オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

100人超が下痢も…ホテルで「集団食中毒」相次ぐのはなぜ? 熱に強い“恐ろしい菌”の正体とは

ホテルや旅館などで集団食中毒が相次ぐのはなぜなのでしょうか。医師に聞きました。

ホテルで集団食中毒が相次ぐのはなぜ?(画像はイメージ)
ホテルで集団食中毒が相次ぐのはなぜ?(画像はイメージ)

 春以降、ホテルや旅館などで集団食中毒が相次いでいます。長野県が6月19日、県内のホテルでウェルシュ菌による集団食中毒が発生したと発表しました。メディアによると、高校生と教員計110人が腹痛や下痢などの症状を訴えたということです。

 こうした情報に対し、SNS上では「最近多いな」「食中毒怖い」「人ごとじゃない」などの声が上がっています。事業者側も細心の注意を払っているとは思いますが、なぜ食中毒が発生してしまうのでしょうか。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(大阪市天王寺区)院長で総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医の安江千尋さんに聞きました。

煮込み料理で増殖するウェルシュ菌に注意

Q.なぜホテルや旅館などで集団食中毒が相次いでいるのでしょうか。考えられる原因について、教えてください。

安江さん「ホテルや旅館などで集団食中毒が相次いでいる背景には、気温や湿度の上昇に加え、人の移動や外食の機会の増加、大量調理という施設特有の環境など、複数の要因が重なっています。

特に5月以降は気温が高くなり始め、細菌が増殖しやすい時期です。梅雨から夏場にかけては、食品中で細菌が短時間で増殖するため、食中毒のリスクが高まります。また、旅行シーズンや連休などで宿泊客や利用者が増えることも、集団食中毒が発生しやすくなる要因の一つです。

集団食中毒の原因となる病原体には、細菌とウイルスがあります。

代表的なものが『ノロウイルス』です。ノロウイルスは冬のイメージが強いかもしれませんが、年間を通じて発生します。感染した調理従事者が無症状あるいは軽症で勤務を続けた場合、手指を介して食品が汚染され、多数の利用者に感染が広がることがあります。少量のウイルスでも感染力が強いため、大規模な集団発生につながりやすいのが特徴です。

また、鶏肉に付着していることが多い『カンピロバクター』も食中毒の代表的な原因菌です。加熱不十分な鶏肉や、調理器具を介した二次汚染によって感染します。発症までに2~5日程度かかるため、原因となった食事に気付きにくいこともあります。

さらに、大量調理施設で注意が必要なのが、熱にも強い『ウェルシュ菌』です。カレーや煮込み料理などを大量に作り、十分に冷却しないまま保存すると、加熱後も生き残った菌が増殖してしまうことがあります。ホテルや旅館での大規模な食中毒では、ウェルシュ菌が原因となるケースも少なくありません。

その他にも、生卵や加熱不十分な肉に関連するサルモネラ菌、調理した人の手指から食品に移る黄色ブドウ球菌などが原因になることがあります」

Q.なぜ家庭ではなく「プロであるはずの飲食店やホテル」で、これほど大規模な集団食中毒が防げないのでしょうか。

安江さん「『プロなのになぜ食中毒が起きるのか』と疑問に思う人も多いかもしれません。しかし、ホテルや飲食店での集団食中毒は、必ずしも衛生管理の不備だけが原因ではありません。

家庭と最も異なるのは、一度に調理する量と提供する人数です。家庭では数人分の食事を作りますが、ホテルや旅館では数十人から数百人分を一度に調理します。そのため、もし一部の食品が汚染されていた場合、同じ料理を食べた多くの人が同時に発症してしまいます。

また、先述したノロウイルスのように感染力の強い病原体では、調理従事者本人に症状がなくても食品を汚染してしまうことがあります。本人は『少し体調が悪いだけ』と思っていても、ウイルスは便中に大量に排出されていることがあり、手指を介して食品に付着することで集団感染につながります。

さらに、大量調理では温度管理も重要です。カレーや煮込み料理などを一度に大量に作ると、中心部まで十分に冷えないまま保存され、ウェルシュ菌などが増殖することがあります。これは家庭では起こりにくく、大規模施設ならではのリスクです。

ホテルや旅館で一度食品が汚染されると、同じ料理を多くの人が口にするため、被害が一気に拡大してしまいます。決して『衛生管理が甘い施設だから起こる』というわけではなく、どれだけ注意していても、調理従事者の体調不良やわずかな温度管理の不備などが重なることで発生しうるのが食中毒の怖いところです。

このように、どれだけ注意していても、人が関わる以上、完全にゼロにすることは難しいため、施設側は日々厳重な衛生管理を行っています。それでも、わずかなミスや体調不良が重なれば、大規模な食中毒につながる可能性があるのです」

Q.ホテルや旅館などの利用時にできるだけ集団食中毒に巻き込まれないためにできることはありますか。

安江さん「利用者側でできる対策には限界がありますが、いくつかのポイントを意識することでリスクを減らすことができます。まず、食事の前にはせっけんによる手洗いをしっかり行いましょう。ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくいため、流水とせっけんによる手洗いが基本です。

また、生ものや加熱不十分な食品に注意してください。ビュッフェでは長時間常温に置かれた料理はできるだけ避け、提供されたら早めに食べることも重要です。生焼けの肉や半生の鶏肉は避け、十分に加熱されたものを選びましょう。

自分自身が下痢や嘔吐(おうと)などの症状がある場合は、ビュッフェや会食への参加を控えることも大切です。本人が軽症でも、ノロウイルスなどを周囲に広げてしまう可能性があります。

特に高齢者や小さな子ども、基礎疾患のある人は重症化しやすいため、食事内容や衛生面に十分注意することが大切です。食中毒は誰にでも起こり得る身近な感染症であり、『自分だけは大丈夫』と過信しないことが予防の第一歩といえるでしょう」

Q.ホテルのビュッフェや旅館の食事で、特に注意すべきメニューはありますか。

安江さん「特に注意したいのは、加熱が不十分な肉料理や生ものです。鶏のたたきやレア状態の鶏肉はカンピロバクター感染の原因となりやすく、少量でも感染することがあります。

また、生卵や加熱不十分な卵料理はサルモネラ菌のリスクがあります。刺し身や生ガキなどの二枚貝も、ノロウイルスによる食中毒の原因となることがあります。

さらに、ビュッフェで長時間保温されているカレーやシチュー、煮込み料理などは、保存状態によってはウェルシュ菌が増殖する可能性があります。

料理そのものだけでなく、長時間室温に放置されている食品や、乾燥して見た目が変化している料理は避けることが望ましいでしょう。基本的には、『十分に加熱されたものを、提供後なるべく早く食べる』ことが最も安全です」

【画像】100度でも死滅せず…これが「ウェルシュ菌」による食中毒を引き起こしやすい料理です(4つ)

画像ギャラリー

1 2

安江千尋(やすえ・ちひろ)

天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック院長、総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医

がん専門病院で長年にわたり消化器がんの診療・内視鏡治療に従事した後、2024年に「天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック」(大阪市天王寺区)を開院。苦痛の少ない内視鏡検査と患者に寄り添う丁寧な診療で、地域医療に貢献している。特に胃・大腸の早期がん発見と内視鏡切除を専門とするほか、脂肪肝や肝機能障害をはじめとした肝臓疾患の診療にも力を入れている。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(https://tennoji-naishikyo.com/)。

安江千尋(やすえ・ちひろ) 関連記事

もっと見る

編集部おすすめ記事

健康・ライフ 最新記事

健康の記事もっと見る

ライフの記事もっと見る

コメント

CAPTCHA