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「クサイ」飛ばしてオミクロン=中国への配慮? WHO「XIは一般的な姓」、本当か?

新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン」の命名について、「中国への配慮ではないか」という声が出ています。「クサイ」はなぜ、飛ばされたのでしょうか。

習近平国家主席(右)とテドロスWHO事務局長(2020年1月、EPA=時事)
習近平国家主席(右)とテドロスWHO事務局長(2020年1月、EPA=時事)

 新型コロナウイルスの新たな変異株が「オミクロン」と名付けられ、世界中で影響が懸念されていますが、その名前を巡って、「中国への配慮ではないか」という声が出ています。

 変異株はこれまで、ギリシャ文字のアルファベットで「アルファ」「ベータ」「ガンマ」と順に名付けられてきたのに、12番目の「ミュー」から、13番目の「ニュー」と14番目の「クサイ」を飛ばして、15番目の「オミクロン」に飛んだことで、「クサイ(XI)が習近平国家主席の『習(シー)』の英語表記と同じために飛ばしたのではないか」という見方があるのです。

 世界保健機関(WHO)の報道官は「ニューは(英語で『新しい』を意味する)NEWと混同されやすい。『クサイ(XI)』は一般的な姓であり、WHOはいかなる集団にも嫌がらせとなることをしない」と説明しているそうですが、「XI」は一般的な姓なのでしょうか。「習」さんは中国で、習近平氏以外にも多い名字なのでしょうか。

 ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

中国国内では報道されず

Q.「XI」は「習」の英語表記になるとのことですが、中国で「習」という名字の人は、どれくらいいるのでしょうか。また、「習」以外にも「XI」に該当する名前の人は多いのでしょうか。

青樹さん「私が『習』さんという名字の人を知ったのは、習近平国家主席が初めてです。中国の名字について調べるには、中国の代表的な民族、漢民族の名字を紹介した『百家姓(ひゃっかせい)大全』という本があって、中国の代表的な名字が、人口が多い順に紹介されています。最新版(2020年)のランキングでは『習』は331番目だそうです。

また、少し前のデータになりますが、中国国務院の2013年時点の人口関係調査によると、『習』という名字の人は約81万人で、名字別の人口順位では296位です。当時の総人口(約12億人)のわずか0.068%しかありません。つまり、中国でも珍しい姓といえます。ほかに『XI』『シー』と読む漢字としては『渓』もありますが、名字ではあまり聞いたことがないです。

先ほどの数字は中国の統計ですが、漢民族全体が同じ傾向だと思いますので、中国以外の国に住む中国系の人たち、華僑も同じ傾向だと思います。ちなみに、中国人の名字で多いのは、1番から順に『李』さん、『王』さん、『張』さんで、『劉』さんや『陳』さんが続きます。上位10の姓で5億人を超えます。こうして数字だけで見ると、少なくとも中国では、習は決して、一般的な姓ではありません。

ただ、先ほど挙げた『百家姓大全』には、なぜか、『習』の部分にかっこ付きの注釈があって、『一般的な姓である』と書かれています。中国の共産党政権では、国家主席は国家元首です。アメリカではバイデン大統領が国家元首で、日本では対外的な国家元首というと天皇陛下になります。

WHOは『一般的な姓だから』と説明していますが、『国家元首の名前だから、ウイルス名に使うのは避けた』とはっきり説明してもよかったと個人的には思います。もしもの話ですが、われわれ日本人も天皇陛下の名前がウイルスの名前になったら、不愉快ですよね。WHOは変に気を使って、かえって、臆測を広げてしまったのではないでしょうか」

Q.「クサイ」をWHOが飛ばしたことについて、中国ではどのような受け止め方をされているのでしょうか。

青樹さん「『習近平氏に配慮したのでは?』という見方について、中国では一切、報道されていません。2022年に開かれる共産党大会へ向けて、カウントダウンが始まっている時期で、情報統制がいつも以上に厳しくなっているせいかもしれません。オミクロン株のこと自体は報道されています。しかし、『なぜ、クサイでなく、オミクロンなのか』とネット上で質問すると、警告文が発せられて、削除されてしまいます。

『新しい変異株はなぜ、オミクロンと呼ぶのか』とだけ調べると、『XI(シー)を避けた』といった記述は見つからず、『ギリシャ文字から取った。最初に発見された国や地域の名前は不適切だから』というような説明がなされています。当初、『武漢肺炎』などと言われた苦い経験があるからだと思います。『クサイ飛ばし』は理由や経緯どころか、その事実さえ、中国国内では知ることができないのです」

Q.オミクロン株について、中国国内の反響や対策を教えてください。

青樹さん「とても関心が強く、中国の検索サイトでも上位に入っています。各国の感染状況も報道されていて、特に日本が外国人の入国禁止措置を取ったことは速報で流れて、中国人も驚いています。『東京で(新規感染者が)5000人を超えても都市封鎖しなかったのに“国封鎖”をした』と驚きをもって捉えられています。

速報が流れたとき、私は外出していたので、日本のニュースをリアルタイムで見ていなかったのですが、中国の友人からSNSで『本当のことか』と問い合わせがあり、知りました。私は中国人から、入国禁止措置を知らされたんです。それほど、関心は高いです。

オミクロン株の中国での報道は、感染力がすさまじいらしいが、詳しいことはもう1、2週間観察する必要があるという概要です。ただ、中国は『ゼロコロナ対策』として、新型コロナそのものに対してとても厳しい対策をしているので、オミクロン株に特別な措置を取らなくても、対応できるのではとみられています」

Q.北京冬季五輪が迫る中、中国の新型コロナ対策はさらに厳しくなっているのでしょうか。

青樹さん「先ほど述べたように、新型コロナ対策そのものがとても厳しいです。12月9日の新規感染者は中国全体で63人です。人口14億の中国で、です。それでも『感染者が多くなった』と騒いでいるくらい、『ゼロ』を目指して必死なのです。中国にとっての五輪はすべてに優先する、国の力を示すイベントです。北京市だけの問題ではありません。今年7月に創立100周年を迎えた中国共産党にとって、党の力を示すのが、ゼロコロナで迎える北京冬季五輪なのです。

北京に関していえば、中国国内在住者も北京に入るには、48時間以内のPCR検査の陰性証明と健康コード(その人の健康状態を示すスマホアプリ)で『問題なし』を示す『緑』であることが絶対に必要です。さらに、感染者が2週間以内に1人でも出た場所に滞在歴がある人は入ることが制限されています。郊外から北京に通勤する人たちも、48時間以内のPCR検査陰性証明を所持しなければなりません。日帰りの出張で、北京から出て、また戻る場合も必要です。

もちろん、海外からの直行便は北京に入れません。北京に入りたかったら、中国国内の別の都市に行って、隔離を受けた後、問題なければ北京へ、となります。その都市でも厳重な措置が取られており、上海の空港では、飛行機に乗る前にPCR検査と抗体検査、両方陰性で初めて飛行機に乗れます。そして、降りたらすぐにまた、PCR検査です。その後、ホテルで14日間隔離され、その間、部屋から一歩も出られません。

その後も7日間、自宅などでの隔離です。それからようやく、北京に入ることが可能になりますが、もちろん、先ほど述べた陰性証明などが必要です。こうした厳しい措置がオミクロン株対策にもなるとみられているのが、中国の現状です」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」など。近著に「中国人の『財布の中身』」(詩想社新書)がある。

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