マックの「貧乏人セット」が大ヒット、両親から給料をもらい「子ども業」に専念…中国の若者が直面する“負け組人生”の実態と背景
近年「売り手市場」が続く日本に対し、若者たちが就職難にさらされているという中国。今、中国で何が起きているのか、中国社会情勢専門家が伝える実態とは――。

近年、就活市場において、学生優位の「売り手市場」が続いている日本。厚生労働省と文部科学省の発表によると、2025年春に卒業した大学生の就職率(4月1日時点)が98.0%に上り、調査開始以来、過去2番目の高さを記録。初めて2年連続で98%台となるなど、就職率が過去最高レベルに達しています。
一方で、中国の若者たちは「就職難」にさらされています。中国在住歴のあるノンフィクション作家・中国社会情勢専門家の青樹明子さんは、「『いい大学を出さえすれば、いい仕事に就ける』と信じ、死ぬ思いで受験戦争を闘ってきた若者たちに異変が起きている」と話します。そして、かつて日本でも流行した「勝ち組・負け組」と同じような現象が今、中国でみられる――とも。
今、中国の若者たちに何が起きているのか。専門家の視点から、彼らが直面する“負け組人生”の実態と、社会的背景を見つめます。
受験戦争後に待ち受ける「就職戦争」
毎年6月7日・8日は、中国で「高考」と呼ばれる大学入試が行われます。競争は熾烈(しれつ)で、1952年は5万人だった大学入試の受験申込者数は年々増え、今年2025年は1335万人でした。
中国の若者たちは死ぬ思いで受験戦争を闘っていますが、激烈な闘いを生き抜いた後に彼らを待つのは「就職戦争」です。
中国はゼロコロナ政策で、コロナ感染者を徹底的に抑え込んできました。言うまでもなく、これは社会の動きを止めて初めて得られた成果です。生産も消費も停滞する中、中国全土で倒産が増え、給与削減、人員カットが続きました。感染を怖がって病院に行かなくなったので、病院ですら倒産に追い込まれるという事実に、人々は震撼(しんかん)したものです。この状況に不動産不況が加わり、就職状況は悪化の途をたどらざるを得なくなりました。
「いい大学を出さえすれば、いい仕事に就ける」という希望だけで受験戦争に耐えてきた若者たちですが、その指標が崩れると、アイデンティティーをも失いかねません。巻き起こる社会不安を察知したためか、中国国家統計局は、2023年8月から若者の失業率データの発表を停止し、同年12月に「学生を除く」という新たな定義で公表を再開しました。その結果、2025年1月から4月までの全国都市失業率は平均5.2%で、前年同期と変わらなかったと指摘しています(国家統計局、2025年5月19日)。
大学を卒業する現役学生は、今年1222 万人に達するようですが、彼らを震撼させているのは、トップエリート集団の北京大学や清華大学も就職難の例外ではないということです。「大学卒業=失業」という流行語は現実に近いと言っていいかもしれません。公の数字に表れない限り憶測でしかないのですが、超一流大学でさえ、就職が決まっている学生は20%ほどだという話もあります。その他の学生は、配達員などのアルバイトをしながら、就職の機会を狙っているのだそうです。
殺到する公務員試験
中国の若者の失業率は、なぜここまで上昇してしまったのでしょうか。
経済は減速状況が続く中、学生に人気だった旅行業、航空業、不動産業などの景気も軒並み悪化していて、IT関連も募集が減っています。しかし最大の問題は、彼らが“妥協する”ことができない点です。
大学生というのは、一家、ひいては一族、地域の希望と夢を担っているわけで、適当なところで妥協することは許されません。これまで支援してくれた人たちが納得するような職業に就かなければ、恩返しにならないと考えているわけです。
こうした状況下、注目を集めているのが公務員です。
国家公務員は「鉄飯椀」と呼ばれ、食いはぐれることもなく、また面子が立つ職業でもあります。もともと志願者は多くて、中国で最も競争率の高い職業ではありましたが、景気の悪化に伴って、さらに激化しています。
2025年採用の試験は2024年12月に行われましたが、受験者数は雇用先の資格審査を通過した人だけでも341.6万人(前年比約38万人増)でした。この資格審査だけでも競争率は86倍だったようです(央視新聞、2024年10月26日)。
本試験の倍率はさらに想像を超えていて、中国メディアによると、最も激烈となったのは「中華職業教育社連絡部一級主任科員」で、募集人員1人に対して1万6702人が応募、つまり競争率は1万6702倍ということになります。他にも「国家統計局寧夏調査総隊」の募集人員1人に対して3679人、江蘇省税務局の2761倍、国家知識産権局の2人に対して4892人の応募と、とんでもない数字が並びます。
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