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猛暑の中で仕事するともらえる中国の「高温手当」とは? 目的は? 専門家に聞く

中国では気温が35度以上のときに屋外で働くなど一定の条件をクリアすると、「高温手当」というものが支給されるそうです。どのようなものなのでしょうか。

「高温手当」とは?
「高温手当」とは?

 日中の最高気温が35度を上回る「猛暑日」が珍しくなくなっています。日本でもこうした日に屋外で働く人は大変ですが、中国では気温が35度以上のときに屋外で働くなど一定の条件をクリアすると、「高温手当」というものが支給されるそうです。どのようなものなのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

経済成長のスピード維持するため

Q.中国で支給されている「高温手当」とは、どのようなものですか。

青樹さん「簡単に言うと、ある一定の高温状態で仕事をする場合に、労働者に支払われる手当のことです。以前は制度化されていなかったものを2012年に中国政府が『防暑降温措施管理法』という法律を制定し、高温手当の支給が法律で決まりました。『最高気温が35度以上のときに屋外で労働する場合、また、屋内であっても33度以下にならない環境で労働する場合は、労働者に高温手当を支給しなければならない』という内容です」

Q.なぜ、高温手当の支給を法律で決めたのですか。

青樹さん「法律で制定される前までは、高温手当があってもどこか曖昧でした。例えば、冷房があまり普及していなかった数十年前、気温が40度近くになると工場などの操業を停止しなければならないという決まりがあり、そのたびに経済活動に支障が出ていました。そのため、天気予報もめったに気温40度を出さないといううわさもあったほどです。

余談ですが、1970年代~80年代、中国に進出した日本企業が、中国独特の就業形態に戸惑ったという話が多く聞かれました。その中の一つに『夏のアイスキャンデー手当』があります。夏の間は毎日、アイスキャンデーを支給するというものです。工場だと数千人もの労働者がいるので、予算上かなり大きな数字になったようです。

中国は現在も、実質経済成長率5%以上を維持しており、経済発展の道を進んでいます。この経済発展のスピードを止めてはいけないときに、暑いからといって、企業の生産活動などが正常に行われないと経済発展に支障が出ます。また、労働者の健康管理や勤労意欲を低下させないなど、さまざまな条件を整えていく中で出てきた手当と言えます。もちろん、労働者を大切にするという社会主義の理念も根底にあります」

Q.高温手当は、どのような職種の人に、どれくらい支給されているのですか。

青樹さん「屋外で働く労働者とは、主に建設現場で働いたり、道路工事をしたりする労働者が中心です。現在では宅配業者も含まれるかもしれませんね。支給される金額は、中国の行政区分である『省』『直轄市』ごとに異なります。

2022年度でいえば、北京市だと屋外で働く場合は月180元(日本円で約3600円)、屋内で働く場合は120元(約2400円)です。上海市では、2022年度は屋外屋内の区別がなく月300元(約6000円)です。天津市は少々特殊で、前年度の市職員の平均賃金(日割り)の12%、2022年は7478元(2021年度の月給)÷21.75日(労働日)×12%=41元(約820円)となります」

Q.高温手当が支給される期間はどれくらいですか。

青樹さん「これも行政区分ごとに異なります。なぜなら、中国は国土が広大で、北と南の地方で夏の時期が異なるからです。例えば、北京では6~8月、上海では6~9月です。さらに南の地方では、4月か5月から支給が始まるところもあります。

ただ、私も『高温手当』というものがあることは聞いたことがあるのですが、実際に『いくらもらった』という話は聞いたことがありません。中国でも『聞いたことはあるけどもらったことはないよ』という声もあります。

中国では、法律で決まっていることと、法律の内容が実行されているのかは、別問題です。手当を支払うかどうかは、最終的には企業のモラルでもあるので、手当を受け取ることができていない人もいるかもしれません。あるいは、高温手当が支払われている人でも、あらかじめ給料に含まれていて分かりにくいのかもしれません。日本の考え方の物差しで中国を見ると、本当の姿を見誤ってしまう恐れもあるのです」

(オトナンサー編集部)

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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