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人手不足、健康でやる気あるのに…「高齢者」雇用を阻む“2つの意外な壁”

人手不足であるにもかかわらず、健康な高齢者がなかなか採用されないのはなぜなのでしょうか。高齢者研究のNPO法人の理事長である筆者が解説します。

人手不足でも高齢者雇用がなかなか進まない原因とは?(画像はイメージ)
人手不足でも高齢者雇用がなかなか進まない原因とは?(画像はイメージ)

 医療、介護、保育、建設、物流など、さまざまな業界で人手不足が深刻になっています。一方で、日本には豊富な経験や能力、スキルを持つ健康な高齢者が大勢います。そしてその多くには、「元気なうちは働き続けたい」という意向があります。普通に考えれば、高齢者の雇用・活用によって、人手不足の解消が進んでいっても良さそうなものですが、そうはなっていません。なぜでしょうか。

資格がなくてもできる仕事でも…

 これは私が直接、経営者や人事責任者の方々に聞いた話ですが、いい人なので採用したいと思うけれども、募集している仕事には「資格」が必要なので、残念ながら採用できないというケースがかなり多いそうです。それも、“本当に資格を持っていないとできない仕事”ではなく、実際には、資格がなくてもできるような仕事だけれども「法律や発注者の要望などで資格が必要と定められているから仕方がない」というのが実態のようでした。

 ここから、高齢者雇用を阻む2つの壁(検討課題)が見えてきます。

 1つ目は、「資格制度の再点検」です。資格制度には安全や品質を守るという重要な目的があるとはいえ、社会や技術の変化によって、いろいろな資格の必要性やその内容も変わっていくはずです。簡単になった操作や作業、実際にはやらなくなったもの、不要になった知識、技術などが、いまなおその資格の取得に際して求められているということもありそうです。

 制度というものは一度できると、変えるのはなかなか大変ですし、「資格」には既得権やしがらみが背景にありそうなので、余計にそうでしょう。改めて、各種資格の意味や必要性や内容を見直してみることは無駄ではないと思います。

 2つ目は、資格者がやっている仕事の分解と切り出しです。募集職種の業務のすべてが、その資格を保有していなければできない仕事なのかどうか、改めて細かく見てみるということです。

 例えば、看護師の仕事でいえば、患者や家族の案内や接遇、物品を運ぶ、備品の補充、食事の配膳、病床の整理整頓といったこともあるでしょう。これらは看護師の資格がなくてもできることです。

 介護では話し相手、散歩の付き添い、配膳、レクリエーションの手伝い、施設内整理といった仕事があり、保育なら読み聞かせ、遊び相手、清掃や庭の遊具の管理といったこと、建設や物流の現場でも資材の確認、写真撮影、記録、清掃、準備などがあって、これらは資格がなくてもできるでしょう。

 日本では伝統的に、仕事を細かく分解し、担当業務の範囲やプロセスや求める結果を明確に定めるという発想がほとんどありません。営業部員、総務部員、課長、係長といった所属や立場、役割は決めます。しかし、欧米企業におけるジョブ・ディスクリプション(職務記述書)のように、その人が具体的に何をするのか、一つ一つの職務を厳密には定めません。「営業部員なのだから、営業に関係することは何でもやる」「課長なのだから、課のことは全部見る」「誰の仕事か分からなければ、気付いた人がやる」という暗黙の了解に基づいて、組織は動いてきました。

 もちろんこれは、悪いことばかりではなく、仕事の境界線が曖昧だからこそ、誰かが困っていれば手伝い、担当外であっても皆が臨機応変に動きます。「それは私の仕事ではありません」とは言わず、みんなで協力して何とかしようとします。そんな、職務の曖昧さを前提としたチームワークが、日本企業の強さの一つでもありました。

 しかし、高齢者を活用しようとすると、この曖昧さは障害になります。仕事が細かく分解されていないために、「看護師の仕事」「介護士の仕事」「営業の仕事」「総務の仕事」「課長の仕事」などと資格や職種ごとに、曖昧なままひとまとめにされているからです。そのままでは分業やシェアができず、新しく人が入る余地はありません。

 大事なことは、「資格者でなければできない仕事」「簡単な講習を受ければできる仕事」「資格がなくてもできる仕事」といった風に分解し、細かく切り出すこと。そして、資格がなくても、熟練しなくてもできる仕事を、他の人たちに開放することです。

 この試みは、資格を持っている人や熟練者にもメリットがあります。初心者でもできる仕事に、多くの手間や時間を取られてしまっているからです。そんな仕事を他の人が担ってくれれば、資格を持っている人は、より専門的な仕事に集中できるようになるはずです。

 高齢者雇用というと「高齢者の意識を変え、スキルをどう高めるか」といった議論になりがちです。しかし、高齢者の方を変えることばかり考えるのではなく、制度や仕事の方を変えるという発想の転換が必要なのだと思います。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)、「老い上手」(PHP出版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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