首相、東京都知事発言で拍車? コロナ禍における「楽観バイアス」の危険とは
新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、首相や東京都知事の発言によって、「楽観バイアス」が働いていると危惧する声があります。どのようなもので、なぜ、危険なのでしょうか。

新型コロナウイルスの感染が急拡大し、8月13日には新規感染者の報告が2万人を超えました。緊急事態宣言の適用地域も広がっていますが、政府や地方自治体が行動自粛を呼び掛けてもいまひとつ、国民に響かないようです。
一方で、菅義偉首相の「人流は減少している」「高齢者の重症化は減少」という発言や、小池百合子東京都知事の「ステイホーム率が上がっている」といった発言は「五輪開催で国民の心が緩んだ中、それに拍車を掛けてしまい、『楽観バイアス』が働く」といった指摘も出ています。「楽観バイアス」とはどういうもので、コロナ禍でそれが働くことに、どんな危険性があるのでしょうか。心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。
認知バイアスで非合理的な判断
Q.「楽観バイアス」とは、どのようなものでしょうか。
小日向さん「楽観バイアスとは『物事を自分にとって都合のいいように解釈する』思考のことで、物事を楽観的に捉える傾向が強まります。自身の思い込みや周囲の環境が要因で非合理的な判断をしてしまう『認知バイアス』の一種です」
Q.どのような場面でよくみられ、どんな点が問題なのでしょうか。
小日向さん「楽観バイアスは心理的ストレスを軽減するため、無意識に行われるといわれています。そのため、心に負荷が掛かったり、危険を感じたりするような、いわゆるストレスを感じる物事に対して働きやすくなります。例えば、お酒が好きな人は飲酒欲求を我慢することがストレスになるため、『親族もお酒が好きだけど、みんな健康だから、自分も大丈夫だ』と考えるケースがあります。
もちろん、物事を楽観的に捉えることで、ストレスが軽減されること自体は悪くありません。しかし、一方で、自分に都合よく物事を捉え過ぎるあまりに危険を回避できなくなる恐れが生じるという問題があります。お酒好きな人の例でいえば、『お酒好きの親族が健康』であっても、自分がお酒で体を壊す可能性が低いとは決して言えません」
Q.新型コロナに関しては、どのような場面で、どんな人たちに楽観バイアスが働いていると考えられますか。
小日向さん「新型コロナ対策として、現在、最も求められていることが『自粛』です。若い人たちが『若者は重症化しないと言われているから』と考えて出歩くことも楽観バイアスが働いているといえます。つまり、そう考えることで『自粛ストレス』を軽減させているのです。
また、インドア的な生活様式が苦手で観光やイベントが好き、大勢で飲食しながら、おしゃべりすることが好きといったアウトドア派の人ほど、楽観バイアスが働きやすくなっているといえるでしょう。ただ、楽観バイアスが働きやすいということと、実際に行動に移すことはイコールではありません。実際に行動するまでには、集団心理や寂しさなど、他の心理的な要素も絡み合ってきます」
Q. 菅義偉首相の「人流は減少している」「高齢者の重症化は減少」、小池百合子東京都知事の「ステイホーム率が上がっている」、東京都福祉保健局長の「いたずらに不安をあおらないでほしい」といった発言は、楽観バイアスが働く要素になったでしょうか。
小日向さん「先述したように、楽観バイアスの意味とそのようになる心理要因から考えれば、当然、こうした発言は楽観バイアスが働きやすくなるものだと思います」
Q.「東京五輪を開催したことで『楽観バイアス』がかかった」と指摘する声も報道されています。そのように思われますか。
小日向さん「楽観バイアスがかかったと思います。『密』状態になることに抑制をかけている一方で、東京五輪を開催したという矛盾は『物事は自分に都合のいいように解釈してよい』という思考に免罪符を与えたと言えるのではないでしょうか」
Q.緊急事態宣言が出ている中、楽観バイアスが働かない、あるいは、働いても新型コロナで最悪の事態を招かないためには、どういう心持ちでいるべきでしょうか。
小日向さん「まず、人間には楽観バイアスという心理があると知ることが一つ。そして、自分の性格を分析して、楽観的、社交的、刹那的な感情に流されやすいといった要素を自覚する人は、新型コロナに対しても楽観バイアスが働きやすくなっていると認識しておくことが大切です。
現代はネットの発達によって、情報があふれています。新型コロナに関してだけでなく、物後を俯瞰(ふかん)的に見て、客観的視点を鋭くさせていくことが楽観バイアスを制御し、さまざまな危機の回避につながる生き方ではないでしょうか」
(オトナンサー編集部)
コメント