一日中業者を監視、ノイローゼに…家を建てる「隣人」に庭を貸した夫婦の悲劇
隣近所が皆、親戚のような村社会で、隣人の理不尽な振る舞いに悩まされる女性のケースを紹介します。

「隣人」がどのような性格や価値観、考え方の持ち主か。それによって「QOL(Quality of Life、生活の質)」は大きく変わってきます。
都市部なら、どこに住むのかはある程度自由なので、嫌なら引っ越すという選択肢もありますが、郊外はどうでしょうか。先祖代々、同じ土地に住み、隣近所は親戚だらけで幼少から知っている間柄だとしたら。このような村社会で一番大事なのは、世間体です。和を乱さないよう波風を立てず、見えを張らず、静かに暮らすのが大事です。
しかし、隣人が自分と同じ価値観や人生観、考え方とは限りません。例えば、まともに働かず、親の金で暮らし、誰にどう思われてもへっちゃら…いわゆる「無敵の人」だとしたら。自分の頭の中しか「世界」がないので、わがままの限りを尽くしても何とも思わないのですが、このような人間が隣人だと悲惨です。
どんなに嫌な相手でも、ここから出て行くことは許されないのです。だからといって、隣人を注意しようにも、そのことで相手を刺激し、逆上され、近所で悪口を言いふらされたりしたら大変です。何十年もかけて築き上げた評判は地に落ちるでしょう。体裁を守りたいという気持ちにつけ込み、わがままを言い続ける彼(泉谷光)に悩まされているのは、今回の相談者、志村果歩さん。一体何があったのでしょうか。
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名)>
志村果歩(42歳) 専業主婦 ※今回の相談者
志村猛(44歳) 会社員、果歩の夫、自宅の所有権者
泉谷隆太郎(56歳で逝去) 地方公務員、光の父親
泉谷あかり(54歳で逝去) 保険外交員、光の母親
泉谷光(28歳) 無職、果歩の隣人
彼はこれまで、市役所勤務の父親、保険外交員の母親と一軒家で暮らしていました。果歩さんは、お隣さんは夫の遠い親戚だと聞いていましたが、隣近所とはいえほとんど顔も見ないし、たまにすれ違ってもあいさつもせず、逃げるように立ち去るような間柄。近所付き合いはほとんどなかったので、親戚とはいえ他人のような距離感でした。
彼は東京の大学を卒業すると地元に戻り、中学校で社会科の教員として働いていたのですが、わずか2年で退職。それ以降、彼がどこで何をやっているのか知る由もなく…「引きこもりなのでは?」とうわさが立っていました。彼の家は築40年をとっくに過ぎており、モルタルの壁は色あせ、塗装ははがれ、庭の水道はさび付き、老朽化の色をぬぐえない感じでした。
彼の両親が不慮の交通事故に巻き込まれ、不運にも命を落としたのは半年前。通夜や葬儀で、彼が気丈に振る舞う姿に果歩さんはもらい泣きしてしまったそうです。
他人からすれば、遺族は一定期間、喪に服し静かにしていると思われがちですが、葬儀から1年もしないうちに新築が建つケースは珍しくありません。なぜなら、遺族は「親が死んだら建て直そう」と前々から思っており、着々と計画を練っているからです。そして、目の上のたんこぶが消えた途端、計画を行動に移すのです。親の死を悲しむ気持ちと、新しい家が欲しい気持ちは別問題です。
無職の彼は父親の死亡退職金、保険金、そして事故の加害者からの損害賠償金…1億円近いあぶく銭を手にしたのですが、気が大きくなり、横柄な態度をとるようになった彼が、まさか自分たちに災いをもたらすことなど、果歩さんは全く心配していなかったのです。
ある日突然、彼が解体業者の人間を伴って果歩さんの自宅を訪ねてきました。彼いわく、古い家を取り壊して新しい家を建てたいが、面している道路が3メートルぎりぎりで、工事車両が通るには狭い。そこで、果歩さんの家の庭を通してほしいと頼んできたのです。
もちろん、果歩さんの一存で返事をすることはできないので夫に相談したところ、「そこまで言うなら」と彼を信用し、通行を許可したのです。通行の条件は「月10万円の通行料を毎月末日に支払うこと」「通行期間は1年間」。隣同士に住んでいるのに約束を破ったりしないだろう。果歩さん夫婦は信じて疑わなかったので、書面に残さなかったのです。これが後々、災いの種に化けるとはつゆ知らず。
3メートルの道ではなく、果歩さんの庭を通すのは、工事車両を使って工期を短縮するためです。これは彼の都合で、果歩さんには何の関係もありません。彼は果歩さん夫婦に感謝すべきですが、恩をあだで返すような行為を繰り返したのです。
果歩さんが筆者のところへ相談に来たのは、工事が始まって8カ月後のこと。最初に、解体業者が古い家の取り壊しを始めたのですが、果歩さんの庭はコンクリートで舗装されていません。それなのに、3トントラックが果歩さんの庭を通るだけでなく、庭の真ん中に止まったため、庭の土が陥没し、下水道は破裂し、水が吹き上がったそうです。
「どうなっているんですか!」
果歩さんは解体業者に文句を言ったのですが、業者は「うちらは雇われなんで、あっち(彼)に言ってもらえますか」と取り合ってくれなかったのです。やむを得ず、果歩さんは自腹で下水道を修理したそう。28歳の若者の粗相に目くじらを立てても仕方がないので、今回ばかりは大目に見ることにしたのです。
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