習近平氏「4期目」視野? 胡錦濤氏「退席」の真相は? 中国共産党大会のポイントを専門家が解説
習近平総書記が3期目入りを決め、前総書記が途中退席する一幕があった中国共産党大会について、専門家に聞きました。

中国共産党の5年に1度の党大会が10月22日に閉幕し、翌23日に新指導部が発足しました。習近平総書記が、異例の3期目入りをした上に、「4期目も視野に入った」との報道もあります。一方で、前総書記の胡錦濤氏が閉幕式を途中退席する一幕があり、さまざまな臆測も呼んでいます。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに、党大会の注目点について聞きました。
”終身総書記”も視野?
Q.習近平総書記が3期目に入っただけでなく、「4期目も視野に入った」との報道があります。なぜ4期目が視野に入ったといえるのでしょうか。
青樹さん「中国共産党は、5年に1度の党大会のタイミングで新たな指導部が発足するのですが、その際に後継者と目される若手を登用するのが慣例です。今回、党総書記として3期目に入った習近平氏も、2007年に最高幹部の常務委員(7人)に抜てきされました。改革開放路線以降の共産党は、このように次世代へバトンをきれいに渡してきたのです。
しかし、今回はバトンを渡す相手がいません。常務委員の中だけでなく、それに次ぐ政治局委員にも、後継と思われる人物がいないのです。習近平氏がバトンを渡す意思がない、とみられても不思議はありません。5年後に4期目も考えている、もしかしたら“終身総書記”も想定しているのでは、との見方が出てくるわけです。
中国の歴史を振り返ると、後継者を明確にしない例も確かにありました。清朝の時代、名君として有名な康煕帝(こうきてい)の後継を巡り、皇子9人が激しい争いを繰り広げた『九王奪嫡 (きゅうおうだっちゃく)』は中国人なら誰でも知っている有名な話です。ドラマや小説にもなっていて、ドラマの何本かは日本でも放送されました。
すさまじい皇位継承争いを経験して皇位に就いた雍正帝(ようせいてい)は、後継者を明らかにしない方針を決めました。皇位継承者の名前を書いた勅書を封印して、紫禁城にある玉座後ろの額の裏に隠しておくことにしたのです。崩御の後で、主だった人たちが立ち会って勅書を開くという流れです。こうすることによって、次世代への権力争いを抑えようとしたわけですね。
今回の習近平氏は、そういう歴史の再現を狙っているのかと思うくらいですが、雍正帝のように権力争いを抑制しようとしているのかどうかは分かりません」
Q.仮に4期目に入って任期を全うすると、20年間、権力の座にあることになります。独裁的になる恐れはないのでしょうか。
青樹さん「『完全なる独裁』が可能になったのは、事実です。常務委員を自分の腹心で固めて、李克強首相ら『物申す』人たちを排除しました。『イエスマン』だけにしたわけです。
日本では、首相が『一強』と言われても、野党の存在があります。インターネットが発達する前、日本を初めて訪れた中国の友人が最も驚いたのは、国会中継を見た時でした。野党議員が声を荒らげて首相を追及する光景に『中国ではあり得ない。そんなことをしたら、逮捕されてしまう』と。中国共産党のトップに意見する者は、基本的にいないのですが、今回、その傾向が強まりました」
Q.首相候補になったとされる李強氏は、上海市のトップです。上海での新型コロナ対策で、市民から強い批判を浴びました。なぜ、首相候補になれたのでしょうか。
青樹さん「上海でロックダウンが問題化するまでは、李強氏が有力と思われていましたが、上海での失敗で『首相候補を外れる』と思われていました。しかし、外れることなく、党序列ナンバー2となり、来春、首相に就任する見込みとなりました。
日本だったら完全にアウトですよね。あれだけ失敗しても、習近平氏の信頼を得ている限り、首相になってしまう。習近平氏が『ゼロコロナ』と言っているから実践した。方法論でミスはあったかもしれないが、主席の基本路線を忠実に守っただけだ、ということだと思います。
なぜ李強氏が習近平氏に気に入られているかというと、習氏が浙江省のトップを務めていた時に、秘書長をしていたのが李強氏です。つまり腹心中の腹心で、習近平氏が権力の座を上り詰める過程で、なくてはならない存在だった。中国の秘書は、日本の政治家の秘書をはるかに上回る力を持っています。
政治家本人の仕事の調整ももちろんしますし、指示がきちんと実行されているかどうか現場で監督、情報提供・分析、監査役のようなことから、政治家の私生活の諸問題も処理します。政治家本人と秘書との関係は、非常に密で、一心同体といえます。政治家がきちんと仕事して生活し、上り詰めるためには、優秀で信頼できる秘書が必須です。習近平氏にとって李強氏というのは昔も今も、そして未来も手放せない存在だと、今回の人事が証明しました」
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