夏の下痢「冷房で冷えただけ」は勘違い? 放置すると危険な“意外な原因”とは【消化器専門医に聞く】
下痢を一時的なものだと思って放置した場合、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。消化器病専門医に聞きました。

夏は暑さで胃腸が弱ったり、冷房でおなかを冷やしてしまったりするなどして、下痢が生じることがあります。SNS上では「夏なので胃腸が弱って下痢をしている」「夏に入ってから下痢が続いた」「夏の下痢はしんどい」などの声が上がっています。
ところで、下痢を一時的なものだと思って放置した場合、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(大阪市天王寺区)院長で総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医の安江千尋さんに聞きました。
暑さや冷房以外の原因も
Q.そもそも、夏に下痢が出やすい理由について教えてください。
安江さん「まず、『夏の下痢』という特別な病気があるわけではありません。ただ、夏は下痢を起こす条件が重なりやすい季節です。
特に注意したいのが、細菌による食中毒です。一般に細菌性食中毒は夏場に多く、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどが代表的です。一方、ノロウイルスなどウイルスによる食中毒は冬場に多い傾向がありますが、食中毒そのものは一年を通して起こります。
夏はバーベキューや焼き肉など、肉を自分で調理する機会もあります。特に注意したいのが、生や加熱不十分な肉です。
例えばカンピロバクターは、主に加熱不十分な鶏肉などから感染し、食べてすぐではなく、数日たってから下痢、腹痛、発熱などが現れることがあります。そのため、『昨日冷房に当たったから下痢になった』と思っていても、実際には数日前に食べたものが原因だったということもあるのです。
肉類は新鮮だから安全とは限りません。厚生労働省も、生や加熱不十分な食肉には鮮度にかかわらず食中毒の危険があると注意喚起しており、加熱する場合は中心部75度で1分以上が一つの目安です。
また夏は、冷たい飲み物やジュース、アイス、果物などを一度に多く取ることがあります。問題は『冷たいこと』だけではありません。乳糖や果糖、糖アルコールなどを一度に多く取り、腸で十分に吸収されないと、腸管内に水分が引き込まれて下痢を起こすことがあります。
つまり夏に下痢が起こりやすい背景には、単に『暑さで腸が弱る』『冷房でおなかが冷える』のではなく、食中毒が起こりやすい環境に加えて、食事や飲み物、生活習慣の変化など、複数の要因が重なっていると考えるのが適切です」
下痢を放置するリスクとは?
Q.では「冷房でおなかが冷えただけ」と放置すると、どのようなリスクがありますか。
安江さん「『冷房でおなかが冷えたから下痢をした』と感じる人がいますが、冷房による腹部の冷えだけで下痢が起こるとする強い医学的根拠は十分ではありません。
もともと過敏性腸症候群などで腸が刺激に敏感な人は、温度変化やストレスなどをきっかけに腹痛や便通異常が起こることはあります。しかし、夏の下痢をすべて『冷え』で説明してしまうのは危険です。
実際の診療では、『冷房に当たったか』以上に、発症前に何を食べたか、いつ食べたか、発熱や血便を伴っていないかといった情報が重要です。例えば、『数日前までに生・加熱不十分な肉を食べていないか』『同じ料理を食べた人にも下痢や嘔吐(おうと)がないか』『発熱や血便を伴っていないか』『最近、抗菌薬を使用していないか』『海外旅行後ではないか』などを確認します。
夏のバーベキューでは、肉を十分に加熱していても、生肉を扱ったトングや箸で焼いた肉を再び触れば、細菌が付着する『二次汚染』が起こる可能性があります。 食中毒対策では加熱だけでなく、『菌をつけない』ことも非常に重要です。
さらに注意したいのが、『夏とは関係のない病気が、たまたま夏に発症している』可能性です。
下痢が長引く場合には、感染症だけでなく、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、薬剤による下痢なども考える必要があります。抗菌薬を使用した後なら、クロストリジオイデス・ディフィシル大腸炎が原因になることもあります。
また、『下痢=とにかく止めればよい』と考えるのも注意が必要です。健康な成人の軽い水様性下痢ではロペラミドなどの止瀉薬を使用できる場合がありますが、発熱を伴う炎症性下痢などでは、腸の動きを抑える薬を避けるべき場合があります。
『冷房でおなかが冷えただけ』と思い込むことで、本来受診すべき食中毒や腸の病気を見逃さないことが大切です。発熱や血便、脱水傾向が見られる場合は、放置せずに医療機関を受診しましょう」
(オトナンサー編集部)









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