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一日中業者を監視、ノイローゼに…家を建てる「隣人」に庭を貸した夫婦の悲劇

通行時間の制限、弁償などを要求

 そのことを踏まえた上で、果歩さんが彼に対して求めたのは以下の7点です。

 1つ目は、通行の許可を平日の午前10時から午後4時に限ること。これは果歩さんが終日、見張っていたことでノイローゼを発症したためです。2つ目は、他の業者(電気、水道、ガスなどの設置)が通行する場合は都度、夫の承諾を得ること。これは、解体業者が下水道管を壊したことを新築業者へ伝えなかったことで、同じことが起こった反省からです。

 3つ目は、下水道管の修理、そして物置の弁償として彼が30万円を支払うこと。4つ目は、今後、業者が庭のものを壊した場合、業者が責任をもって原状回復すること。あらゆる方法を検討しても原状回復がかなわない場合、損害賠償金を支払うこと。過去の経緯を考えると、業者がまた別のものを壊してもおかしくないからです。

 5つ目は、2トンを超える車両は庭に停車しないこと。近所の住民に注意して慎重に運転すること。6つ目は、過去の通行料として80万円を彼が責任をもって支払うこと。7つ目は、月10万円の通行料を工事が終了する月まで彼が支払うこと。

 そして、1から7の内容に違反した場合、通行の許可を取り消し、今後は一切許可しないという厳しい内容でした。諸悪の原因は彼との話を口約束で済まし、書面化しなかったことです。そのため、これらの内容を契約書に起こし、彼と業者が自筆し、実印を押印し、印鑑証明を添付することを条件としたのです。

 しかし、法律の根拠があるとはいえ、彼が素直に従うはずがありません。「オバサン! 金、金ってうるせえなあ。親戚から金を巻き上げるなんていい度胸しているじゃないか?」と意味不明に逆ギレしたのです。

 果歩さんには、とっておきの切り札がありました。当初の約束で、通行の許可は1年間でした。しかし、昨年は度重なる巨大台風、そして、今年は昨年の台風や新型コロナウイルスの影響で工期が大幅に遅れている模様。予定通りなら6月に完成するはずが、9~10月までかかる様子です。もし、果歩さんが期間の延長を拒んだらどうなるでしょうか。

 無許可で庭を通行した場合、不法侵入罪(刑法130条)に抵触する可能性があります。もちろん、果歩さんの庭ではなく別の道を使えばよいのですが、その場合、大型の車両を使うことができず、ますます完成は遅れるでしょう。

 それを踏まえた上で、果歩さんが、彼の家が完成するまで通行の許可を延長する代わりに契約書に署名押印することを求めた結果、最終的には彼が折れ、彼は工期の短縮、果歩さんは署名押印済みの契約書を手に入れることができたのです。

 彼が果歩さんの目に入らないところに住んでいるのなら、もっと厳しく対処することができたでしょう。法律に違反しているのは彼の方なのです。彼(+業者)は8カ月分の通行料を支払っていないだけでなく、壊した下水道や物置を直しておらず、賠償金も支払っていません。

 そのため、果歩さんは彼(+業者)を相手に損害賠償請求の訴訟を裁判所へ提起することも可能です。もちろん、弁護士の名前で工事の中止や通行料の請求などを行うことも可能です。「警察」「裁判所」「弁護士」という辛辣(しんらつ)な言葉を並べ、内容証明郵便を送り付け、徹底的に圧力をかければよいわけ。内容証明は、裁判の一歩手前の段階で送付する最後通告です。相手が従わなければ「出るところに出てやる」という意味です。

 しかし、今回の場合、親戚相手に「出る」ことができないのだから、相手に甘く見られるのがオチです。しかも、果歩さんは今まで散々角が立たないように気を使ってきたのに、ここで過激なやり方に切り替えると、今までの我慢は水の泡です。なるべく穏便に収められるよう、言葉の強弱に気を使わなければならず苦労しました。

 果歩さんの隣人が彼ではない、もう少しまともな人間だったら、このような目に遭うことはなかったでしょう。彼は一度、中学校の教師を務めていますが、教師と生徒との間には明らかな上下関係があるので少々の身勝手は黙認されたのでしょう。当時の癖は抜けず、自分以外は目下という感じで理不尽な態度を取ったのかもしれませんが、学内のやり方は世間では通用しません。

 このように、理不尽でわがままで非常識な人間に振り回されたのは不運としか言いようがありません。とはいえ、夫が先祖代々、住み続けてきた家を「隣の若造が気に入らないから」という理由で捨てるわけにはいきません。残念ながら、彼が出て行かない限りは、ご近所さんのままです。あとは、予定通りに新しい家が出来上がることを願いつつ、彼と接点を持たないように暮らしていくしかありません。

(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)

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露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)

露木行政書士事務所代表

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。公式ブログ(https://ameblo.jp/yukihiko55/)。

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