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一日中業者を監視、ノイローゼに…家を建てる「隣人」に庭を貸した夫婦の悲劇

新築業者を監視してノイローゼに

 果歩さんは、二度と同じことが起こらないと信じ切っていました。古い家の取り壊しが終わると、今度は新しい家を建てるため、新築業者が出入りするようになったのですが、新築業者には過去の不手際(下水道の破裂)が伝わっていなかった模様。何食わぬ顔で、4トンのコンクリート車が果歩さんの庭を通ったので、修理したばかりの下水道が破裂し、水が噴き出したのです。

 さすがに彼の耳に入れなければならないと思い、果歩さんは彼が一時的に借りているアパートの部屋へ向かったのですが、彼は「それって俺のせいじゃないですよね? あっち(解体業者)に払ってもらえば」と責任をなすりつけようとしたのです。

 業者の横暴はこれにとどまらず、今度はトラックが庭にあった物置をなぎ倒し、破壊し、使い物にならなくなったそうです。「悪いっすね! 今度は気を付けます」と、業者の人間はまるで「謝れば済まされる」という感じで相手にされなかったのです。

 これでは、業者がいつ庭を傷つけるか分かりません。業者の横暴ぶりを見ると、他のご近所さんが車両にはねられる危険すらあります。果歩さんは朝から晩まで自宅に待機し、業者の様子をつぶさに観察するため、ずっと見張っていなければなりませんでした。

 彼が不義理を繰り返さなければ、こんな苦労を強いられることもないのに…果歩さんは、ふつふつと湧き出る怒りを抑えることができませんでした。そのせいで血圧が上がり、胸をふさぐような痛みが続き、夜になっても目がさえて眠れなくなってしまったのです。睡眠導入剤を処方されるほどひどい症状で、ノイローゼ気味と診断されてしまいました。

 新築業者の人間は、毎日のように果歩さんの庭に出入りしているので、業者に彼を説得してもらうという方法もありますが、依頼主は果歩さんではなく彼です。業者が果歩さんのために動いてくれるかどうかは分かりません。

 このように8カ月の間、彼が手配した解体業者、新築業者は問題を起こし、そのたびに果歩さんは注意するのですが、舌の根も乾かぬうちにまた別の新しい問題を起こすという繰り返しでした。「まさか!」と思い、果歩さんは夫の通帳を確認したのですが、やはり、通行料の月10万円は振り込まれていなかったのです。しかも、8カ月間、一度も。

 果歩さんの夫が彼のところへ文句を言いに行くと、「払えたら払うって意味っすよね? だいたい、親戚から金を取るっておかしいじゃないっすか?! そんなことしたら、角が立つってもんっすよ!!」と開き直ったそう。「あるとき払い」という持論を展開したのですが、夫は「話にならない」という感じで退散したようです。

 通行の約束は、彼と果歩さんの夫が交わしたのだから、通行料の支払い義務は業者ではなく彼にあり、業者が支払わないのなら彼が支払うべきですが、彼は正気なのでしょうか。

 彼は自分が正しいと思って行動しているのでしょう。もちろん、果歩さんと彼の考え方や価値観、常識が食い違っているのは間違いありません。果歩さんが「こちらが正しい」と伝えても彼の心には響かないでしょう。真偽の根拠は、果歩さんの気持ちではなく法律にする必要があります。

 このように、彼は口約束など吹けば飛ぶようなもので、守るかどうかは自分次第だし、守らなかったとしても天罰が下るわけではないという物言いなのですが、果歩さんは本当に何もできないのでしょうか。通行料を踏み倒されても、下水道管や物置を壊されても、泣き寝入りするしかないのでしょうか。

 まず8カ月前、彼と夫の間で交わした約束に根拠がないわけではありません。「通行」の目的に限り土地への立ち入りを許可することを「通行地役」といいます(民法280条)。そのため、当初の約束を守らないことは常識や倫理、良識だけでなく法律にも違反しているのです。

 次に通行料ですが、土地を通行する場合、通行料を払わなければならないことは法律で決まっています(民法212条)。今回の場合、他に通行できる道がなかったわけではありませんが、他の道ではなく果歩さんの庭を通りたいと言いだしたのは彼自身です。しかも、当初の約束で「月10万円を払う」と誓ったのだから、「他に道がなく、庭を通るしかない」という状況でなくても通行料は発生します。

 そして、過去8カ月分の延滞に遅延損害金を上乗せすることが可能で(民法419条)、今回の場合、損害金の利率は年26.28%です。

 さらに、故意、または過失により損害を与えた場合、損害を補償しなければなりません(民法709条)。今回の場合、1回目の下水道管の破裂は故意ではなかったかもしれません。しかし、2回目は「庭に3トン以上の車両を停車させたら破裂すること」を知りながら、彼は新築業者に伝えなかったので、故意だと指摘されても仕方がないでしょう。2回目の、下水道管の修理費用は彼が負担しなければなりません。

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露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)

露木行政書士事務所代表

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。公式ブログ(https://ameblo.jp/yukihiko55/)。

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