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間違って振り込まれた印税で“大盤振る舞い”をした漫画家…出版社へ返金義務は?

いつもより多く振り込まれている原稿料が「電子書籍の印税」だと知らされた漫画家が、スタッフに食事を大盤振る舞い。しかし、後にそのお金が間違って振り込まれたものだと知らされ…。漫画家に返金義務はあるのでしょうか。

間違って振り込まれたお金、返還義務は?

 出版社の手違いによって起きた「お金」にまつわる体験談がSNS上で話題に。漫画家の投稿者が、通常より多く振り込まれている原稿料について出版社の経理に確認したところ「電子書籍の売り上げ印税なのでその額で問題ない」と言われ、そのお金でスタッフに食事をごちそうしましたが、その後、「その額が間違いだったので返金してほしい」と連絡を受けました。投稿者は「人間のやることだから」と寛容な態度ですが「食事代を編集部持ちにしてほしいレベル」「既に使った分は返金しなくてよいのでは」などのコメントが寄せられています。

 このケースで、投稿者は誤って振り込まれたお金を返還する義務が生じるのでしょうか。オトナンサー編集部では、弁護士の牧野和夫さんに聞きました。

「不当利得」における2つのパターン

Q.この場合、投稿者は返金の求めに応じなくてはならないのでしょうか。また、その根拠は何でしょうか。

牧野さん「このケースのように、法律上の原因がないのに他人の財産によって利益を受け、他人に損害を及ぼしている場合を『不当利得』といいます。不当利得を得た受益者が、これを返還する義務があるかどうかについては、法律上の原因がないことを知らなかったか、知っていたかによって取り扱いが異なります。知らなかった場合、民法703条(不当利得の返還義務)が適用され『法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(=受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う』とされています。逆に、知っていた場合は、民法704条(悪意の受益者の返還義務等)が適用され『悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う』とされています」

Q.投稿者は「法律上の原因」がないことを知らなかった前者のパターンだと思われますが、やはり返金の義務は生じるのでしょうか。

牧野さん「民法703条の規定は、法律上の原因がないことを知らなかった場合は『利益の存する限度で』返還すべしというものです。つまり、今回のケースのように、受け取った現金を使ってしまった場合は、現在残っている分を返還すればよいと読むことができそうです。しかしながら、金銭の不当利得の場合には、その金銭の消費によって経済的利益を受けていると言えるので、残念ながらその消費した分も『利益の存する限度』に含まれることになります。そこで、今回の投稿者には返金の義務が生じることになります。ただし『利益の存する限度』の返還義務にとどまるので、利息を支払う義務はありません」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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