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本場中国に存在しない「中華料理」、同名でも異なる「中華料理」

日本で提供される中華料理には、中国に存在しないものや、同じ料理名でも中国とは少し違うものがあります。どのように違うのでしょうか。

日本では定番の天津飯
日本では定番の天津飯

 日本各地には数多くの中華料理店があり、日本人にはなじみ深いものです。しかし、中華料理店で提供される中華料理の中には、中国には存在しないものや、同じ料理名でも中国とは少し違うものもあります。

 どのような料理が日本のものと違うのか、日中の異文化ギャップを数多く取材している筆者が解説します。

天津飯はあると思いきや…

 新型コロナウイルスの影響で、外食する機会は圧倒的に減りましたがこれまで、ランチはオフィスに近い中華料理店で食べていたという人も結構多いと思います。

 日本には「町中華」という独特のジャンルがあり、手軽でおいしい日本風の中華料理を食べることができますが、この町中華には、中国には存在しない料理や、同じ料理名でも中国とは少し違う料理があるということをご存じでしょうか。

 すでに日本でもかなり知られていますが、中国に存在しない中華料理といえば、「天津飯」が挙げられます。

 天津飯は簡単にいえば、「ご飯の上にかに玉とあんをかけたもの」。ふんわりした卵と甘いタレが大好きという日本人は多いですが、中国には天津を含め、どの地方にも、このような料理はありません。似たような料理(中国語で芙蓉蟹=フーロンハイ=と呼ばれる)があるにはありますが、天津飯の元祖ではないようです。

 同じ天津つながりでいえば、中華料理ではないのですが、天津甘栗も中国には存在しません。天津甘栗は天津港が甘栗の出荷地なので、日本ではこう呼ばれるようになったとか。中国人に「天津甘栗、好き?」と聞いても不思議な顔をされてしまうでしょう。

 次に、同じ料理名でも中国とは少し違う中華料理には「担々麺」があります。担々麺も町中華の代表的な料理の一つ。辛い担々麺を汗だくになって食べるのが大好きという人も多いでしょう。

 この担々麺、日本で一般的なのは「汁あり担々麺」だと思いますが、本場の中国・四川省では「汁なし」が普通です。ひき肉やザーサイなどを細かく切り、辛みを加えて炒めて麺にあえたもの。日本人が想像するものとだいぶ違います。

 最近は日本の町中華でも、汁なし担々麺を見かけることはありますが、実はそちらが本場と同じだと知らない人もいるのでは?

 他に、本場と違う中華料理に「回鍋肉(ホイコーロー)」があります。「青椒肉絲(チンジャオロースー)」と同じく、ルビを片仮名で振らなくても読めるという人が多いのではないでしょうか。町中華の定食でも大人気です。

 本場では「ホイグオロー」という片仮名表記に近い発音なのですが、日本では、インスタントの中華調味料も含めて「ホイコーロー」という呼び名がすっかり定着しており、家庭料理にもなっています。

 さて、この日本風の回鍋肉は本場とどこが違うのでしょうか。日本では、豚肉、キャベツ、ピーマンなどをピリ辛の調味料で味つけするもので、中には甜面醤(テンメンジャン)などを使った甘い味つけの店もあります。しかし、本場では、キャベツは使いません。そこが最大の違いです。

 回鍋肉が名物の四川省出身の友人によると、四川省ではキャベツではなく、ニンニクの葉を使うそうです。来日して、日本で初めてキャベツの回鍋肉を食べたときは衝撃を受けたとか。

 都内で四川料理店を営むコックさんによると、回鍋肉とは文字通り、「もう一回、鍋に肉を戻す」という意味。材料は豚バラ肉とニンニクの葉で、主な調味料は豆板醤(トウバンジャン)。豚の塊肉を鍋で煮てから、一度取り出して薄く切り、再び鍋に戻して、ショウガや豆板醤、ニンニクの葉と一緒に炒めます。

 日本では、ニンニクの葉がほとんど手に入らないので、キャベツで代用するようになったそうです。

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中島恵(なかじま・けい)

ジャーナリスト

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学留学。中国、香港、韓国など主に東アジアの社会、ビジネス事情などについて執筆している。著書は「なぜ中国人は財布を持たないのか」「日本の『中国人』社会」「中国人は見ている。」(いずれも日本経済新聞出版社)「中国人エリートは日本をめざす」(中央公論新社)「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(プレジデント社)など多数。

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