宅に妻と自身の両親が住んでいます。玄関や水回りは別々ですが、コロナ禍以前は両世帯間で頻繁に行き来がありました。

「僕と妻の帰宅時間が遅くなりがちで、両親の家で、母が用意してくれた食事を取ることが多かったです。昨年の緊急事態宣言中はそれを自粛するようになり、緊急事態宣言解除とともに復活して、第2波が来たあたりから、またピタリとやめました。昨年11月ごろからは一切、顔を合わせていません。新年のあいさつはラインで済ませました。

妻は接客を伴う仕事をしていて、『万が一、私から義父や義母にうつしたら』と特に心配してくれているみたいです。確かに、両親はもう高齢なので、感染して重症化するリスクを考えると会わないのが今は賢明だと思います」(Cさん)

 このように、家族の年齢によって危機管理の意識は変わってきそうです。先述した「家庭内感染の予防はほぼ行っていない」というAさんの世帯とCさんの世帯を比べると、その差が顕著に見て取れます。

 家庭内感染の予防意識が育ちやすいライフスタイルの家庭というのもあるようです。Dさん(43歳、男性)は3人家族で、妻と高校3年の息子がいます。

「私の仕事は出張や残業が多く、帰宅して1人で食事を取ることは珍しくありません。妻はパートに出ていて、遅番の日は夜に在宅していません。息子は1人自室で過ごすのが好きで、加えて、今年は大学受験なので塾通いや自室学習で忙しくしています。つまり、お恥ずかしい話ですが、現状、家族で顔を合わせる機会が他の家庭に比べておそらく少ないのです。

そのせいだと思いますが、お互いに『感染させないようにしよう』という意識が育っていて、会話するときは口を手で覆うといった配慮をしています。受験を控えた息子にうつすことは何としても避けたいので、そこは私と妻ともども細心の注意を払っています。現在、実践している予防策は『食事は別々の時間に取る』『寝室は別』『小まめな換気と手洗い』『台所やトイレなどの共用タオルを廃止して、個人用のタオルを使う』などです」(Dさん)

 日々、顔を合わせる家族を相手に感染防止対策をするのは大変ですが、Dさんの場合は「たまにしか会わない」からこそ緊張感をもって取り組めるというケースです。コロナ禍においては、いい意味で“家族であっても他人”という距離感が感染防止に功を奏しています。

 各家庭の事情があるので、家庭内感染の予防の在り方はさまざまです。理想とされる100点満点の予防を実践するのは難しくても、家族の面々が納得のいく範囲で予防が行われている家庭が多いようです。

(フリーライター 武藤弘樹)

武藤弘樹(むとう・こうき)

フリーライター

早稲田大学第一文学部卒。広告代理店社員、トラック運転手、築地市場内の魚介類卸売店勤務などさまざまな職歴を重ね、現在はライターとミュージシャンとして活動。1児の父で、溺愛しすぎている飼い猫とは、ほぼ共依存の関係にあるが本来は犬派。趣味はゲームと人間観察。

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