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新型コロナ「50代問題」って? 若年層の感染者、重症者は増えていくのか

新型コロナウイルスの感染が再拡大している東京都で、小池百合子知事が「50代問題」という表現をしました。「50代問題」とは、何なのでしょうか。

小池百合子知事(2021年7月、時事)
小池百合子知事(2021年7月、時事)

 新型コロナウイルスの感染が再拡大している東京都で、小池百合子知事が「50代問題」という表現で事態の深刻さを指摘しています。50代の重症者増加を懸念しての表現のようですが、一方で、40代や、さらに若い世代の重症者の割合も増えているようです。今なぜ、現役世代の感染、重症化が問題となっているのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

傾向は一時的か、長期的か

Q.そもそも「50代問題」とは。

森さん「現在、東京都の新型コロナウイルス感染の中心が若年層と中年層に移り、新規感染者の90%前後が50代以下であること、新型コロナで入院している患者のうち、50代の割合が最も高いことなどから、小池知事が7月8日の臨時記者会見などで『50代問題』という言葉を発しました。“第5波”とも言われ始めた今回の感染再拡大は入り口に立った段階で、『50代問題』とされている傾向が一時的なものか、長期的なものかは分かりません」

Q.50代の感染者、入院者の割合を具体的に教えてください。

森さん「7月15日の『東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議』によると、新規感染者のうち、最も多いのは20代で30.9%です。50代は12.1%で、この割合は30代(20.4%)、40代(18.3%)より低い数字です。

一方、入院患者については50代が約21%を占め、最も多くなっています。今年1月に新規陽性者のピークを迎えた“第3波”では、入院の6割以上は60代以上で、50代は約16%(1月7日のモニタリング会議より)、5月にピークを迎えた“第4波”では、50代以下の入院増加が指摘されたものの、約18%(5月13日同)であったことから、現時点でそれより高い割合であることが分かります」

Q.なぜ、50代の入院者の割合が高まっているのでしょうか。

森さん「新型コロナのワクチン接種は、高齢者から優先的に実施されています。東京都では65歳以上の52.1%が2回接種を完了(7月15日時点)、77.5%が1回は接種している(同)ので、その効果によって発症や感染が抑えられ、結果として、全体における60代以上の感染や入院の割合が低くなり、ワクチン未接種者が多い50代以下の割合が高くなっていると考えられています。

また、50代の入院や重症者が多い理由として、一般的に、症状が悪化するリスクが50代は高いということも考えられます。例えば、『肥満』は50代男性で約4割(2019年、厚生労働省『国民健康・栄養調査報告』)、『喫煙者』は50代男性の33%(2018年、日本たばこ産業による調査)で、『糖尿病』も50代から多くなることが分かっています。これらは新型コロナの重症化リスクが高まる要因とされています。

また、感染拡大防止のためにテレワークが推奨されていますが、昨年4月の緊急事態宣言発令以降の働き方を尋ねたさまざまな調査で、『勤務先へ出社している』と回答した人の割合が50代は他の年齢層より高く、7割以上と報告されたものもあります。テレワーク等の頻度が低く、人と人との接触が日常的に多いことに加え、感染し、発症した場合に悪化するリスクが高い年代であるため、入院が必要になる50代が多いと考えられます。

しかし、『50代』とひとくくりにしていますが、40代に近い人から60代に近い人まで幅があるわけで、この年齢をあえて区切って『50代問題』と表現するのが適切なのか、個人的には疑問を感じます」

Q.40代の感染者や重症者、若者の感染者や重症者の割合も増えているといわれます。

森さん「東京都の新規感染者は20代と30代で半数を超えていますが、40代の割合も高いことが5月以降、モニタリング会議などで指摘されています。東京都では『人工呼吸管理が必要な患者』を重症者と定義していますが、40代の重症者数が“第3波”や“第4波”と比較して、現時点で大きく増えているということはありません。ただ、重症者の数は遅れて増加するため、今後増える可能性はあります。

7月15日のモニタリング会議の時点では、重症者54人のうち、40代は5人と発表されました。同程度の人数の報告が続いていますが、重症者全体の数がこれまでのピーク時より抑えられているため、割合としては高くなっています。一方、東京都では6月後半から、30代の重症者が、7月に入ってからは20代の重症者も継続的に報告されるようになりました。7月12日には、基礎疾患のない10代未満の重症者も報告されています」

Q.若年層の重症化が増えてきている理由は。

森さん「これまで、若年者の重症化はまれでしたが、東京都で急速に置き換わりが進んでいる『デルタ株(L452R変異)』の影響によるものだろうと考えられています。全世代で重症化する可能性があること、また、若年で基礎疾患がなくても肥満や喫煙が重症化のリスクになることなどへの注意が呼び掛けられています。

また、7月8日のモニタリング会議では『若年者では、症状が出てから受診までに時間がかかっている傾向』があるとの指摘がありました。発熱外来で診療する医師からも『外来に来てPCR検査をする段階で、すでに肺炎症状が進んでいる人が少なくない』『コロナが確定するのを恐れ、あるいは隔離を避けたいという思いから、なかなか受診せず、自宅で体調が悪化して、緊急で受診する若年者が一定程度いる』といった話を聞きました。

治療が必要な人の入院が遅れると重症化につながるため、こうした傾向も重症化の一つの理由となっているのかもしれません」

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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