1日20時間勉強、スパルタ高校が「夢工場」? 中国の大学入試「高考」、なぜ過酷?
中国では、9月の大学入学を目指して、6月上旬に「高考」と通称される大学入試があります。その過酷さが強調されますが、なぜそこまで熱心になるのでしょうか。
日本以上の学歴社会とされる中国では、9月の大学入学を目指して、6月上旬に「高考(ガオカオ)」と通称される全国統一の大学入試があります。高校生が猛勉強する姿が報道され、その過酷さが強調されますが、なぜそこまで熱心になるのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。
運命を変える「唯一のツール」
Q.そもそも「高考」とはどういう試験なのでしょうか。
青樹さん「全国統一の大学入試で、1952年に始まり、正式名称は『普通高等学校招生全国統一考試』といいます。日本の大学入学共通テストとよく比較されるのですが、まったく別物だと考えてください。6月7日、8日の2日間(一部地域は3日間)で、必須科目の国語、数学、外国語と、歴史や政治などの選択科目を受験して、合計6科目750点満点で競います。そこまでは日本と似た形式ですが、中国は『高考』の一発勝負で、その点数によって、入れる大学が決まります。日本の2次試験のような大学個別の試験はありません。
受験生は自分の志望校を、第1志望、第2志望…と出せますが、北京大学や清華大学といった超一流大学を含む『211重点大学』(中国政府が21世紀に向けて重点的に投資すると決めた100の大学)に希望が集中します。一流大学を目指す争いは熾烈(しれつ)です。
なぜ熾烈かというと、中国は超学歴社会で、有名大学の学位を取ることが、いわば『勝ち組』への第一歩となるからです。高考は『運命を変える唯一のツール』といっていいかもしれません」
Q.「運命を変える唯一のツール」とは、どういう意味でしょうか。
青樹さん「私が40代のとき、初対面の中国人、50代の女性と名刺交換したのですが、その場ですぐに『お父さんは何をしている人ですか』と聞かれて驚きました。私が学生だったらそういう質問もあり得るでしょうが、大人同士の名刺交換の場でいきなり聞かれると奇異な感じがします。中国人の説明によると、中国では父親の職業で、その人のすべてが分かるということなのです。
中国には『富二代』(富豪の子ども)、『官二代』(政府幹部の子ども)という言葉があります。お金持ちの子はお金持ち、お父さんが権力者なら権力者になれる、といった風に、『勝ち組』『負け組』が生まれた時から決まっているのです。
貧しい家に生まれて、人生を変えるとすれば、一流大学に入って学歴を身に付けて、ようやく人生の競争に参加できるということです。だから高考は、運命を変えることができる唯一のツールといえるのです」
Q. 高考のための受験勉強が「過酷」と聞きますが、どのくらい過酷なのでしょうか。
青樹さん「高校3年生になると、高校はほとんど予備校状態、大学入試のためだけの学校になります。朝8時の授業開始が一般的ですが、生徒たちは6時くらいには学校に着いて、勉強しています。授業後もそのまま学校に残って復習して、夜の10時ぐらいに帰ることも少なくありません。家でも、家事は一切せずに勉強だけしていればいい、という家庭もよく見られます。
ちなみに、高考がある6月になると、注目を集める村があります。安徽(あんき)省の毛坦(もうたん)廠』という農村です。徹底したスパルタ教育で、大学に合格することだけを目指す村です。地元の『毛坦高校』は、別名『大学入試・夢工場』と称されています。
貧しい家庭の子どもたちも多く、運命を変えるには高考で良い成績を出すしかありません。村にはカラオケやネットカフェといった娯楽施設はなく、ファストフードの店もありません。勉強の邪魔になるからと、そういった施設を置かないのです。
受験生は朝6時前に起きて自習を始め、その後授業。夜11時まで授業を受けて、家に帰っても、午前2時まで自習します。翌朝も早くから学校に行くわけですが、もし授業に遅れたら、厳しい罰則があります。日本でいえば体罰ですが、1週間立ったまま授業を受けるのです。
そして、金土日の夜に試験があり、試験結果はランキングで公表されます。教室の席順も、その順位で決まります。大学の合格率はとても高いそうです」
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