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毎日たたかれ、やかんの水を…肉嫌いだった40代女性が受けた体罰「完食指導」

給食での過剰な完食指導で「会食恐怖症」を発症し、大人になっても悩み続けるケースがありますが、中には、体罰ともいえる驚くような完食指導もあり、その一端を紹介します。

過剰な完食指導の弊害は?
過剰な完食指導の弊害は?

 学校給食を残さず食べるように指導する「完食指導」で、指導が過剰になって体調を崩したり、不登校になったりする子どもがいます。それだけではなく、「会食恐怖症」という精神疾患を発症し、大人になっても悩み続けるケースもあるなど、過剰な完食指導はその後の人生に悪影響を与える可能性があります。

 筆者も会食恐怖症を経験した一人です。克服しましたが、同じような悩みを持ち、苦しんでいる人を少しでも助けられればと支援組織を設立して、過剰な完食指導や会食恐怖症についての相談を受けています。中には、驚くような完食指導の相談を受けることもあり、その一端を紹介します。

無理やり、肉を流し込まれ…

 筆者は普段から、過剰な完食指導の危険な点について発信していますが、先日、公立小学校の栄養教諭から、次のような相談が届きました。

「最近、本校で子どもたちの偏食に対する指導が厳しくなり、体罰のようになっています。給食時間が終わっても食べ終わっていなければ、教室に残して食べさせる、昔ながらの指導をしているのです。このままでは、食育どころではなくなってしまうと危機感を抱いています。こうしたことをしている先生たちに『間違っている』と伝えてはいるのですが、言うことを聞いてくれないので本当に困っています」

 居残り給食など体罰のような給食指導は年々、減少していると思われがちですが、いまだに一部で行われているのが実態です。居残りさせることで、子どもが給食に対して苦痛を感じ、食べること自体が嫌いになる可能性があるため、基本的には行う必要はありません。むしろ、その嫌な体験がその後の人生にも大きく関わっていくものです。

 実際に、過剰な完食指導を受けて、その後の人生にまで大きな影響が及んだ事例を筆者は知っています。

 まず、40代女性のAさんです。Aさんは幼児期から、肉が嫌いで食べられず、また、当時は極端に小食で、保育園の給食で毎日出てくる肉を先生たちがあの手この手を使い、何とか食べさせようとしていたそうです。

「肉を食べないことで、毎日たたかれました。さらに、先生たちは私の顔を上に向かせ、やかんの水を無理やり口に入れて、肉を流し込むのです。そんな体罰を連日受けていました。その影響か、小学生のときも中学生になっても小食のままで、給食が完食できず、毎日、掃除の時間まで残されていました」(Aさん)

 子どもの頃、ひどい仕打ちを受けてきたAさんですが、社会人になってからも苦しみは続きます。

「転職先の職場で歓迎会があり、緊張しながら参加しました。すると突然、ものすごい恐怖で震え、顔面蒼白(そうはく)になり、過呼吸の発作を起こして、トイレに駆け込んだのです。その後も、発作を起こすかもしれないという恐怖が頭から離れず、まともに仕事ができなくなって退職し、心療内科を受診すると『社会不安障害・パニック障害』と診断されました。

その後、ずっと15年以上、薬を飲み続けています。薬を飲めば、何とかしのげるようになり、仲良くなった人とは楽しく食事も行けるようになりましたが、まだ少し不安があります」

「残菜ゼロ週間」がプレッシャーに

 次に、大学生のBさん(10代女性)です。会食恐怖症を発症しており、そのきっかけは小学校での完食指導だそうです。

「私が通った小学生では『残菜ゼロ週間』という取り組みが行われました。食べ残しが少なかったクラスが賞を取れるという行事で、私のクラスは特に完食指導が厳しく、食べ残しがなかった日にはクラス全員で記念撮影をしていました。私は元々、たくさん食べられるタイプではなく、『残してはいけない』とプレッシャーがかかると、余計に食べられなくなってしまいます。

給食は完食できないことが多く、残菜ゼロ週間でも給食を残してしまい、クラスのみんなから責められたことがありました。振り返ると、この行事が会食恐怖症になるきっかけだったと思います。今でも誰かと食事をすると、残したら相手が嫌な気分になると思い込んでプレッシャーを感じ、気分が悪くなり、冷や汗をかいて、震えてしまいます」(Bさん)

 このように、過剰な完食指導がきっかけで、大人になっても苦しんでいる人がいます。特に、給食での“残食ゼロ運動”などの取り組みが過剰な完食指導につながらないか、注意することが必要です。食べ残しをなくすことにこだわり過ぎると、子どもにプレッシャーが掛かります。

 子どもたちのためを思って、残食ゼロを目指すのであれば、「食べなさい」とただ呼び掛けるだけではなく、それと同時に、食べられない子に対する工夫も考えなければいけないでしょう。

(月刊給食指導研修資料=きゅうけん=編集長 山口健太)

山口健太(やまぐち・けんた)

月刊給食指導研修資料(きゅうけん)編集長、株式会社日本教育資料代表取締役、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事

人前で食事ができない「会食恐怖症」の当事者経験から、食べる相手やコミュニケーションの違いによって食欲が増減することを実感。既存の「食べない子」への対処法に疑問を感じ、カウンセラーとして活動を開始。「食べない子」が変わるコミュニケーションノウハウの第一人者として、延べ3000人以上の相談を受ける。著書に海外でも翻訳出版されている「食べない子が変わる魔法の言葉」(辰巳出版)などがあり、給食指導などの研修を保育所や学校などの栄養士・教職員に向けて行っている。「目からうろこの内容」と言われるほど“とにかく分かりやすい解説”と、今日からすぐに使える実用的な内容が特徴。月刊給食指導研修資料(きゅうけん)

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