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「送金するだけ」で書類送検…「知らなかった」では済まない? 銀行口座めぐる3つの落とし穴【元刑事が解説】

銀行口座を巡る落とし穴について、元警視庁刑事が解説します。

銀行口座の使い方次第で犯罪に?(画像はイメージ)
銀行口座の使い方次第で犯罪に?(画像はイメージ)

 口座を売ったら犯罪になるというのは知っている人も多いでしょう。では、「自分の口座に入ったお金を、指定された口座へ送金するだけ」ならどうなるのでしょうか。

 2026年7月10日に改正犯罪収益移転防止法が施行され、いわゆる「送金犯罪」への罰則が新設されました。それから約2カ月。9月17日には神奈川県警も「口座売買は犯罪です」と改めて注意喚起し、「送金を代行するだけ」といった行為にも警鐘を鳴らしています。

 怖いのは、「犯罪に加担するつもりはなかった」という普通の人でも巻き込まれる可能性があることです。今回は元警視庁刑事の視点から、「売る」「貸す」「送金する」といった、銀行口座をめぐる3つの落とし穴を解説します。

(1)「使ってないなら売って」…口座売買

 SNSなどで「使っていない口座を買い取ります」「キャッシュカードを送れば数万円」といった募集を見かけることがあります。ここで勘違いしてはいけないのが、「自分名義の口座だから、どうしようと自分の自由」ではないということです。

 犯罪収益移転防止法では、一定の目的で預貯金通帳やキャッシュカードなどを有償で譲り渡したり、譲り受けたりする行為などが処罰対象となります。2026年7月の改正では、こうした不正譲渡などへの罰則が大幅に強化され、「3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金」に。

 さらに、こうした行為を「業として」行った場合は、「5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金」となりました。いずれも拘禁刑と罰金が併科される場合があり、「使っていない口座を数万円で売っただけ」では済まない、想像以上に重い罰則が設けられています。

 なぜ犯罪者は、他人名義の口座を欲しがるのでしょうか。それは、特殊詐欺などで自分の口座を使えば、資金の流れから捜査の手が自分に及ぶ可能性があります。だからこそ、第三者名義の口座が犯罪の「道具」として利用されるのです。

 たとえ自分には「もう使わない口座」だったとしても、犯罪者には大きな価値があります。数万円の小遣い稼ぎのつもりが、犯罪の入り口になってしまう可能性があるという、まったく割に合わない行為なのです。

(2)「ちょっと貸して」…口座の名義貸し

 では、売らずに「貸すだけ」なら、どうでしょうか。知人から「事情があって自分の口座が使えない」「一度だけ振込先として使わせて」と頼まれたとしても、安易に応じてはいけません。まず考えてほしいのは、「なぜ、その人は自分の口座を使えないのか?」ということです。

 特殊詐欺などでは、被害金の受け皿や資金移動に第三者名義の口座が悪用されます。犯罪グループにとって、自分たちと直接結びつかない口座は、捜査から身元を隠すための「道具」になり得るからです。

 さらに、「売っていないから大丈夫」とも限りません。通帳やキャッシュカードなどを他人に使わせる行為も、その目的や態様によっては、こちらも犯罪収益移転防止法違反に問われる可能性があります。さらに、その口座が実際に詐欺やマネーロンダリングなどに利用されれば、事情や関与の程度によっては別の犯罪への関与が問題になる可能性もあります。

「友達だから」「一回だけだから」は、口座を貸す理由にはなりません。銀行口座を貸すことは、「口座番号を貸すだけ」ではなく、自分の名義と信用を犯罪に使われるリスクまで貸すことになる。元刑事としては、ここを強く警告したいと思います。

(3)「送金するだけ」が新たな落とし穴に

 そして、いま特に知ってほしいのがこれです。自分の口座から自分で送金するだけでも罪に問われる可能性があります。

 改正犯罪収益移転防止法では、正当な理由がないのに、報酬などを受ける、またはその約束をして、他人から依頼された送金を行う、いわゆる「送金犯罪」への罰則が新設されました。罰則は「2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科」です。

 7月10日の施行から11日後の7月21日に、沖縄県警が全国で初めてこの規定を適用。報道によると、SNSで副業を探していた40代の会社員女性が、自分の口座に入った計約175万円を指定された複数の口座に計37回送金したとして書類送検されました。

 女性はSNSを通じて知り合った人物から「短期アルバイトスタッフへの報酬支払い業務」などと説明され、犯罪に関わっている認識はなかったと報じられています。ここが重要です。「口座を売っていない」「キャッシュカードも渡していない」でも、「自分の口座を使い、指示通りに送金した」という行為そのものが法に触れれば、容赦なく処罰対象になるのです。

 もちろん、家族への仕送りや商品の代金支払いなど、正当な理由のある通常の送金まで犯罪になるわけではありません。注意したいのは、「入ってきたお金を送るだけ」「簡単な経理代行」「1件ごとに報酬」といった不自然な副業です。その「送金」が、犯罪資金を動かす役割になっているかもしれない。「知らなかった」では済まされないのです。

 私は警視庁で約30年間、さまざまな事件捜査に携わってきました。犯罪者が利用するのは、最初から犯罪をしようと考えている人だけではありません。知らないうちに犯罪の仕組みに組み込まれることがあります。

 銀行口座について覚えておきたいのは、「(1)売らない」「(2)貸さない」「(3)怪しい送金を引き受けない」の3つです。

「受け取るだけ」「口座を使うだけ」「送金するだけ」と言われたときほど、「なぜ、自分の口座を使う必要があるのか?」と考えてください。

 犯罪は、「犯罪です」という顔をして近づいてくるとは限りません。「○○するだけ」という簡単な話ほど、一度立ち止まってください。その違和感が、自分を犯罪から守る最初の防御策になるのです。

(治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト 小比類巻文隆)

【画像】口座の売買だけじゃない…これが犯罪に該当する“NG行為”です!

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小比類巻文隆(こひるいまき・ふみたか)

元警視庁警部補/治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト

30年にわたって警察官として勤務し、危機管理の第一線を歩んできたスペシャリスト。1993年に警視庁へ入庁後、爆弾処理班を経て中国語通訳捜査官、さらに国際捜査官として、銃器・薬物犯罪を中心に情報収集や秘匿捜査、海外組織による密輸入事案の解明に従事。殺人・強盗・誘拐など重大事件の捜査本部にも多数参加。2023年に退官後は、警察での実践経験を社会に還元すべく、講演や執筆、メディア対応など幅広く活動中。現場のリアルを伝える、数少ない治安専門家のひとり。【公式サイト】https://kohiruimaki-fumitaka.info/contact

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