もし大地震が起きたら…会話ができない自閉症の息子とどう逃げる? 母が痛感した“共助だけに頼らない備え”
自閉症の息子を育てる女性ライターが伝える、防災公園の訪問で見えた「本当に必要な災害の備え」とは。

「べっこうあめアマミ」というペンネームでライターとして活動する私は、重度知的障害を伴う自閉症の11歳の息子と、きょうだい児である娘を育てながら、発達障害や障害児育児について発信を続けています。
今回、家族で東京都江東区有明にある東京臨海広域防災公園の「そなエリア東京」を訪れたエピソードをつづります。地震が起きたとき、障害がある息子を連れてどう避難するのか、実際の地震発生時を再現した施設で体験したのは、地震の恐ろしさだけではありませんでした。防災について考え始めた小学2年生の娘の変化。そして自分たちでできる「備え」を考えることにもつながったのです。
障害がある息子を連れてどう逃げる?
テレビで地震のニュースを見るたびに、私は考えます。
「もし、今ここで大きな地震が起きたら、この子たちを連れて逃げられるだろうか」
重度知的障害を伴う自閉症がある息子は、特別支援学校の小学6年生です。
息子は知的障害の重さゆえに、会話が一切できません。災害が起きたとき、自分で状況を理解して、安全な場所まで避難することも難しいでしょう。
そして、「普段と違う」環境や状況が極端に苦手な息子が、突然の地震や避難所での生活に、どう反応するのかも分かりません。ですから、防災については他の家以上によく備えていかなければならないと常々思っていました。
しかし、少しずつ防災用品を買いだめてはいるものの、子どもたちの防災意識を高めるのは難しいものです。大きな災害を体験したことがない子どもたち。特に息子は、学校で何度も防災訓練をしても、いまいちピンときていないような気がしました。
そんなわが家がある休日に向かったのは、東京都江東区有明にある、東京臨海広域防災公園。ここは、大地震が起きたときに防災拠点となる公園です。
広々とした敷地は、それだけでも子どもが走り回りたくなるような開放感があります。
実際、娘は公園に着いた途端に走り出しました。その公園の中にあるのが「そなエリア東京」です。ここでは、地震発生後の支援が少ない時間を生き抜く知恵を学ぶ、防災体験学習ツアー「東京直下72h TOUR」を中心に、体験しながら防災について学ぶことができます。
個人や家族なら予約は必要ありません。ただし、1時間に1回程度行われる防災体験ツアーには定員があるため、早めに行って受付で名前と人数を伝えておくのがよいです。
いよいよツアーが始まり、最初に乗ったのはエレベーター。「エレベーター内で地震が起きた」という設定で、ツアーがスタートします。
エレベーターという密室で、暗い中閉じ込められるのは、大人もちょっと恐いものです。
エレベーターを降りると、そこは停電した薄暗い通路。避難誘導灯が足元を照らす中を歩きます。普段の生活ではなかなか出会わない状況ですが、息子は何が起きているのかをしっかり理解しているわけではなさそうです。それでも、いつもとは違う空気を感じ取ったのか、夫にピタッとくっついて離れません。小学2年生の娘の表情もこわばっていました。
そして、通路の先にある非常出口を抜けると、被災した街並みを再現した実物大のジオラマが広がっていました。
がれきの山や、崩れた建物、家の中を窓からのぞくと、家具や物が散乱しています。地震対策をしていた家としていなかった家で被害状況が違う様子も、分かりやすく見られました。
娘と息子は地震後の街並みが怖かったようで、少しおびえていました。でも、その「怖い」という感覚こそが、災害を自分ごととして考える最初の一歩かもしれません。
72時間をどう生き抜くか
大きな地震が起きたとき、国や自治体などの支援体制がすぐに整うとは限りません。支援が届くまでの間、自力で生き残らなければならない時間の目安が「72時間」、つまり3日間と言われています。
先述の東京直下72h TOURでは、マグニチュード7.3、最大震度7の首都直下地震が発生したという想定で、地震発生から避難までを体験します。渡されたタブレット端末を使ったクイズに答えながら、災害時に生き抜くための知恵を学んでいけるのです。
被災した街並みの次に待っていたのは、避難場所のコーナー。さらに避難生活ゾーンへと進みます。
災害時は、まずは自分の身を守ることが大切。しかし自分だけがよければいいわけではなく、周囲の人と助け合う「共助」も大切になっていきます。
障害がある子どもを含めた2人の子どもを育てている私は、どうしても子どものことを考えてしまいます。
「不安があると動かなくなる息子をどうやって避難させよう」
「避難所でどう過ごそう」
「大きな音や人混みの中でパニックになったらどうしよう」
考え始めると不安が次々と出てきます。しかし災害が起きれば、その地域に住む誰もが被災者です。
息子の「支援者」になってくれる立場の人たちだって被災しており、けがをしているかもしれません。家族がいる人も多いでしょう。
息子に支援が必要だからといって、必ずしも支援を受けられるとは限らないのです。だからこそ、自分たちでできる備えをしておく必要があると実感しました。
施設には、首都直下地震について「なぜ起きるのか」「どのような被害が想定されているのか」を学べるコーナーもあります。津波について正しい知識を学ぶコーナーでは、壁に描かれた津波の高さの絵に娘が驚いていました。
暮らしの中でできる備えを紹介するコーナーには、実際の防災グッズも並んでいます。
そして、映像ホールで東京で直下型地震が起きた様子を描いたアニメを見ていると、娘と息子が途中で席を立ってしまいました。怖かったのです。アニメ大好きな娘が席を立つとは、それだけ地震の怖さを感じたのだなと思いました。

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