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老後「要介護が10年以上」は誤り? 統計が示す意外な実像、健康寿命“3つの定義”

老後の「健康」の捉え方について、高齢者研究のNPO法人の理事長である筆者が解説します。

「健康寿命」の正しい捉え方とは?(画像はイメージ)
「健康寿命」の正しい捉え方とは?(画像はイメージ)

 健康不安をあおり、生活習慣の改善サービスやサプリメント、保険商品や健康食品などを勧めるコマーシャルなどでよく使われるのが、次のようなフレーズです。

「日本人の健康寿命は、男性が約72歳、女性が約75歳。平均寿命との差は男性で約9年、女性で約12年。ということは、人生の最後にそれだけ長い介護が必要な期間があるのです」

 健康でいられるのは70代前半までで、その後は介護を受けながら生きなければならないから、これにしっかりと備えようという呼び掛けです。

 しかし、この説明は大いに誤解を招くものです。そもそも、健康寿命と言うからには「健康とはどのような状態か」を決めて、健康と不健康の境界線をどこに引くかを定めなければ計算できません。その定義や線引きを理解すれば、上のような言い方のおかしさはすぐに分かります。

3つの「健康」の捉え方

 健康寿命というときの「健康」には、3つの捉え方があります。

 第一は、「健康上の理由で、日常生活に制限があるかどうか」です。「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か制限がありますか」という質問に、「ない」と答えた人を健康、「ある」と答えた人を不健康と分類します。一般に健康寿命として紹介されるのは、この定義による数字です。

 例えば、「膝が痛いので遠出を控える」「疲れやすくなったので旅行を取りやめる」「持病があるので激しい運動を避ける」という人が、「健康上の理由で生活に制限がある」と答えれば、不健康に分類されます。病気のあるなしや、介護や生活サポートの必要性といったこととは関係なく、制限なく動けることを健康と定義しています。「自由に動ける寿命」と呼ぶのがニュアンスとして近いでしょう。

 第二は、「自分が健康であると感じているかどうか」で、現在の健康状態を「よい」「まあよい」「ふつう」と答えた人を健康、「あまりよくない」「よくない」と答えた人を不健康とするものです。多少の不調や持病があっても、本人が「まあ、元気な方だ」「普通には暮らせている」と思える期間です。定義からしてこれを、「まあ元気寿命」と呼びましょう。

 第三は、「日常生活動作が自立しているか」です。介護保険の要介護2以上を不健康とし、それより軽い状態を健康とします。要支援や要介護1であっても、この定義では健康の方に含まれます。これは「自立生活寿命」と言えるでしょう。

 まとめれば、健康寿命には、健康上の理由で行動を制限されずにいられる「(1)自由に動ける寿命」、自分の状態を少なくとも普通だと思える「(2)まあ元気寿命」、要介護2以上にならずに暮らせる「(3)自立生活寿命」という、3つの捉え方があるのです。

「9年、12年」は要介護期間ではない

 これらについて、厚生労働省が公表する2022年の健康寿命に関するデータを見ると、男性は「自由に動ける寿命:72.57歳」「まあ元気寿命:73.21歳」「自立生活寿命:79.67歳」となっています。女性では「自由に動ける寿命:75.45歳」「まあ元気寿命:77.10歳」「自立生活寿命:84.05歳」です。

 ざっくり言えば、70代前半~中盤までは自由に活動できる。その頃から徐々に、健康上の理由で何かを控えることが出てくるようになるものの、「まあまあ元気だ」と感じながら自立生活は続いていき、男性は80歳、女性は84歳くらいになって介護リスクが高くなってくるというイメージです。

 ちなみに、2022年の平均寿命は男性81.05年、女性87.09年でした。自立生活寿命との差は男性1.38年、女性3.04年です。もちろん人によって幅はありますが、テレビコマーシャルなどでよく聞く「男性は9年、女性は12年の要介護期間がある」という説明とは実態が大きく異なります。

 要するに、男女とも80代まで、多少の不具合を抱え、必要に応じて軽い支援を受けながらも、自立して暮らす期間が続くというのが、統計から見える高齢期の実像です。

老後を「介護」前提で考えるか、「自立」前提で考えるか

「人生の最後には、男性で9年、女性で12年もの要介護期間が待っている」と考えるか、「80代まで、長い自立生活の期間がある」と考えるかによって、高齢期の生活設計は変わります。

 長い要介護期間を前提にすれば、介護費用を蓄え、介護サービスを確保し、世話をしてもらえる場所を探すことが、生活設計の主眼になるでしょう。

 一方、長い自立生活期間を前提にすれば、80代、さらにその先をどこで、誰と、何をして暮らすかというポジティブな暮らしを考えるでしょう。住まいを選ぶ基準も、「介護が必要になったときに安心か」だけでなく、「自立している長い時間を充実して暮らせるか」になるはずです。

 そういう意味で、冒頭のような誤った説明は、長く残されている自立生活の可能性を見えにくくし、高齢期の選択を必要以上に消極的にしてしまっている恐れがあるということは指摘しておきたいと思います。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)、「老い上手」(PHP出版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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