重度障害で暴れるリスク…自閉症の11歳息子、初めての虫歯で「ミイラ状態」に? ガチガチ固定で進めた治療劇
知的障害の自閉症児を育てる女性ライターが、息子の虫歯治療のエピソードについて紹介します。

「べっこうあめアマミ」というペンネームでライターとして活動する私は、重度知的障害を伴う自閉症の11歳の息子と、きょうだい児である娘を育てながら、発達障害や障害児育児について発信を続けています。
今回は、11年間虫歯ゼロだった息子が、初めて虫歯になったときの体験をつづります。日頃から歯医者さんに通い、定期検診やフッ素塗布を受け、自宅でも毎日の歯磨きを続けてきたにもかかわらず、思いがけず虫歯が見つかった息子。「障害がある息子は本当に治療できるのだろうか」と大きな不安に襲われましたが、かかりつけの歯医者さんから障害者歯科の専門病院を紹介され、初めての息子の本格的な虫歯治療に付き添うことになりました。
障害がある子どもの虫歯治療に不安を抱える保護者に向けて、専門機関での受診の流れや実際の治療の様子、そして治療を終えた今、思うことを伝えます。
11年間虫歯ゼロだった息子に訪れた「初めての虫歯」
ある日、息子が学校から歯科検診の結果表を持ち帰りました。
「虫歯」
この言葉を見つけたとき、私の頭の中には絶望が広がりました。特別支援学校6年生の息子には、重度知的障害を伴う自閉症があります。息子のような障害がある子の虫歯治療なんて、絶対に大変な一大事。地獄を見ることしか考えられなかったのです。
「この子、本当に治療できるのかな」
不安しかなく、落ち込んだ気持ちでとりあえずかかりつけの歯医者の予約をしました。
息子は11歳になるまで、一度も虫歯になったことがありません。それは、これまで近くのかかりつけの歯医者さんで定期的にフッ素塗布やクリーニング、口腔(こうくう)内のチェックをしてもらい、自宅でも毎日の歯磨きを続けてきたおかげだと思います。
障害児の歯科受診はなかなかハードルが高いもので、息子の障害名を伝えただけで、断られたこともありました。
しかし、今通っているかかりつけの歯医者さんは、息子の障害名を告げても受け入れてくれて、息子が幼いころから定期的に通ってきたところです。将来的に考えても、息子のような障害がある子が歯のトラブルを起こすと大変です。
そして、歯医者嫌いになると親も困ることを見据え、定期的なチェックとともに、少しずつ息子に歯医者さんという場所に慣れさせてきたのです。
そのかいもあってか、日によって差はありますが、診察台に座り、口を開け、歯を見てもらう流れは、繰り返すうちに慣れていきました。
そして通院の際、「大丈夫そうですね」と先生から言ってもらえるたびに、私はほっとしていました。加えて家でも、毎日の歯磨き、甘い物も与え過ぎないように気を付けてきました。だからこそ、今回の虫歯はショックだったのです。
ただ、私には原因として思い当たることがありました。年明けごろから始まった息子の吐き戻しの癖です。
息子はもともと唾吐きの癖がありましたが、それがグレードアップし、食べたものを吐き出したり、場合によっては胃から吐き戻したものを口の中に含んでまた飲み込んだりといったことをするようになったのです。
これではいくら周りが気をつけても、口の中に食べ物が残ってしまいますし、胃酸による影響も避けられません。
「虫歯は避けられないものなのだ…」
私は落ち込みましたが、落ち込んでいる場合ではありません。虫歯は治療しなければ、絶対に治らないのですから。
障害がある息子に、本格的な歯科治療はできるのか
息子は歯医者さんには慣れましたし、口を開けて中を見てもらう、歯科検診なら受けられます。
しかし、本格的な虫歯の治療となると話は別です。虫歯治療は普通に痛いですし、大人でも怖いし嫌だし緊張するものです。それを息子が受け入れられるのか…。不安が次々に浮かびました。
重い障害がある息子に、「今日は歯を削ります」と説明しても、それを理解して気持ちを切り替えることができるとも思えません。
小学6年生の息子が暴れたら、個人医院の歯医者さん1人では対処できないでしょうし、口の中が傷ついたりけがをしたりするリスクもあります。いつも通っているかかりつけの歯医者さんも、その点を不安視していたようです。
息子の口の中を見て虫歯を確認すると、障害者歯科の専門病院での治療をすすめ、紹介状を書いてくれました。
ただ、専門の先生たちが対応してくれると分かっていても、初めての場所へ行く不安はありました。本当に治療できるのか。途中で嫌がってしまったらどうするのか。息子より、親の方が緊張しながらも、息子の虫歯治療の日がやってきました。
不安だった治療は、専門スタッフの力で無事終了

紹介された専門病院への通院は、全部で3回でした。1回目は歯の状態確認と治療方法の相談、2回目と3回目で実際の治療を行います。
1回目の受診のとき、「息子は初めての場所で大丈夫かな?」と心配しましたが、これまで何回も歯医者さんの椅子に座る経験をしてきたことが役に立ったようです。指示されるままに座り、横になり問題なく口の中を見てもらうことができました。
