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合理的な中国人が「手書き」のよさに気付く日は近いのか

中国では、SNSや電話で要件を済ませ、「手書き」でメッセージを書く人が少なかったのですが、最近は手書きでメッセージを送る人が増え始めているようです。なぜでしょうか。

中国人が手書きを見直し?
中国人が手書きを見直し?

 日本とは比べものにならないほど猛烈な勢いでIT化が進み、スピーディー、かつ合理的であることを優先させる中国では、人々が「手書き」でメッセージを書くことは少なく、直筆で手紙を書く機会となると、少なくともこの10年はほとんどありませんでした。SNSでメッセージを送るか、電話で済ませることが大半だったためですが、昨今ではわざわざ、手書きでメッセージを送る人が少しずつ増えています。それはなぜでしょうか。

日本のアニメやドラマも影響

 手書き文化が根付いている日本では、メールやLINEが普及した今でも、直筆で手紙やはがきを書く機会が少なくありません。印刷された文字では伝わらない、手書きのぬくもりの重要性を理解している日本人は多いからです。中高年に限らず、若者でも、好んで手紙を書く人はいます。

 しかし、中国では、一般の人々が日常的に直筆で手紙を書くということはあまりありませんでした。理由の一つに、郵便事情があまりよくなく、郵便配達が遅いという問題もありますが、2010年代にスマホが普及してからは何でも、SNSや電話で連絡するようになり、ますます、手書きの機会は減りました。

 そんな中国ですが、近年は手書きでメッセージを送る人が増えています。上海在住の女性と電話で雑談していたとき、デリバリーのランチの話になりました。その女性は健康志向で、よく、サラダとパンのセットを注文するそうですが、この1~2年、注文したサラダの脇に手書きのメモがついてくるようになったというのです。

「メモには『○○様、いつもご注文ありがとうございます! サラダは健康にいいですね! 今度、お酢を利かせたドレッシングを発売しました。サンプルを付けますので、ぜひお試しくださいね。今日もすてきな一日を!』と書いてありました。

店長の名前とスマイルマークのイラスト付きで、かわいかったです。配達員はただ、ランチを手渡すだけですが、パックの中にこんなメモがあると心がほっこりしますし、店長の人柄が伝わってきて、また注文しようと思いますね」(上海在住の女性)

 この女性によると、以前の中国では、このような面倒くさいことをする人はおらず、「直筆でメモを書くことに一体、何の意味があるのか?」と思う人が多かったそうです。

 こうした直筆のメモを書くことは女性によると、「デリバリーの競争が激化し、少しでも他店との差異化を図る戦略の一つでもある」そうですが、自分の気持ちを伝えるためにメモを書くことを思い付くようになったのは、今の中国人の精神的な余裕の表れであり、社会の大きな変化だというのです。

 この女性は以前、日本に住んでいて、日本人から、心のこもった手紙をもらった経験があったので、このようなささいな変化に気が付いたと話していました。

 日本に住んでいる別の中国人女性も、手書きのよさを感じる一人です。数年前、日本各地を旅した際、その地方ならではのポストカードがたくさん売られていることに気付き、「中国ではあまり見かけない文化。すばらしい」と思い、それから、各地のポストカードを集めるようになったそうです。彼女が中国に帰省していた際、日本のポストカードを使う機会が巡ってきました。

「高速鉄道(中国の新幹線)に乗っていたとき、急いで、友人にメッセージを送る用事ができたのですが、Wi-Fiにつながらず困っていました。ちょうど、近くの席の中国人男性が日本語で話しているのが聞こえてきて、とっさに、その人のWi-Fiを借りられないかと思って声を掛け、貸してもらうことができたんです」

 彼女は感謝の気持ちを伝えたいと思い、いつも、かばんの中に入れている日本のポストカードにメッセージを手書きして、男性に渡したそうです。「日本語が分かる中国人だったので、日本的な直筆の温かみが伝わるのではないか」と思ったといいます。手渡された男性は一瞬、驚いたような表情をしましたが、とてもうれしそうだったと彼女は話していました。

 以前はそもそも、中国では、かわいいレターセットやポストカードは売られていなかったのですが、最近は取り扱う書店や文具店が増えてきたそうです。SNSに依存する中国社会ですが、日本のアニメやドラマの影響もあり、「手書き」というアナログ文化のよさに気付く人が増えてきているようです。

(ジャーナリスト 中島恵)

中島恵(なかじま・けい)

ジャーナリスト

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学留学。中国、香港、韓国など主に東アジアの社会、ビジネス事情などについて執筆している。著書は「なぜ中国人は財布を持たないのか」「日本の『中国人』社会」「中国人は見ている。」(いずれも日本経済新聞出版社)「中国人エリートは日本をめざす」(中央公論新社)「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(プレジデント社)など多数。

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