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会社「副反応は困るからワクチン接種するな」→クラスター発生、法的責任問える?

新型コロナのワクチンについて、「副反応で業務が滞ると困るので、接種をしないように」と指示する上司や会社があるようです。法的に問題はないのでしょうか。

新型コロナウイルスのワクチン(2021年5月、AFP=時事)
新型コロナウイルスのワクチン(2021年5月、AFP=時事)

 新型コロナウイルスのワクチン接種が各地で進んでいますが、「ワクチンの副反応で業務が止まると困るからと、職域接種をやらなかった会社でクラスターが発生し、結局、全面業務停止になった」というSNS上の投稿が話題となっています。副反応とみられる発熱や腕の痛みは多くの人が経験しており、確かに、一時的には業務に支障が出るかもしれませんが、ワクチン接種を避けてクラスターが発生しては本末転倒です。

 職域接種を実施しないだけならまだしも、ネット上では「ワクチンの副反応で業務が滞ると困るので、接種をしないように」と指示する上司がいるとの投稿もあります。そのような指示を上司や会社が出して、接種していない社員が感染し、重症化するなどしたら、上司や会社側の法的責任はどうなるのでしょうか。また、クラスターが発生して業務が停止した場合はどうでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

取引先から賠償請求の恐れも

Q.「ワクチンの副反応で業務が滞ると困るので、接種をしないように」と社員に指示する会社があったり、上司がいたりしたら、その指示に法的問題はあるのでしょうか。

佐藤さん「あります。新型コロナウイルスの予防接種は予防接種法上、麻疹(はしか)や風疹などと同様、『接種を受けるよう努めなければならない』という規定が適用されます。この規定は国が国民に対し、接種の協力を求めるもので、あくまで、接種を受けるか否かについては本人の意思に委ねられています。ワクチン接種を受けるか否かは個人の生命や健康の在り方を決めることであり、『接種しないように』と他者が強制すれば、『自己決定権』をないがしろにすることにもなります。

また、会社は労働者の生命や身体の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をすることが求められています(労働契約法5条『安全配慮義務』)。ワクチンには新型コロナの発症や重症化を防ぐ効果があるため、これを受けさせないよう指示することは安全配慮義務違反に当たる可能性があります。さらに、ワクチン接種の推進は社会全体の要請でもあるため、それと逆行する指示を出すと、会社は法的責任を負うだけでなく、社会的信用を失うリスクも高いです。

確かに、今回のワクチンは高頻度で副反応が出ることが分かっているため、業務への支障が心配な会社もあるかと思いますが、可能な範囲で社員間の接種の日程を調整するなど、社員の意思を確認しながら進めていくことが大切だと思います」

Q.「接種をしないように」という指示を聞かずにワクチン接種を受け、社内ペナルティーを受ける社員がいたら、どうでしょうか。

佐藤さん「先述したように『接種をしないように』との指示はそれ自体、法的問題があるため、無効だと考えられます。従って、指示を聞かずにワクチン接種を受けたとしてもペナルティーの理由がないため、そのペナルティーもまた無効になるでしょう」

Q.会社や上司の指示でワクチン接種を受けなかった社員が新型コロナに感染し、重症化した場合や万が一死亡した場合、会社や上司側の法的責任は問えるのでしょうか。

佐藤さん「損害賠償請求する余地はあるかと思います。例えば、会社側が『接種を受けたら解雇する』などと脅し、それを信じた社員が恐怖心から接種を受けられなかったようなケースでは、企業の違法な指示のせいで、社員の健康や生命への被害が拡大したとして、損害賠償請求が認められる可能性もあるでしょう。

ただし、ワクチン接種を受けるか否かは先述したように、原則、社員本人が決めることです。会社が職域接種をあえて行わず、社員に対して接種しないことを緩やかに勧奨していた程度の場合、接種しなかったことによる健康や生命への被害拡大の責任は社員本人にあるとして、会社の責任が否定されることも考えられます。

感染拡大が進み、集団免疫の獲得が急がれる今、自分自身が接種を希望するのであれば、会社の姿勢にとらわれることなく、接種することが大切だと思います」

Q.「接種回避」の指示が出ていた会社でクラスターが発生し、多くの社員が出社できなくなって業務が停止、業績に影響が出て、結果的に社員の給料に影響したとします。その場合、社員は会社や上司の法的責任を問うことはできるのでしょうか。

佐藤さん「業績の悪化について、社員の側から、会社や上司の法的責任を追及するのは困難かと思います。接種回避の指示と業績悪化、給料への影響がかなり間接的なので、給料減額分を損害として賠償請求するのは難しいでしょう。ただし、経営者の誤った判断によって業績に悪影響が及んだとして、株主が会社に代わって、経営者の責任を追及する訴訟(会社法847条の株主代表訴訟)を起こす可能性はあるでしょう」

Q.先ほどのケースで、当該の会社の業務が停止したことで取引先の業務に支障が出て、損失があった場合、取引先は当該の会社に損害賠償を請求できるのでしょうか。

佐藤さん「取引先が業務を停止した会社に対して、損害賠償請求することは可能です。業務の停止により、当初の契約通りに債務を履行してもらえなかったものと考えられるので、そのせいで生じた損害分を当該会社に対して請求することになります。なお、取引先が、接種回避の判断をした当該会社の経営者に対して、直接、損害賠償請求する道もあります(会社法429条)」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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