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ワクチン接種巡る丸川五輪相「1次的な免疫」発言は非科学的? 専門家に聞く

丸川珠代五輪相が新型コロナウイルス用ワクチン接種について、「1回目の接種で、まず、『1次的な免疫』をつけていただく」と発言したことに波紋が広がっています。問題点を専門家に聞きました。

丸川珠代五輪相(2021年2月、時事)
丸川珠代五輪相(2021年2月、時事)

 丸川珠代五輪相が6月29日の記者会見で、東京五輪・パラリンピックのボランティア約7万人への新型コロナウイルス用ワクチン接種について、「2回目の接種が大会開始までに間に合わないのではないか」との指摘に対し、「1回目の接種で、まず、『1次的な免疫』をつけていただく」と発言し、波紋が広がっています。「ワクチン接種は1回でいいと誤解されかねない」「非科学的な発言」といった指摘です。丸川大臣の発言について、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

効果期待もデータは存在せず

Q.日本で接種が進む2種類の新型コロナ用ワクチンは「2回の接種が必要」とされていますが、丸川五輪相は「1回目のワクチンで1次的な免疫を」との発言をしました。1回目のワクチンだけで、効果は期待できるのでしょうか。

森さん「ファイザー・ビオンテック製(以下、ファイザー製)もモデルナ製も、承認申請に用いられた臨床試験によるワクチンの有効性は『一定の間隔で合計2回接種し、接種から一定期間経過後』の臨床データによって得たものであり、その効果を期待されて承認されました。つまり、『確実な効果を得るには、1回の接種だけでは不十分』と考えられています。

『1次的な免疫』という言葉は医学用語として使われない表現のため、丸川大臣がどのような意味で使用したのかは分かりませんが、確かに、接種していない人(未接種者)に比べ、部分接種した人(1回目接種者)の方が新型コロナウイルス感染の発生率、あるいは発症率が低かったという報告はイギリス、アメリカ、イスラエルなどから複数出されてはいます。

国内でも、ファイザー製のワクチンを1回以上接種した医療従事者約110万人のうち、接種後に感染した281人について調査分析した国立感染症研究所の研究があり、『1回目の接種から12日前後を境に感染の発生が減少する傾向が見られた』と報告されています。

このように、1回目接種後に感染の発生や発症を抑制する効果はある程度期待できると考えられていますが、これを立証する確実なデータはありませんし、先述したように、ファイザー製もモデルナ製も『確実な効果を得るには、1回の接種だけでは不十分』と考えられています」

Q.1回目の接種を多くの人に実施することを優先した英国では、変異ウイルスの流行で感染が再拡大しているとの情報があります。

森さん「イギリスでは当初、ワクチンの接種間隔を12週(日本は3週、もしくは4週)にし、『まず1回目』を多くの人が打つことを優先しましたが、現在、感染が再拡大しています。イングランド公衆衛生庁の6月25日の発表では、ゲノム解析されたウイルス検体の約95%が『デルタ株』(インドで最初に確認された変異ウイルス)だったと報告されました。直近1週間で確認されたデルタ株は前週比で46%増加していて、感染の増加はデルタ株の急拡大と関係していると考えられています。

イギリスの感染状況をさかのぼると、昨年末から年始にかけて、従来株より感染力が強いとされる『アルファ株』(イギリスで最初に確認された変異ウイルス)が流行し、1日の新規感染者の報告が6万人を超えるほど感染が拡大しました。昨年12月8日、世界に先駆けてワクチンの接種が始まると、接種率の上昇とともに感染者は大きく減少し、4月から5月にかけて感染報告数が2000人前後の日が続き、感染拡大は抑えられてきました。

しかし、5月末に3000人を超えると徐々に増加し、6月17日に1万人、28日に2万人(2月4日以来)を超え、感染は再拡大しています。6月30日の報告数は2万5606人でした。デルタ株の感染力はアルファ株よりさらに強いと考えられています。現在のイギリスでの感染は20歳~29歳が最も多く、若い年齢層での増加が継続して目立っていると報告されています。

一方、ワクチン接種は高齢者から優先的に進めてきたため、デルタ株の感染の中心となっている30代以下の若い年齢層は未接種がほとんどで、すべての成人にワクチン接種の対象が広がった6月18日から現在まで、1回目の接種をした人もわずかです。デルタ株に対しては、1回のみの接種では効果が低減し、2回接種完了によって、ワクチン効果が有効であると報告されているため、流行の中心である若い年齢層の接種が加速し、進んでいかないと流行の収束にはなかなかつながりません。

先述した、接種間隔を12週にして、『まず1回目』を優先した方針は現在は2回接種完了を急ぐため、接種間隔が8週間に変更されました。6月30日現在、イギリスの成人人口の62.7%が2回接種を完了しています」

Q.2回目のワクチンを打ってから、どれくらいの期間がたてば効果が期待できるのか、改めて教えてください。

森さん「有効性が確認された海外における臨床試験では、ファイザー製のワクチンは2回目の接種から7日以降、モデルナ製は14日以降の発症の有無が比較されました。ワクチン接種で十分な免疫ができるのは、ファイザー製で7日程度、モデルナ製で14日程度たってからと考えられています」

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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