歯医者さんも歯科衛生士さんも、障害がある人の治療に慣れているので、声かけをしたり、たくさん褒めてくれたりしながら、なごやかに進みました。受診しているのは全員障害がある人なので、遠くで叫び声が聞こえたりもしましたが、お互い様です。
そして2回目の受診日、治療が始まると、歯科医師と3人の歯科衛生士さんが息子を囲みました。1回目の受診のときに、眠らせる麻酔は使わない方針になっていましたが、息子が動いたり暴れたりすると危ないので、体を拘束する専門の道具のようなもので、ミイラのような状態になった息子。
言葉通り手も足も出ませんが、意外と落ち着いています。治療の際、口を開けた状態を保つための器具も装着しました。
さらに、口元には保護のためと思われる緑色のビニールのシートがかけられ、器具を準備する小さな音が診察室に響きます。
最初は体に力が入っていた息子。私も横で見守りながら、ずっと緊張していました。
しかし、スタッフの皆さんは一つ一つ声をかけながら落ち着いて治療を進めていってくれました。
「よくできたね」
「もう少しで終わるよ」
そう声をかけ続けてくれる姿を見て、私自身も少しずつ安心していきました。息子は暴れることも大きな声を出すこともなく治療を受け、15分ほどで終了。あれほど心配していた時間は、驚くほど短く感じた1回目の治療でした。
不穏な気配があった2回目の治療
そして、2回目の治療の日。診察室へ向かう息子の様子は、明らかに前回とは違いました。治療室の前まで来ると、足が止まったのです。
白い照明に照らされた部屋。周りから聞こえる治療器具の音。前回の記憶が思い起こされたのでしょう。
問題なく治療を終えたと思っていましたが、本人的にはやはり、痛かったり不快な思いをしたりしたのだと思います。虫歯治療で歯を削ったのですから、それはそうです。
私が声をかけても動こうとせず、体を後ろへ引いて抵抗しました。その姿を見て、私の中に不安が戻ってきました。
「やっぱり難しいのかな」
そんな思いが頭をよぎります。
しかし、同行していた夫が息子を抱え上げて治療用の椅子に乗せると、スタッフの皆さんは慌てず手際よく、再び息子をミイラ状態へ。怖がらないように息子に優しく声をかけながら、滞りなく治療を終わらせてくれました。
「本当に終わったんだ」
息子が治療を終えて拘束を解かれ、立ち上がったとき、私は肩の力が抜けました。
振り返ると、治療自体は1回あたり15分ほどでしたが、初回は説明なども含めて1時間強、2回目以降は待ち時間など含めても40分ほどで終わりました。思っていたよりも短期間で治療が進んだことに、安堵(あんど)の気持ちでいっぱいです。
「障害があるから治療できない」ではなかった
待合室では、大きな声で泣いている子どももいました。その子は個室で治療を受けていたようで、一人一人の状態や特性などによって、いろいろな治療場所が用意されているようでした。
また、場合によっては、麻酔を使って眠った状態で治療を行うケースもあるそうです。
障害の特性は、一人一人違いますし、できることも苦手なことも違います。だからこそ、普通の方法にこだわらず、その子に合わせた治療方法を考えて対応してもらえることがありがたく思いました。
息子の場合は、最初にミイラ状態に一気にガチガチに固定された方が、本人も諦めがついてスッとおとなしくなったので、下手に自由にさせるよりよかったのだろうなと思いました。
「障害があるから歯の治療は難しい」
そんな風に思ってしまいがちですが、治療にはいろいろな方法があり、専門の病院もあります。
その子に合った方法で治療を進めてくれる場所があると知ることができたことは、私にとって大きな安心になりました。
虫歯を治して終わりではない…これからも続く口腔ケア
今回の治療で、息子の虫歯は無事に治りました。ただ、診察では今後注意が必要な歯についても教えてもらいました。
左上の奥歯は虫歯になりかけている状態。また、左下の奥歯はまだ歯ぐきから完全に出切っておらず、汚れがたまりやすいため虫歯になりやすいそうです。これからも丁寧なケアを続けていかなければなりません。
障害がある子どもの口腔ケアは、決して簡単ではありません。毎日の歯磨きも、子どもの体調や気分によってうまくいかない日があります。親が頑張っていても、防ぎ切れないこともあります。
それでも、定期的に歯医者さんへ通っていたからこそ、早い段階で虫歯を見つけてもらい、大きな負担になる前に治療を終えることもできるのではないでしょうか。
もし今、お子さんの歯のことで不安を抱えている人がいたら、「きっと無理だ」と決めつける前に、まずは歯科医院へ相談してみてほしいと思います。
私自身、治療前は不安でいっぱいでした。しかし、専門のスタッフさんに支えてもらいながら、息子は無事に治療を終えることができました。
障害があるお子さんの歯科治療に悩んでいる人にとって、この経験が少しでも安心につながればうれしいです。
(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)
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