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中国には「天津丼」も「冷やし中華」もない! 日本で人気の中華料理と本場中国との“ギャップ”

実は「天津丼」は中国にはない……? 中国における、日本でポピュラーな中華料理の“意外な位置づけ”を専門家が実体験とともに解説します。

天津丼、実は中国にない…?
天津丼、実は中国にない…?

 日本の中華料理店などで人気のメニュー「天津丼」。旅行や出張などで中国を訪れる際に「本場の天津丼が食べたい!」と思ったことがある人も多いのではないでしょうか。

 しかし、中国在住歴のあるノンフィクション作家・中国社会情勢専門家の青樹明子さんは「天津丼という料理は、中国の料理店にはない」と話します。実は、日本で人気の中華料理の中には、本場中国での位置づけが大きな異なるものがあるようです。日本人にとってポピュラーな中華料理を通して、中国の食文化の魅力を探ってみましょう。

天津丼は「中華風料理」

 かなり前の話にはなりますが、中国に赴任が決まった日本人の友人が「本場の中華が堪能できる!」と大喜びで中国に向かいました。しかしながら、「何か違う…」と感じるまでに、大して時間を要しなかったようです。

「中国にはラーメンがない!」「天津丼はどこで食べられるんだ?」「中華丼らしきものがぶっかけご飯と化して路上で食べる弁当になっている!」…すべての中華料理は中国にあって当然だ、と思い込むのは間違いです。

 天津丼は日本発の“中華風料理”なので、中国では町の料理店に存在しません。八宝菜をご飯にかける中華丼も、レストランの正式メニューで見かけることもないようです。似たようなものは屋台の簡易弁当のような形で売られていて、農民工の方々が路上で座って召し上がっているイメージです。

 中国の麺類は、食事の最後に出てくる主食です。麺にコシがなく、くにゃっとやわらかい上、味は薄めで、「お湯に麺が浮いているようだ」と嘆く人も少なくありません。日本式ラーメンに慣れた日本人には、衝撃的な中国式麺料理です。

 ギョーザは今でこそ「焼きギョーザ(鍋貼:グオティエ)」としてメニューに並ぶようになりましたが、これは日本からの逆輸入です。中国でギョーザといえば「水ギョーザ」のことで、焼きギョーザは前の日の残りを焼いて食べたことが始まりといわれています。

 日本人の夏の味覚に欠かせないのが「冷やし中華」ですが、これも中国では見かけません。あり得ないといってもいいくらいで、中国では、冷たいものは「残飯」のように考えられています。

 最近では中国人にも人気の日本式「お弁当」ですが、少し前まで、中国人はこうした冷たいものを食べることができませんでした。日本の家庭でホームステイをしていた某中国人留学生は、ステイ先のお母さんが毎日作ってくれる「冷たいお弁当」をどうしても食べることができず、でもそれは“お母さんの心づくし”というのは分かっているので、いらないとも言えず、結局毎日こっそり捨てていた……という話もあります。

 東洋学園大学教授の朱建栄先生から聞いた話ですが、文化大革命の時代、農村に下放(かほう)され集団生活を送っていた先生は、あるとき、厨房で巨大な鍋が2つ、料理をぐつぐつ煮ているのを見かけたのだそうです。一つは自分たちの食事だったのですが、もう一つの鍋は何だろうと不思議に思ったといいます。後で聞くと、それは豚の餌だったのだそうです。中国では豚の餌も温めているわけです。

 時代が変わり、日本食の世界的流行に伴って、日本の「冷たいお弁当」や、コンビニの「冷たいおにぎり」が知れ渡り、中国人の認識もかなり変わってきましたが、基本的に温かいものを好む傾向に変わりはないようです。

【実際の写真】「えっ…ちょっとグロいかも…」 これが海外の市場に並ぶ生々しい「レバー」です(やや閲覧注意)

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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