地震、豪雨…災害時の「非常食」で血圧が急上昇!? 高血圧を防ぐ“正しい食べ方”とは【医師解説】
災害に見舞われた際、非常食はどのように食べるのが適切なのでしょうか。平時のうちにできる備えについて、医師に聞きました。

9月1日は「防災の日」です。災害時には缶詰、レトルト食品、カップ麺、アルファ化米などの非常食が役立ちますが、塩分や脂質が多いものもあります。そのため、避難生活が長引くと「炭水化物中心」「野菜不足」「塩分が多め」といった偏りが起こりやすくなります。
災害が発生した際、非常食はどのように食べるのが適切なのでしょうか。平時のうちにできる備えについて、林外科・内科クリニック(福岡県宗像市)理事長で医師の林裕章さんに聞きました。
主食との組み合わせを想定し濃い味に
Q.缶詰やレトルト食品などの非常食は、なぜ塩分や脂質が高くなりやすいのでしょうか。継続して食べると体にどんな負担がかかりますか。
林さん「非常食に塩分が多い商品が目立つのは、カレー、丼の具、煮物、スープ、麺類など『味付け済みですぐ食べられる食品』が多いからです。塩には保存性を高める働きがあり、常温で長く置く食品ほど、味付けと保存の両面で塩が使われます。
災害時には白米やパンなど単調な主食と組み合わせることも多く、濃い味の方が食べやすいという商品設計上の事情もあります。脂質はカレーや肉料理、菓子類で多くなりやすい一方、魚の水煮缶や豆類は少なく、『非常食だから高脂質』というわけではありません。
短い避難生活で脂質を少し多く取ったこと自体よりも、注意したいのは塩分過多と水分不足の組み合わせです。食塩を取り過ぎると血圧が上がり、高血圧の人の場合、脳卒中や心疾患のリスクが高まります。
しかも災害時はストレスや睡眠不足、寒暖差で血管が縮み、もともと血圧が上がりやすい状態にあります。これは『災害高血圧』と呼ばれ、発災から1~2週間ほどがピークになります。普段血圧が落ち着いている人でも上が10~20mmHgほど上がることがあり、そこに塩分が重なればさらに押し上げられます。過去の大災害で心筋梗塞や心不全、脳卒中、エコノミークラス症候群が増えたことは知られており、関連学会も避難所での予防を呼びかけています(※1)。
ただし、災害直後はエネルギーの確保が何より優先されます。食事量が少ない状況では、脂質は効率のよいエネルギー源にもなります。問題は、避難生活が長引いても菓子パンやスナック菓子、カップ麺、濃い味のレトルトばかりが続くことで、塩分が増える上にたんぱく質、野菜、食物繊維が不足します。
非常食は高血圧、心不全、腎臓病、糖尿病などがある人の場合、食べ方を少し工夫するだけでも体への負担を減らせます」
Q.防災備蓄を日常的に消費する「ローリングストック」を行う際、栄養バランスの偏りを防ぐために一緒に取るべき身近な食材はありますか。
林さん「ローリングストックでは、備蓄食品を一度に大量に食べるわけではなく、普段の食事の一部として少しずつ消費していくため、栄養が極端に偏ることを心配しすぎる必要はありません。『非常食だけを食べる日』を作る必要はなく、いつもの食事に1品足す感覚で消費していけば十分です(※2)。基本として、アルファ化米やパンなどの主食だけでなく、以下のような身近な食品を組み合わせるとバランスが取りやすくなります」
・たんぱく質
魚の水煮缶、大豆水煮、常温保存できる豆腐、豚肉の缶詰など
・野菜、食物繊維、カリウム
食塩無添加の野菜ジュース、切り干し大根、干ししいたけなど
・脂質の質を整えるもの
無塩ナッツなど
特に使いやすいのが「食塩無添加の野菜ジュース」「魚の水煮缶」「乾物」です。火や包丁が使えなくても組み合わせやすく、備蓄の弱点になりやすい野菜やミネラル、食物繊維を補えます。中でも切り干し大根は、カリウムが豊富なのに食塩をほとんど含まず、水で戻すだけで一品になります。カリウムには、体にたまった余分なナトリウムを尿へ送り出す働きがあります。
ただし、腎機能が低下している人、特に透析中の人や高カリウム血症を指摘されている人は、野菜ジュースや乾物を増やすとカリウムが過剰になることがあります。カリウム制限や水分制限がある人は、主治医の指示を優先し、自分用の備蓄を別に用意しておくと安心です。
備蓄で見落とされやすいのがビタミンです。白米やパンが中心になると最初に足りなくなるのがビタミンB1で、炭水化物をエネルギーに変えるときに使われるため、主食が増えるほど消費も増えます(※3)。
豚肉の缶詰、大豆、ナッツを備蓄に混ぜておくと自然に補えます。魚の缶詰もビタミンDやB12が豊富なので、月に何度か食卓に出せば、入れ替えと栄養補給を同時にこなせます。
