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自閉症の息子、5歳で初めて発した言葉は「まだ食べる!」 母が気付いた“会話に必要な体験”

自閉症である25歳の息子を育てる筆者が、子どもの「発語」と「コミュニケーション」の関係性について、これまでの実体験をもとに紹介します。

子どもの発語や会話を育むために必要な体験とは(画像はイメージ)
子どもの発語や会話を育むために必要な体験とは(画像はイメージ)

 私には、25歳になる知的障害を伴う自閉症の息子がいます。2歳3カ月のときに、正式に診断を受けました。
 
 自閉症のお子さんが発語するかどうかは、親御さんにとって本当に気になるテーマです。でも、発語とともに使う言葉が増えたとしても、それが人と人とのコミュニケーションにつながるかというと、必ずしもそうではありません。

 どういうことか、リンゴの銘柄で説明します。例えば、「ジョナゴールド」「世界一」「シナノスイート」など、こういったリンゴの銘柄を的確に言える子がいます。その子はスーパーに行ったとき、リンゴを見て「シナノゴールド」とパッと言えるのです。

 でも、それだけでは人との会話にはならないですよね。

「ママ、このリンゴシナノゴールドだね。おいしそうだね。買って」

 これが会話なのだと思います。

 単にリンゴの銘柄を言うことと、「ママ、このリンゴおいしそうだから買って」と言うことには、天と地の差があります。また、電車の型番を正確に言えても、それが会話につながるとは限りません。

状況とかみ合わない言葉を発するケースも

 ですから、単語をたくさん知っているからといって、それがコミュニケーションにつながるかというと、必ずしもそうではありません。

 ある重度の知的障害のある自閉症のお母さんが、遠足で学校に行ったときの話です。

 上野動物園のパンダの前で、その子が「お友達のメガネを取ってはいけません。
お友達のメガネを取ってはいけません」と、宇宙人のような抑揚のない声で言っていたんですね。

 でも、パンダのおりの前ですし、周りにメガネをかけたお友達もいないのに、ずっと「お友達のメガネを取ってはいけません」と言っていました。これは場にそぐわない言葉です。

 なぜそれを言っているかというと、普段学校の先生から注意されている言葉を、そのままリフレインしている、つまり再生しているわけです。

「お友達のメガネを取ってはいけません」というのは、3つの単語からなる、いわゆる「三語文」で、結構複雑な言葉です。

 また、ライオンの前で「たくあんと梅干を一緒に食べてはいけません。塩分取り過ぎだから」と言う子もいました。

 ライオンが塩分取り過ぎと言っているわけではなく、親から注意されていることを再現しているだけでした。

 さて言葉とは「感動を他の人と共有したい」「友達と関わりたい」「友達と遊びたい」「友達を拒否したい」という動機があって、初めて言葉を使うことに意味が出てきます。

自閉症の息子が言葉を発したきっかけは…

 中度知的障害と自閉症のある息子が言葉を発したのは5歳です。渋谷のうどん店に行ったとき、店員が息子のうどんの器の中に、一本だけ残っていたうどんの切れ端があったのに、それを下げようとしました。

 そのとき息子が「まだ食べる!」と叫びました。

 それまで「お母さん」とか「ママ」とか、ほとんど言葉がなかったのに、いきなり店員に対して「まだ食べる」と言いました。すると店員が、下げようとした器をパッと戻してくれました。

 これで息子は、「人を自分の思いどおりに動かすには、言葉を使うと便利なんだ」ということが分かったようです。

 それからペラペラしゃべるようになったわけではないのですが、必要最低限、自分がやってほしいこと、例えば「ちょうだい」「嫌だ」という言葉を使うようになりました。

「嫌だ」「ちょうだい」って、すごいコミュニケーションです。

 話は変わりますが、私も保育園で仕事をしていたことがあります。その際、1歳児クラスではかみつきが結構ありました。

 まだ言葉が出ていないとき、ある子どもが別の子が持っているおもちゃが気になって欲しいとき、ガブッとかみつくことがあります。また、自分のおもちゃが取られそうになったときにもかみつくのです。

 するとかみつかれた相手がパッと手を離します。それを見て「あ、かみつけば自分の思いどおりになる」と学習します。

 2歳になって言葉を獲得していくと、「ちょうだい」「嫌だ」「やめて」と言えるようになり、かみつきはなくなってきます。2歳後半を過ぎてかみつきしている子は、あまりいません。

 でも言葉が出ていないうちは、それが手段になるわけです。

 少し話が飛びましたが、家庭での取り組みとして「これをすれば必ず言葉が出る」というものは、特にありません。

 もともと脳の機能の特性で、人に関心が薄かったり、友達と共感したいという気持ちが弱かったりする場合、親が働きかけて言葉が増えるというのは、なかなかハードルが高いこともあります。

 では、少しでもできることは何かというと、例えば、子どもが親の手を持って、物を取らせようとする「クレーン現象」です。

 そのときに親はそのまま物を取るのではなく、子どもが「ちょうだい」「ジュース」などと言ったら渡すという経験を積ませましょう。

 つまり、先述のうどん店の例のように「言葉を言えば、人は動いてくれる」「言葉を使うと便利なんだ」ということを体験させることです。

 あまりはっきりした答えになっていないかもしれませんが、そういったイメージです。そして一番大事なことは、家で「鬼育児」にならないことです。訓練、訓練とならないで、家庭を安心・安全な場所にすること。

 親との信頼関係ができていなかったり、いつも不安の中にいたりすると、言葉どころではなくなってしまいます。

 その意味でも、家庭が安心できる場所であることが大切だと思います。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

【画像】「えっ…?そうだったの……?」 これが「発達障害児」にみられることのある行動です(5つ)

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立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

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