嘔吐への恐怖から会食恐怖症に、うつ病で「死にたい」…30代女性、病気との闘い
「死にたい」とメールしたことも
彼女の話に戻りますが、悩んでいた当時は「なんで自分だけ、こんな意味の分からない症状に悩んでいるのだろう…」と絶望していたといいます。一時期は、うつも併発していたので外出することも難しく、「死にたい」というメールをもらったこともあります。
会食恐怖症に悩む人の傾向の一つとして、「不安になってはいけない」という考えを持つことがあります。本来、生きていれば不安になるのは当たり前のことで、不安とうまく付き合いながら生きていくことが大切なのですが…。
彼女も当初はやはり、「食事という一般的には楽しいものに対して、不安になってはいけないし、それはおかしいことだ」という考え方が強かったのです。そこで「『不安になってもいい』と考える方が結果的に不安も軽減されますよ」と何度も繰り返し伝えました。
外出への恐怖については、「家から一歩だけでも出てみましょう。それも難しい場合は無理する必要はありません。できそうだなというときにやっていきましょう」という、とにかくスモールステップから始めました。食事に対しても、外食自体のハードルが高そうだったので、「飲食店の前に行き、自分が食べているところをイメージしたらOKにしましょう」という小さなステップも踏んでいきました。
また、彼女は吐くことへの恐怖感が強かったので、「吐くことに対して不安にならないための対策や準備を少しずつやめる」という行動も、様子を見ながら実践してもらいました。「対策や準備」は「安全確保行動」といって、嘔吐への恐怖心を持っている人はこれらが過剰になることが多いです。具体的には…
・満腹になるまで食べないようにする
・脂っこいものを食べないようにする
・食べてからすぐ動かないようにする
・賞味期限切れのものは食べないようにする
・マスクを常にしている
・ミントスプレーやタブレット菓子を常に携帯している
・手洗いやうがいを必要以上にする
などがあります。先述の内容を「これくらいなら、やめてみてもよいかも」というように本人が思えるところから、対策をやめていきます。彼女の場合、「吐いても大丈夫なようにビニール袋をカバンに入れておく」という対策をしていました。そのため、それをすぐ取り出しやすい位置から、同じかばんの取り出しにくい所へ移動するということから実践しました。
ほとんど意味がないことと思う人もいるかもしれませんが、実は、こうした少しずつの変化を促すことで、「そういえばビニール袋の位置を変えたけど、忘れていた」という体験ができ、「他のものも手放していけるのではないか」という自信につながるのです。ほんの少し、何かを変えるだけでも効果があるのです。
経過に波はあったものの、彼女の症状は次第によくなっていきました。カウンセリングの最後の日、発症して以来ずっと避けていたというラーメンを一緒に食べに行きました。それまで避けていた理由は「ラーメンのような脂っこいものを食べたら、気持ち悪くなって吐いてしまうかも」というものです。最初は不安がっていましたが、結果的にペロリと完食できました。店を出たとき、彼女の表情にそれまでは見られなかった自信がうかがえました。
(日本会食恐怖症克服支援協会 山口健太)
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