オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

けいれんや異常言動が続いたら、インフルエンザ脳症の可能性【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構える医師の著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

インフルエンザ脳症とは?
インフルエンザ脳症とは?

 こわばった表情のお母さんが、5歳の男の子を連れて診察室に入ってきました。

「先生、昨日の夕方から38度の熱があります。一晩様子を見ようと思って一緒に就寝したんですけど、真夜中になってこの子、起き上がって意味の分からないことを言い始めたんです。大丈夫でしょうか?」

「今は、落ち着いていますよね? 顔の表情も視線もしっかりしている。感冒(風邪)症状もあるし、インフルエンザの検査をしてみましょう」

未就学児~8歳まで

 結局、この子は普通の風邪でした。

「では、先生、昨日の夜は何だったのでしょうか? 私、この子がインフルエンザで頭が変になったのかと思って、すごく心配でした」

「でも、その変な行動はすぐに収まったんですよね? だから、夜間救急に行かなかったんですよね。それで大丈夫ですよ」

「脳症」とは、脳が浮腫(むくんだ状態)になった病態をいいます。脳に直接ウイルスが感染しなくても、脳に炎症が起きて腫れ上がってしまったり、組織が死んでしまったりするのです。最も有名な脳症は「インフルエンザ脳症」です。その他にも、「ロタウイルス」「突発性発疹症ウイルス」でも脳症を起こすことがあります。

 インフルエンザの流行がこれから、さらに拡大しそうですから、ここでは「インフルエンザ脳症」に焦点を絞って解説します。未就学児に多いですが、8歳くらいまでの年齢でも見られます。

意識障害ならすぐ受診

 インフルエンザ脳症には多種類の病型があり、それらを総称して「インフルエンザ脳症」と呼んでいます。病型によって症状に違いはありますが、インフルエンザ脳症に共通する症状は「けいれん」「意識障害」「異常言動・行動」の3つです。

「けいれん」は、見た目は熱性けいれんと区別がつきません。しかし、インフルエンザ脳症のけいれんは、数分で止まることはありません。救急車を呼ぶタイミングは、けいれんの原因が何であれ共通です。5分を過ぎたら救急車を呼ぶ準備をし、10分が近づいたら電話をしてください。

「意識障害」は文字通り、意識がない状態をいいます。目を開けない、しゃべらない、動かない、刺激(声掛けや体に触れるなど)に反応しない状態で、インフルエンザ脳症の最も危険な症状です。お子さんが高熱を出して突然ぐったりと眠り込んだら、お子さんをさすって反応を見てください。はっきりと目を開けば心配ありませんが、意識障害の可能性がある場合、すぐに医療機関を受診する必要があります。明らかに意識がない場合は救急車を呼んでください。

「異常言動・行動」には、さまざまなパターンがあります。簡単に言うと、お子さんが意味不明なことを言ったり、したりすれば、「異常言動・行動」といえます。例えば、「家の外に飛び出す」「家族を正しく認識できない」「食べ物でないもの(自分の手など)を食べる」「アニメのキャラクターやいない人が見える」「意味の分からないことを言ったり、ろれつが回らなくなったりする」「おびえる、怖がる」「怒り出す、泣き出す、歌い出す、意味なく舌を出す」などがあります。

 では、こうした異常な言動があればすぐに「インフルエンザ脳症」を疑うべきでしょうか。それは必ずしも正しくありません。インフルエンザに限らず、どんな感染症でも、人は高熱を出すとうわ言を言ったり、幻覚を見たりします。これを「熱せん妄(もう)」といいます。うわ言が一回だけで、すぐに正常な状態に戻れば心配はありませんが、異常言動・行動が10分も20分も続くようであれば、自宅で様子を見ていてはいけません。

 結局、5歳の男の子は熱せん妄だったと思われます。インフルエンザの流行時期はヒヤヒヤすることが多いですよね。

(小児外科医・作家 松永正訓)

松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

コメント