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コウモリ、ヘビ、ハクビシン…中国ではなぜ「野生動物」が食べられるのか

新型コロナウイルスの発生源として当初、疑われた「野生動物」。そもそも、中国ではなぜ、コウモリやヘビといった野生動物を食べるのでしょうか。

ハクビシンが食卓に?
ハクビシンが食卓に?

 新型コロナウイルスの確認から、2年がたちました。当初、中国・武漢市の海鮮市場で扱われていた野生動物が発生源として疑われていましたが、いまだに確証はつかめていないようです。そもそも、中国ではなぜ、コウモリやヘビといった野生動物を食べるのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

「4本足のものはテーブル以外何でも食べる」

Q.なぜ、中国では野生動物を食べるのでしょうか。

青樹さん「『中国人は、4本足のものはテーブル以外何でも食べる』という言葉があるくらい、中国人の食に対するこだわりは世界で抜きんでています。おいしい食材への飽くなき探求心を持っているのです。その『終着点』が野生動物かもしれません。

清朝時代の宮廷料理で『満漢全席』という宴会様式があります。数日間かけて、100種類を超える料理を食べたといわれています。現在、当時と同じ満漢全席はありませんが、それに近い宮廷料理を出す店はいくつかあり、メニューの価格を決めるのは珍しい食材があるかどうかです。

調理法よりも、とにかく、食材がいかに珍しいか、いかに珍味を集めるかで料理の格や値段が決まってくるのです。珍味も山のもの、陸のもの、海のものとさまざまで、日本人の想像を超えたものもあります。珍しいものを食べたいという終着点が野生動物です。お金がないとできないぜいたく、お金持ちになって、初めて食べられる食材なのです。

また、漢方薬は何千年も前からありますが、野生のものを使っている薬が多いです。新型コロナで当初、感染源といわれた市場の中でも、漢方薬の材料という観点で売られていたものがあるかもしれません。漢方の考えでは『野生のものの方が、免疫力が高まるので薬に適している』とされるからです」

Q.どのような野生動物を、どんな料理にして食べるのでしょうか。

青樹さん「コウモリは東南アジアでも食用にされますが、中国では主にスープで食べるそうです。ヘビは広東省では高級食材として珍重されます。『ゾウの鼻の輪切り』という料理も聞いたことがあります。ハクビシンも以前、話題になりましたね。どんな野生動物も基本的には熱を加えて食べますが、ヘビに関しては、刺し身で食べる地域もあると聞いたことがあります」

Q.野生動物を扱っている市場はどんなところなのでしょうか。一般の人も多く利用するのですか。

青樹さん「市場自体は一般の人も多く利用します。街にはスーパーマーケットもありますが、野菜や魚、肉を買うときは、ほとんどの人が市場に行きます。鮮度が違うからです。私自身も中国で生活していたとき、時間さえあれば、スーパーより市場に行きました。野菜や果物は市場の方が安く、断然おいしかったです。

市場は農村の人がその日に取れたものを売っています。流通経路を通ってスーパーに並んだ食材と比べ、とても新鮮なのです。お肉の場合、スーパーでは加工されたものですが、市場ではその場で処理されたものを購入できます。1970年代くらいまで、鶏肉といえば、まず、生きているニワトリを市場で買って、それを自分でさばいて料理するのは当たり前でした。

1980年代後半まで、中国では冷蔵庫のない家庭も多かったのですが、これは中国人が冷たい食べ物、飲み物が嫌いということに加え、市場で新鮮な食材を買って、その日に料理するので、冷蔵庫がなくてもよかったからです。都会で仕事をしている子どものところへ親が田舎から行く場合、生きたニワトリを手土産に持っていくのも文化の一つでした。そんな市場の中に、野生動物を扱う店もあるということです」

Q.野生動物は、どんな味なのでしょうか。

青樹さん「SARS(重症急性呼吸器症候群)はコウモリを食べたハクビシンが感染源と言われていますが、当時、『なぜ、ハクビシンを食べるのか』というインタビューに、ある中国人がこう答えていました。『なぜ食べるか? おいしいからに決まってるからだろ!』。私自身はハクビシンもコウモリも食べたことはありませんが、食はそれぞれの国の文化なので、私はいただきません(笑)と言うしかないです。

現在、中国人に大人気の『おすし』ですが、長い間、『魚を生で食べるのは気持ち悪い』と言われていました。動物ではありませんが、アリの炒めものは昔、口にしたことはあります。文化大革命時代の料理を再現するレストランで、当時の農村で食べられていた貧しい料理の一つとして出てきたのですが、口の中がちくちくして、おいしくなかったです」

Q.新型コロナの流行後も、野生動物を食べる習慣は続いているのでしょうか。

青樹さん「SARSの後も、感染源とされたコウモリやハクビシンの流通は続いています。取り扱い方など、SARSのときの負の記憶が生かされていません。新型コロナの流行で、今後、取り扱いなどの規制は強化されていくでしょうが、中国人の食習慣から、野生動物がなくなるとは考えられません。中国人の中には熱烈なファンがいますし、漢方薬の材料にもなっているので、完全になくすのは難しいと思われるからです」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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