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学歴社会の中国、教師への「袖の下」が珍しくないというのは本当?

日本以上の学歴社会とされる中国では、教育熱心な親が多く、教師への贈り物や「袖の下」、つまり、賄賂も珍しくないとのうわさがあります。事実でしょうか。

教師への「袖の下」、問題にならない?
教師への「袖の下」、問題にならない?

 日本では、教師の残業代を巡って裁判が行われる状況ですが、日本以上の学歴社会とされる中国では、教育熱心な親が多く、教師への贈り物や「袖の下」、つまり、賄賂も珍しくないとのうわさがあります。日本では教師に贈り物、特に公立学校の教師に贈り物をしたら、問題になると思うのですが、中国では問題にならないのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

賄賂や袖の下とは違う「紅包」

Q.中国の小中高校の教師はどのくらい給料をもらっているのでしょうか。

青樹さん「まず、中国の学校はほとんどが国公立なのですが、勤務する先生は公務員ではありません。月給のうち基本給は3000元程度、日本円にすると5万円くらいでしょうか。これは基本給で、雇用先から支給されます。それにいろいろな手当が付いてきます。

二十数年前、親しい先生から、給与明細を見せてもらったことがあるのですが、季節手当(ボーナス)とか、授業1コマで幾らとか、住宅手当とか、いろいろな手当が付いています。それらを含めて月給です。今だと大体8000元から1万元くらい、15万円から20万円くらいという感じでしょうか。

意外と低いと思われるかもしれませんが、その月給以外に講演料や原稿料、出張講義費といった収入のある人が多いです。日本と違って、月給以外の収入が多いのが中国の特徴です。これは大学の先生の話ですが、有名大学の先生が外部で臨時に講義した場合、大体2万元から3万元、日本円でいうと三十数万円から50万円くらいの報酬になります。基本給の10倍、有名人の講演料に匹敵するくらいの額です。

これらにプラス、先生は兼職も許されてきました。塾で講義をしたり、企業の顧問になって収入を得たり。自分で会社を興している人もいます。もちろん、地域差が大きく、北京や上海、広東などの大都市だと収入が多く、地方だとそれほど多くないのが一般的です」

Q.教師への「袖の下」、つまり、賄賂が多いというのは事実でしょうか。

青樹さん「教師への贈り物は習慣化しています。ただ、それはいわゆる賄賂や袖の下とは、中国人の感覚では違います。中国語でいう『紅包(ホンバオ)』という贈り物の習慣で、お正月のお年玉も紅包といいます。日本的にいえば、ポチ袋に入れてお金を配る感じです。赤い包みに入れて贈ることが一般的なので、紅包というのです。

学校の先生になるにはそれなりの学歴が必要で、報酬が低いととても教育界が成り立ちません。しかし、先ほど述べたように、先生の基本的な給料の部分は意外と低いので、先生稼業は紅包と切っても切り離せないのです。非公開のボーナスともいえます。幼稚園でも小学校でも、いろいろな節目に先生にお礼、紅包を贈ります。

中国人の間でも、中身は公開しないし、こっそりやっているので、金額を正確に把握するのは難しいのですが、聞いた話では、幼稚園も小学校も1回300元から500元くらい、日本円で5000円から8500円くらいのようです。季節のいろいろな行事、お正月や『先生の日』も含めて、例えば、1年に4回行事があると2000元、3万円以上。生徒が20人いたとしたら、それだけでもけっこうな収入になります。

日本では考えられないかもしれませんが、先生たちもお金がないと生活できないので、紅包が当たり前になっているのです」

Q.法的な問題はないのでしょうか。

青樹さん「習近平政権になってから、確かに汚職の取り締まりが厳しくなっています。ただ、中国で贈収賄が事件になるのは、賄賂の額が大きいときです。中国市場最大の贈収賄事件は中国の国有企業で17億9000万元、日本円で約300億円の賄賂が動いた事件で容疑者は死刑になりました。また、山西省のある都市の副市長は10億4000万元、約180億円を受け取り、こちらも死刑になりました。

中国の刑法では、5000元から贈収賄の規定はあり、懲役1年から7年の刑が決められているのですが、少額での懲役例はあまり聞きません。それに、紅包が賄賂にあたるかというと微妙なところがあります。中国は贈り物文化の国です。お金も贈り物の範囲に入るのです。

とはいえ、最近、取り締まりが厳しくなっているということで、紅包もお金ではなく、物を贈るケースも増えているようです。コロナ禍の前ですが、私の友人が日本に来て、ブランド品のバッグや携帯電話を買い込んでいきました。お金の代わりに贈るためです。また、親たちは目立たずに贈りやすいもの、方法を考えます。例えば、先生の携帯に電子マネーを直接チャージする方法があります。ワンクリックで送れるし、ワンクリックで受け取れる。誰にも見られない。

あるいは、子どもから先生に季節のお礼カードを送ることが習慣なのですが、『先生ありがとう』と書いている手紙の封筒に、商品券をしのばせる方法もあります。そのほか、お酒やお茶を頻繁に贈る人もいます。中国のお茶は投資対象で、お茶にハマったら身上をつぶすといわれるくらい、価値のあるものなのです」

Q.中国では「塾禁止令」ともいえる政策が進行中で、教師が塾でアルバイトをすることも難しくなったと聞きました。紅包は規制されないのでしょうか。

青樹さん「中国では『双減政策』、あるいは『双減』と呼ばれていて、子どもたちが通う『塾』と学校で課す『宿題』にさまざまな規制をかけ始めました。特に塾への規制が厳しく、巨大産業だった塾の運営が難しくなっています。学習塾の先生たちは、有名な国公立小中学校の教師によるアルバイトが多かったのですが、塾が減少すると彼らは副収入を得る場を失います。

一方で、紅包を規制することはあっても、先生への『付け届け』のようなものはなくならないと思います。先ほど述べたように親たちも警戒して、いろいろな手段を考えており、将来的にも完全になくなることはないでしょう。中国での教師の仕事は本当に大変です。

日本以上の学歴社会の中で、受験生の教育を引き受けており、責任が重く、プレッシャーも大きいです。収入が低いと誰も教師になりたがりません。個人的な意見としては、社会全体として、教師の待遇を改善すべきだと思います。教師が正規の給料で生活できるようにすることです。生活を保障してあげないと、紅包などの副収入に頼る状況は改善できないでしょう」

(オトナンサー編集部)

【写真】「袖の下」? それとも単なる贈り物? 中国の「紅包」

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」など。近著に「中国人の『財布の中身』」(詩想社新書)がある。

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