オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

クラスター多数発生 「ブレークスルー感染」とは何か 注意点を解説

2回目の新型コロナワクチンを接種後、2週間を過ぎてから感染する、いわゆる「ブレークスルー感染」によるクラスターが病院や介護施設で相次いでいます。ブレークスルー感染は何が問題なのでしょうか。

ブレークスルー感染対策、マスクは今後も?
ブレークスルー感染対策、マスクは今後も?

 新型コロナウイルスの新規感染者数が全国的に減少し、19都道府県に出されていた「緊急事態宣言」と8県に出されていた「まん延防止等重点措置」が9月30日をもって、それぞれ解除されました。そんな中、2回目の新型コロナワクチンを接種して、2週間を過ぎてから感染する、いわゆる「ブレークスルー感染」によるクラスターが病院や介護施設で相次いでいます。

 そもそも、新型コロナワクチンを2回接種すると「感染しても重症化しにくい」といわれていますが、では、ブレークスルー感染は何が問題なのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

無意識のうちに二次感染、重症化はまれ

Q.新型コロナワクチンを2回接種すると「感染しても重症化しにくい」といわれていますが、ブレークスルー感染の場合、ワクチン未接種時での感染よりも症状は軽い傾向にあるのでしょうか。

森さん「これまでに発表された各都道府県の集計によると、ワクチンを2回接種後、一定期間経過した人の感染、いわゆる、ブレークスルー感染は軽症か無症状のケースがほとんどです。

国立国際医療研究センターは9月29日、全国の医療機関の報告を基に、7月1日から9月22日までに新型コロナウイルスによって入院した患者3417人のデータを分析した結果、ワクチンを2回接種していた人は307人(うち、接種後2週間以上経過していたことが明らかな人は54人)だったと発表しました。入院が必要になるケースが少ないことが分かります。

しかし、重症化や死亡の報告もされています。例えば、東京都の調査では、9月21日時点の都の基準による重症者152人のうち、ワクチン2回接種済みの人は5人と報告されています。8月1日から9月20日に亡くなった484人を対象にした調査では、ワクチン接種歴が判明した412人のうち、2回接種済みの死亡者は49人と発表されました。

また、大阪府による6月1日から8月29日の新規陽性者6万5066人を対象にした調査では、2回接種後、14日以上経過してから発症した920人のうち、重症化したのは3人(1人は亡くなったため、死亡と重複)、死亡は2人と報告されています。愛知県による9月3日時点の重症者81人のワクチン接種状況の分析では、5人が2回接種済みだったことが明らかになっています。

このように、ワクチンを2回接種した後でも重症化したり、亡くなったりする可能性もあります。多くは基礎疾患があったことや高齢であったと報告されていますが、先述の国立国際医療研究センターの分析によれば、65歳以上の高齢者で比較した場合、ICU(集中治療室)での治療を必要とした割合が、ブレークスルー感染の場合はワクチン未接種者の8分の1、死亡は3分の1に抑えられたことが分かりました。

傾向としては、ワクチン未接種時より重症化は少なく、症状は軽いといえるでしょう。海外でも同様の傾向で、イギリスやアメリカの報告でも、ワクチン2回接種後の感染については『健康上のリスクが高くなければ、重症化や死亡は防げている』という見解が示されています」

Q.現状では、2回のワクチン接種により、重症化が抑えられているということですが、ブレークスルー感染で注意すべきことについて、教えてください。

森さん「重症化しにくい分、無意識のうちに周囲の人に感染を広げてしまう可能性があることに注意してください。ブレークスルー感染による感染拡大については、排出するウイルス量に関する複数の報告が海外からもあり、国立感染症研究所は『未接種者に比べ、相対的にリスクは低下している可能性はあるものの、二次感染を引き起こし得る』という見解を示しています。

そして、無症状か、発症してもワクチン未接種者より症状が軽い人が多いブレークスルー感染では、感染していることに気が付かずに周囲に感染を広げてしまう可能性があることが問題として指摘されています。ワクチンを2回接種している人であれば、例えば、この時期の鼻水や喉のいがらっぽさ程度では、新型コロナウイルスの感染を疑うよりも『季節の変わり目で急に気温が下がってきたせいかな』と軽い風邪を疑う人の方が多いのではないでしょうか。

そうした『発見されていない感染者』が普段と同じ行動を取ることによって、確率は高くないものの、二次感染によるクラスターが発生したり、潜在的な感染が広がったりする可能性があります。ブレークスルー感染した人からの感染が拡大すると、ワクチン未接種の人や、今のところ、ワクチン接種ができない12歳未満の子どもが感染し、場合によっては重症化する恐れもあります。

そのため、少しでも体調がおかしいと思ったら、医療機関などに相談し、積極的に検査を受けるよう、専門家は呼びかけています。特に生活空間を共にする家庭内や学生寮、社員寮などでの感染拡大には注意が必要です」

Q.病院や介護施設で、ブレークスルー感染によるクラスターが相次いでいます。今後もブレークスルー感染によるクラスターが続出すると、どのような影響があるのでしょうか。

森さん「2回接種後、14日以上経過した人に重症化が少ないとはいえ、病院や介護施設には、そもそも、重症化リスクが高いとされる基礎疾患のある人や高齢者が多いため、クラスターを発生させないよう、注意する必要があります。また、24時間体制で多くの職員が交代で働く病院や介護施設では、感染者と濃厚接触者が一定期間の『隔離』で職場から離れることによって、治療やケアに携わる人員が足りなくなることが懸念されます。

さらに、病院や介護施設は地域密着型の施設が多いので、職員が同時に複数感染することによる地域への影響も考えられます。職員から、その家族、さらに学校や保育施設などに感染が広がれば、学級閉鎖や休校、休園などの対応が必要になったり、あるいは地域全体に広がれば、保健所の業務や医療機関の病床が逼迫(ひっぱく)したりする可能性もあります」

1 2

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

コメント