公務員男性から性的被害を受けた29歳女性、泣き寝入りせず「慰謝料」を手にした行動力(上)
遅ればせながら沸き上がった怒り
男は、最初から最後まで唯さんに性交渉の同意を求めていません。もちろん、求めても唯さんが同意するはずはありません。唯さんの話を聞く限り、これは誰が見ても「遊び」などではなく、れっきとした性犯罪です。強制性交等罪(刑法177条。2017年7月の法改正で準強姦罪が廃止され新設された)に該当するのは明らかでしょう。
唯さんのショックはあまりに大きく、当日の記憶を思い出せない日々が続いたそうです。今回の場合、男とは全く面識がなく、携帯番号、メールアドレス、LINEのID……一切の連絡先を知りませんでした。
それでも、事件から時間がたつにつれ、唯さんの心の中で復讐心が芽生えてきました。「泣き寝入りしたくない」「絶対に責任を取らせなければならない」「少なくとも慰謝料を支払わせないと」。遅ればせながら、男に対する怒りの感情がふつふつと沸き上がったのです。
本来、女性が性被害に遭った場合、ちゅうちょなく警察に相談できる人もいます。しかし、飲み屋で出会った公務員の男に乱暴をされた唯さんはそれができませんでした。詳細な取り調べや裁判などで、暴力の記憶を詳細に思い出さなければならなかったり、長い間、裁判などを通じて男と何らかの関わりを持たなければならなかったりすることは耐えらなかった、と唯さん。
そこで、せめて慰謝料を支払わせることで、「自分の中で決着しよう」と思ったそうです。
当日、飲み屋で男は唯さんに、自分がちゃんとした公務員であることを証明する「身分証」を見せました。そこには、男の名前や所属も書かれていたそうです。事件直後はその名前や所属を思い出せなかったのですが、記憶が少しずつ戻ってきたそうです。
唯さんが慰謝料を払わせようと強く思う一方で、ちゅうちょする気持ちもありました。こちらが反撃したことに対して「逆恨み」されるのではないかという不安があったのです。今回の場合、犯行現場が自宅の部屋だったので男は唯さんの自宅の場所を把握しており、再度行くことも可能でしょう。つまり、男が再び訪ねてくる危険がありました。
しかも、事件後、唯さんは部屋のスペアの鍵がどこかへ消えていました。唯さんが茫然自失の状態である隙(すき)を見て、男が鍵を持ち出すことは十分に可能です。
男がその鍵を悪用したら……? 唯さんが帰宅した瞬間に部屋で待ち構えていたり、不在の間に部屋へ忍び込んだり、持ち物を盗み出したりする危険がありました。最も危惧されたのはレイプの再犯でした。
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)
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