画用紙を貼った仕切りで感染対策 ある保育士が見た“楽しくない”給食と発想転換
新型コロナの感染者がゼロだった当時の岩手県から、感染者が多い首都圏に勤務地を移した現役保育士は「給食」の風景に驚いたそうです。その葛藤と気付きを紹介します。

筆者は子どもの偏食や小食に悩む保護者の相談に乗ったり、園や学校向けに給食指導の研修を行ったりしています。昨年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響で、食事中は黙って前を向いて食べなければならないなど、給食の様式にも大きな変化があり、現場からさまざまな戸惑いの声も聞いてきました。そのようなコロナ禍の真っただ中で転職し、当時、感染確認者がゼロだった岩手県から、感染者が多い首都圏に勤務地を移した現役保育士の、給食における葛藤と気付きを紹介します。
そこまでする必要があるのか…
「私は元々、首都圏の保育園に転職する予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響でかなり遅れ、1回目の緊急事態宣言の解除後、新たな勤務先で働き始めました。当時住んでいた岩手県ではまだ、新型コロナウイルスは感染者がいませんでした。そのため、首都圏の保育園に転職して感染予防の対策を見たとき、『ここまでするのか…』と驚きました」
そう語るのは、20代の男性保育士です。岩手県と首都圏では、新型コロナウイルスへの対策の度合いが大きく違っていたといいます。
「特に、給食時間に子どもたちの間に白い画用紙を貼った仕切りを立てることには大変驚きました。以前の職場でも、手洗いやうがい、消毒を徹底すること、席の間隔などに気を付けることなどは一緒でした。しかし、仕切りを作り、さらには白い画用紙を貼ることで、周りのお友達を見えなくすることに大変驚いたのです」
透明なアクリル板を使って仕切りを作るのは、多くの飲食店でよく行われている対策です。しかし、そこに白い画用紙を貼ることで周りを見えなくするというのは、さらに一歩踏み込んだ対策といえるかもしれません。
「お友達の顔を見えなくすると、おしゃべりの量が減り、それが感染対策になるからだそうです。ただ、あくまで私の感想ですが『そこまでする必要があるのかな』と思いました。
子どもたちは給食時間以外でも、マスクを外す時間がありますし、3歳までのクラスはマスクを着けることをルールとして決めていません。疑問に感じたので、同僚の先生に聞いてみると、私が勤めている園だけでなく、周りの園でも行われており、それほど、この対策に疑問を感じていないようでした。私は感染者が出ていなかった岩手県から来たので、対策への意識が違うのかなと思いました」
さらに、この保育士が最も懸念する点として「食の成長」を挙げました。
「給食の時間は子どもたちにとって、楽しいものであってほしいと思っています。一方で、コミュニケーションが失われてしまうと、楽しさが損なわれて、食が進まない子もいると思うのです。給食時間のコミュニケーションが失われてしまうと、楽しさが損なわれ、食が進まない子もいると思うのです。
また、『Aくんが食べているから、僕もこれ苦手だけど、ちょっと挑戦してみようかな』といったことが子どもたちの間ではよく起きます。周りの子どもたちの様子が見えないことで、そういったことも起きないですし…楽しいからこそ、一口食べてみようなどの自発性が生まれ、だからこそ、食も進むのだと考えています」
確かに、厚生労働省が公表している「保育所における食事の提供ガイドライン」などでも「楽しく食べること」の大切さについて書かれている箇所があります。また、筆者としても「楽しく食べること」が食の進みの一番の土台であり、そこが担保されているからこそ、さまざまな対応や支援の効果が高まることを、普段のカウンセリングや研修の中でもよくお伝えしています。そういう意味でも、この保育士さんの意見は正しいと思います。
ただ、彼はこれに対して自分なりの見解を出しました。
「園の仕組みを変えるのは難しいので、この給食様式でも、子どもの食の進みを促すために私ができることは何だろう…と考えました。たどり着いた一つの結論は、こういう状況だからこそ、“子どもたちの食の性質を観察しやすいのではないか?”ということでした。この子はどういうものが好きで、どういうものが苦手なのか、食べるスピードはどうかなど、子どもたち同士でのコミュニケーションが少なくなった今だからこそ、より集中して観察できるなと思ったのです。
そして、それは保護者とのやりとりにも生かすことができます。例えば、『このお野菜は苦手みたいだけど、こういうものは食べているから、こうしてみたら食が進むかもしれない』と、これまでよりも踏み込んで伝えることができるようになる、などですね。今までは『この状況でどう楽しく食べてもらうか』ばかりを考えていましたが、今は別の角度から、子どもたちの食の成長をサポートすればよいのだと思い、見守ることができています」
筆者が保育所や学校、あるいは給食関係者と関わる中でも「どうすれば、子どもたちはコロナ禍でも給食を楽しめるのか」という内容が話題に上ることが多いです。やはり、多くの教育者や給食関係者がモヤモヤを感じているのでしょう。
しかし、今回の保育士と話をしている中で「この状況だから、何を食べているかより観察しやすい」「別の角度から食の進みをサポートする機会になる」という発想は筆者としても「なるほど!」という新しい気付きでした。モヤモヤしている人は、この保育士の発想が参考になるかもしれません。
(月刊給食指導研修資料=きゅうけん=編集長 山口健太)
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