Q.血圧の数値や塩分などが気になる中高年層が、災害時や備蓄消費時に意識すべき賢い減塩、栄養補給の方法について教えてください。
林さん「最も簡単で効果が大きいのは、『食べる量を極端に減らす』のではなく、『塩分が濃い部分を残す』ことです。災害時は体力を保つためのエネルギーが必要なので、主食や主菜まで減らしてしまうより、汁やスープ、たれ、ソースを調整する方が合理的です。主に次の取り組みにチャレンジしましょう」
・カップ麺、即席麺は汁を飲み干さない
麺類の汁を残すだけで、2~3グラム程度のまとまった減塩になります。
・味付き缶、レトルトは、たれや煮汁を残す
エネルギーは確保しつつ、塩分の多い液体部分を減らせます。「水煮」と書いてある缶詰にも食塩は入っていて、一般的なサバの水煮缶を汁ごと食べると食塩1.5グラム前後になります。
・「熱中症対策だから塩を追加」と常に考えない
3食取れている人なら、日常的に塩分を上乗せする必要はありません。経口補水液は脱水した人が飲む「治療用」の飲み物で、500ミリリットルに食塩が約1.5グラム入っています。暑いからと水代わりに飲み続けると、それだけで1日の目標量に迫ってしまいます。なお大量に汗をかいたときや、嘔吐(おうと)、下痢があるときは、別の対応が必要です。
併せて大切なのが、「減塩」と「脱水予防」を対立させないことです。塩分を控えるために水まで減らす必要はありません。避難所では、トイレに行きにくいからと水分を控え、長時間座り続けることがエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)につながります。
血栓は水分不足だけでなく、足を動かさず血流が滞ることでもできます。「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎを軽くもむ、座ったまま足首を上下に動かす、それだけでも予防になります(※4)。
とりわけ注意したいのが車中泊です。2016年の熊本地震では避難を経験した人の約7割が車中泊をし、発災直後にエコノミークラス症候群が集中して発生しました(※5)。座席では膝が曲がったまま固定され、横になるより足の血流が滞ります。「夜だけでも足を伸ばせる場所を確保する」「数時間おきに外へ出て歩く」といった行動がそのまま予防になります。
Q.災害後の避難生活でどのような症状が出ると危険なのでしょうか。
林さん「片方のふくらはぎだけが腫れる、痛む、赤くなるのは血栓のサインです。そこから突然の息切れや胸の痛み、失神が起きたときは、ためらわず救急要請をしてください。
ただし、心不全や腎臓病で水分制限を指示されている人は、大量に水を飲むのは適切ではありません。持病がある人ほど、平時から『災害時に薬と食事・水分をどうするか』を主治医と確認しておくと安心です。
薬そのものも、食事と同じくらい大切です。血圧や心臓の薬を自己判断でやめると、血圧や脈が跳ね上がり、災害時の循環器トラブルの引き金になります。手持ちが少なくなったら医療スタッフや薬局に早めに相談しましょう。お薬手帳をスマートフォンで撮影しておくと、被災地でも処方の再開が早くなります」
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非常食は「健康に悪い食品」ではなく、災害時に命をつなぐ道具です。大切なのは、塩分の多い商品ばかりに偏らないこと、主食だけで終わらせないこと、水分を極端に控えないことです。片脚だけの腫れや痛み、突然の息苦しさや胸痛があれば「避難生活だから仕方ない」と我慢せず、早めに避難所の医療スタッフへ伝えてください。
ローリングストックの段階から魚や大豆、野菜、乾物を組み合わせ「自分の持病でも食べられる備蓄」を作っておきましょう。お薬手帳の写しを備蓄袋に入れておくことも、食料の備えと同じくらい役に立ちます。
【参考文献】
(※1)日本循環器学会・日本脳卒中学会・日本静脈学会・日本高血圧学会「災害時脳卒中・循環器病発症予防啓発ポスター等活用のお願い(4学会合同)」
(※2)農林水産省「家庭備蓄ポータル」
(※3)厚生労働省 e-ヘルスネット「災害発生に備えた栄養・食生活の工夫」
(※4)厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」
(※5)内閣府「平成28年熊本地震における車中泊の状況について」(熊本県提出資料)
(オトナンサー編集部)








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