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健康、肩書失っても…年を取るとかえって「幸福感」が高くなるのはなぜか 高齢期に身に付けたい“喪失への向き合い方”

年を取るとかえって幸福感が高くなる人の特徴について、高齢者研究のNPO法人の理事長である筆者が解説します。

年を取るとかえって幸福感が高くなる人の特徴とは?(画像はイメージ)
年を取るとかえって幸福感が高くなる人の特徴とは?(画像はイメージ)

 高齢期は、喪失の期間ともいわれます。仕事、職場、肩書、収入、健康、体力、容姿、友人、家族、配偶者、所属する組織や交流・活躍の機会などなど、さまざまなものを失います。これを避けることはできませんが、失ったあとでその状況にどのように適応するか、どちらの方に向かって進んでいくかは重要です。その適応の仕方を、4つのタイプに分類できるように思います。

喪失への適応に見られる「4つのタイプ」

 1つ目は、喪失に耐え切れず、なんとか失ったものを取り戻そうとする、ナルシストのタイプです。心理学では、ナルシストには、「強い自信と自己愛を隠すことなく、周囲に賞賛を求める『尊大型ナルシスト』」と、「控え目に見えるが自己愛は強く、他者からの評価に容易に傷ついたり、強い不満を抱いたりする『脆弱型ナルシシズム』」があるとされますが、いずれにしても、強い自己愛と承認欲求があり、いつまでも変わらずにいること、長所を失わないこと、失っても何とか取り戻そうとすることにこだわります。

 2つ目は、失ったものの代わりになる新しい幸福を「手に入れよう」とするチルチル・ミチルのタイプです。もっと健康や若さを、もっとお金や財産をと、メーテルリンクの『青い鳥』のように、外にきっとある幸せを探そうとする人たちです。一つ目が「今の自分を維持したい、昔の自分を取り戻したい」だとすれば、こちらは「今よりもっと幸せになりたい」です。年をとっても衰えぬ意欲で、新しいモノを獲得しようとする。良く言えば若々しいのですが、悪く言えば老害や老醜などと捉えられるでしょう。

 3つ目は、禅語の「明珠在掌(みょうじゅ・たなごころにあり)」(大切な宝はすでに自分の手のひらの中にある)で言うような、今の自分の状態の中に幸福を見出すタイプです。青い鳥探しとは逆の方向で、足りないものではなく、今あるもの、今置かれている環境に感謝し、それで満たされていると思える境地です。老子の「足るを知る」(満足することを知っている人は、精神的には豊かで幸福である)も同じ意味です。高齢期の喪失に対して、頭や心の働きによって適応する方法と言えるでしょう。

 最後に、「老年的超越」タイプ。これは、スウェーデンの老年学の研究者ラース・トーンスタムが提唱した概念で、年を取るにつれて、物質的なものや世間からの評価や名声、自分自身のこだわりなどから離れていき、他者や自然、歴史や次世代や地域社会といったもっと大きなテーマに関心が広がっていくというものです。出世したい、認められたい、もうけたい、勝ちたい、手に入れたいという気持ちは薄れ、自分のことより、誰かに貢献したいという欲求が増してきます。つまり、高齢期に何かを喪失しても、もはや関心はそこにはなく、他者の幸福に向かっていっているので問題はないということになります。

 以上、高齢期の喪失への適応は、「(1)失ったものを『取り戻す』(ナルシスト)」「(2)新しい幸福を『手に入れる』(チルチル・ミチル)」「(3)すでにある幸福に『気付く』(明珠在掌)」「(4)自分へのこだわりを『手放す』(老年的超越)」という4つのタイプに分類できそうですが、もちろん、人間がそんなにきれいに4種類に分かれるとは思いません。普通は、この4つを行ったり来たりしながら年を取っていくのだと思います。

 ただ、(1)(2)と(3)(4)では、かなり性質が違います。前者は失った穴を埋める、あるいはその代償を求めようと努力する方向です。後者は、いまあるものに満足したり、関心の矛先を変えたりすることで、喪失感から自由になり、現状の中に幸福を見出そうとする方向です。

年を取ると幸福感が上がる「加齢のパラドクス」の正体

 日本だけでなく世界の多くの国で見られる、「加齢のパラドクス」と呼ばれる現象があります。これは、年を取ればさまざまなものを失っていくにもかかわらず、幸福感や生活満足度は低下しないどころか、平均的にはむしろ向上していくという、一見矛盾した現象のことです。

 しかし、当然ながら、すべての人の幸福感が高まるわけではありません。年を取るほど幸福感が低下し、不満や不安を募らせていく人もいます。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。

 私は、喪失への適応の仕方にあるのではないかと考えています。失ったものを取り戻そうとする人、失った穴を新しい何かで埋めようとする人は、喪失が続く限り、満たされない思いを抱えやすい傾向にあります。一方、すでに持っているものの価値に気付く人、自分へのこだわりを手放していく人は、何かを失っても、必ずしも幸福まで失うわけではありません。

 高齢期の幸福を左右するのは、何をどれだけ失ったかではなく、喪失にどう向き合うかにかかっているということです。「取り戻す」「手に入れる」から「気付く」「手放す」へと重心を移せるかどうか。ここに、幸せに老いるための鍵があるように思います。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)、「老い上手」(PHP出版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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