新型コロナ「全数把握」見直しで何が変わる? 「きょうの新規感染者数」発表はなくなるの?
新型コロナウイルス感染者の把握方法について、政府は8月24日、「全数把握」の方法を見直す方針を表明しました。実際には、何がどう変わるのでしょうか。
新型コロナウイルス感染者の把握方法について、政府は8月24日、「全数把握」の方法を見直す方針を表明しました。実際には、何がどう変わるのでしょうか。懸念はないのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。
総数、年代別人数の報告は継続
Q.これまでの新型コロナウイルス感染者の「全数把握」とは、具体的にどのような方式で、どんな情報を集めていたのでしょうか。
森さん「『全数把握』とは、『感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)』に基づく施策として位置付けられた『感染症発生動向調査』の方法の一つです。全ての医師が全ての患者の発生について届け出を行う『全数把握』と、指定された医療機関が患者の発生について届け出を行う『定点把握』があります。『定点把握』の対象となる疾患は季節性インフルエンザなどです。
新型コロナウイルス感染症は、周囲への感染拡大防止を図る必要性が高いと考えられることから『全数把握』の対象となっていて、医師が患者を診断した場合、厚生労働省令が定める内容について直ちに保健所に届け出ることが義務となっています。
届け出は、『発生届』という指定の届け出様式に記入することが求められていて、記入と報告をオンラインで行えるようにしたものが『HER-SYS(ハーシス=新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)』と呼ばれるシステムです。
発生届には、診断した医師名/医療機関の名称や所在地等と、診断された患者の氏名/フリガナ/生年月日/診断時の年齢/住所/電話番号/未成年の場合は保護者の氏名と電話番号を記入し、診断や検体採取の年月日/発病の年月日/ワクチン接種回数と直近の接種年月日/ワクチンのメーカー名/重症化リスクとなる基礎疾患の情報/診断時の重症度/入院の必要性の有無―を記入します。
こうした情報をもとに自治体は感染動向を把握し、保健所は健康観察や入院の調整等を行います。また、届け出られた情報は、保健所からオンラインシステムで都道府県を経由して厚生労働省に報告されます。それらを専門家が分析し、予防、診断、治療等に関する対策が検討されます」
Q.今回の見直しによって、何が変わるのでしょうか。
森さん「発生届による報告が必要になる対象が変わります。岸田文雄首相が示した見直しの方針では、発熱外来や保健所業務が相当に逼迫(ひっぱく)した地域においては『緊急避難措置として、対象者の範囲を高齢者/入院が必要な人/重症化リスクがあり治療薬投与が必要な人/妊婦等に限定することが可能』と示されました。
それ以外の感染者については、総数と年代別の人数の報告が求められます。この全数把握の見直しについて、当面は各都道府県の判断としていますが、環境が整備された段階で全国一律で導入する方針であることも8月27日に改めて首相の発言によって示されました」
Q.新聞などには毎日、各都道府県別の新規感染者数が載っていますが、この元となる情報は継続するのでしょうか。
森さん「先述の通り、感染者数の総数と年代別の総数は保健所から自治体に報告されることになるので、都道府県による毎日の新規感染者数の公表は継続可能と考えられます。新聞などに掲載するかどうかは各社の判断でしょう」
Q.今回の見直しによって、期待されることと懸念されることを教えてください。
森さん「新型コロナウイルス感染症の診断を担う発熱外来や、保健所の業務負担を軽減することが期待されます。
発生届の入力は電子カルテ等とは連携していないため、一項目ずつ入力が必要です。オミクロン株のように感染が急拡大すると発熱外来には受診を希望する人が急増し、検査陽性となる患者も多くなるため、通常診療と発熱外来に加え発生届の入力作業が多数発生します。
さらに医療機関ではワクチン接種を担当している場合もあり、特に医師1人体制の診療所等では、時間外労働が続く医師や医療スタッフの疲弊が問題となっていました。また、状況によっては手書きで記入しファクスで保健所へ送られるケースもあり、その場合は保健所が『HER-SYS』に代理入力する必要があります。見直しによって、各所が発生届の入力に費やす時間を一定程度は減らせるのではないかと考えます。
懸念されるのは、発生届の対象外となった感染者の健康観察や、支援が届きにくくなることです。自宅療養中あるいは宿泊施設療養中の人の健康管理は、おもに『My HER-SYS(マイ ハーシス)』というシステムによって行われています。このシステムを利用するには、医師がHER-SYSで発生届を提出する際のMy HER-SYSの設定と、電話番号(メールアドレス)と生年月日の登録が必要です。
保健所はこれをもとに感染者とコンタクトを取るため、発生届が限定された場合にこの部分が機能しなくなる懸念があります。症状が悪化した際に、医療相談や医療機関の紹介、入院調整等がスムーズに行われることは重要です。また、対象から外れる自宅療養者がオンライン診療や薬の処方を受けた場合の公費負担の対応、療養証明書の発行等にも課題が残ります。
さらに、『緊急避難措置的に』見直すことによって、従来の全数把握によってできていた新型コロナウイルス感染症に関するさまざまな分析ができなくなることは、感染症の科学的知見の集積という点において、目的を果たせなくなる可能性もあります」
Q.行政のフォローを受けにくくなる可能性のある人は、どのように対応したり、備えたりすべきなのでしょうか。
森さん「全数把握の対象を限定した場合に軽症の自宅療養者等がどうフォローされるかは、自治体の今後の決定に委ねられます。住んでいる市区町村のホームページなどで随時更新される情報を確認するようにしてください。
いずれにしても、自分が高齢者でなく重症化リスクも低いと考えられる場合は、あらかじめオンライン診療や往診等の医療へのアクセスに関する情報を調べておくこと、外出できない状況が数日間続いても困らない程度の食料品(缶詰、レトルト食品、冷凍食品、フリーズドライ食品など長期保存可能なもので、体調が悪くても食べやすいもの)や日用品を常備しておくことなどが、感染した際の備えになると思います」
(オトナンサー編集部)
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