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ねぶた期間中にコインパーキング「1時間5000円」 「さすがに法外」の声も…法的問題は?

青森ねぶた祭の期間中、近くのコインパーキングが1時間5000円の高額料金を設定した件が話題です。駐車場の管理者に法的問題はないのでしょうか。

高額な駐車料金設定、法的問題は?(写真はイメージ)
高額な駐車料金設定、法的問題は?(写真はイメージ)

 8月2~7日に青森市で開かれた「青森ねぶた祭」の期間中、近くのコインパーキングが1時間5000円の利用料金を設けた件について、SNS上で話題になりました。通常の16倍以上の料金設定に気付かず駐車してしまった人の中には、夕方~翌朝の利用で6万円以上支払った人もいるようです。

 管理会社や提携ホテルは、「一般客に利用を諦めさせ、宿泊者の駐車スペースを確保するための対応」などと説明。特別料金を案内する貼り紙を看板や発券機に掲げ、周知していたといいますが、「高すぎる」「ぼったくりだ」などと苦情が相次ぎ、SNS上では「貼り紙を見ていない方が悪い」「さすがに法外すぎる金額」など、さまざまな声が上がっています。

 オトナンサー編集部では、コインパーキングの料金設定や表示にまつわる法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「誰が見ても気が付く料金表示」かどうか

Q.今回の騒動について、コインパーキングの管理会社およびホテル側に何らかの法的問題はありますか。

牧野さん「非常に難しい問題です。よく、イベント会場周辺の駐車場に『1時間3000円』『1回1万円』などの看板を持って立っている人が客を勧誘していますが、この場合、利用者もその料金に同意して駐車するので、有効に駐車場利用契約が成立し問題は生じません(契約の成立は必ずしも書面による必要はありません)。

しかし、本件の場合は、看板や発券機に特別料金を掲示していたとのことなので、それを見て、同意した上で駐車したのかどうか、つまり、駐車場利用契約が成立しているかどうかが争点となります」

Q.駐車場利用契約が成立しているかどうかの判断基準とは。

牧野さん「ポイントは料金の掲示方法です。看板や発券機に、『1時間5000円』とただ掲示していただけでは、利用者がそれを確かに見て承諾した上で駐車したとは必ずしも言えないでしょう。例えば、夜間も営業している場合、蛍光塗料や照明を使って大きく掲示しない限り、利用者へ契約条件をきちんと提示しているとは言えません。

契約が成立する可能性を高めるためには、『誰が見ても気が付く表示』が必要となるわけです。業界団体が策定した『時間貸駐車場における表示・運用に関するガイドライン』には、『大きく理解しやすい表示をする』『例外条件や限定条件を小さく表示しない』などの留意点が具体的な看板記載例とともにまとめられており、一つの参考になるかもしれません。

なお、駐車場を管理する会社側が、利用者へ契約条件を適切に提示していない場合には、会社側が景品表示法違反で行政指導を受けるリスクがあります」

Q.注意書きに気が付かず駐車してしまった利用者が、返金を求めることはできますか。

牧野さん「利用者へ契約条件をきちんと提示していない場合は、契約が成立していないので、通常使用料との差額の返還を請求することができるでしょう。他方、利用者へ契約条件をきちんと提示していた場合には、契約が成立しているので、返金を求めることができません」

Q.いわゆる「法外な金額」とはどの程度の額を指すのでしょうか。

牧野さん「本件の場合、裁判例がないので具体的な金額基準を出すことが難しいです。一般的には、通常料金の数倍では、契約を無効とするまでの法外な金額とは言えないでしょう。なお、法外な料金と認められる場合、契約が成立していても民法90条の公序良俗違反により無効となる可能性があります」

Q.コインパーキングの「ぼったくり」被害に遭ってしまった時の適切な対応とは。

牧野さん「法的措置を取ることはできますが、採算が取れない場合が多いでしょう。誰が見ても料金の表示が不明確な場合には、契約の不成立を主張して、相場の料金との差額を請求できる可能性がありますが、そのための裁判費用や弁護士費用の方が上回ってしまいます。当たり前の話になりますが、料金が通常の料金でなく、特別料金になっていないかきちんと確認して、駐車すべきです」

Q.類似のトラブルについて、過去の事例はありますか。

牧野さん「トラブルに発展しやすい類似の事柄として、無断駐車に対する注意書きがあります。コンビニやスーパー、月極駐車場などで見かける『無断駐車(お客様以外の駐車)は、○万円の罰金を申し受けます』という張り紙が、法的な拘束力を持つのかどうかという問題です。

張り紙が損害賠償額の予定(違約金)を通知しているとすれば、無断駐車した人がそれを承諾して車を停車したとは、必ずしも言えません。しかし、無断駐車は、他人の土地を勝手に占有して他人の権利を侵害する行為なので、不法行為(民法709条)に基づいて、駐車場の所有者は無断駐車をした人に損害賠償請求することができます。ただし、請求できるのは、一方的に提示している金額ではなく、周辺の相場などを鑑みた駐車料金相当額です」

(ライフスタイルチーム)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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