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小児がん 無知と偏見捨て、克服した子を見守ろう【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

小児がんと闘う子どもたちがいる
小児がんと闘う子どもたちがいる

 子どもが命を落とす最大の原因は、病気ではありません。交通事故や窒息、転落、溺水といった「不慮の事故」です。

 そして、子どもの病死の中で最も数が多いのは「小児がん」です。

どの年齢でも可能性あり

 現在、わが国では、毎年90万人くらいの赤ちゃんが生まれています。この子たちが15歳になるまでに、毎年2000~2500人くらいが小児がんにかかります。従って、子ども1000人に1~2人の割合で小児がんが発生することになります。どの年齢でも、がんになる可能性があるのです。

 小児がんの種類は大きく分けて2種類あります。約半数が白血病や悪性リンパ腫などの「血液のがん」、残りの半数は、頭の中やおなかの中などにできる「固形がん」です。

 固形がんには、腫瘍が発生する場所によってさまざまな種類があります。副腎から発生する「神経芽腫(しんけいがしゅ)」、腎臓から発生する「ウイルムス腫瘍」、肝臓から発生する「肝芽腫(かんがしゅ)」などです。頭の中のがん(脳腫瘍)にも多数の種類があります。

 なお、成人で見られる肺がんや大腸がん、胃がん、乳がん、子宮頸(けい)がんなどは、子どもにはほとんどありません。

 風邪の症状がないのに、明らかな発熱が1週間以上続く状態を「不明熱」といいます。医師は不明熱のお子さんを診るときに、必ず小児がんと自己免疫疾患(若年性特発性関節炎など)を疑います。

 神経芽腫は全身の骨に腫瘍が転移しやすく、病気の状態としては白血病に似ているといえます。白血病と神経芽腫、自己免疫疾患は「熱が長く続く」「関節や骨が痛い」という点で共通性があります。

 神経芽腫以外の腹部腫瘍は、おなかが異常に張っていることで発見されます。脳腫瘍は「頭痛・嘔吐(おうと)」や「まひなどの神経症状」で見つかります。

 白血病は、現代の医療では80%以上が治るようになりました。しかし、骨に転移した神経芽腫が治癒することは大変難しいといわざるを得ません。

生き延びた子どもたちに支援を

 治療を始める前に、がんの広がり、がんの悪性度(治りにくさ)をさまざまな検査で総合的に判定します。そして、それらを基にして治療方針を決定します。こうした考え方は、血液のがんでも固形がんでも同じです。この時点で、家族は治る可能性がどれくらいであるかの予測を告げられることになります。

 白血病のお子さんに抗がん剤を使うことは言うまでもありませんが、固形がんでも手術だけで治るのは例外で、通常は抗がん剤を使います。また、放射線療法を併用することもまれではありません。

 最も悪性度の高いがんに対しては、造血幹細胞移植を併用した超大量の抗がん剤治療を行います。抗がん剤の副作用で血液がなくなってしまうので、造血幹細胞を移植して血液を増やす治療方法です。抗がん剤治療の合間には一時的に自宅に戻ることができますが、全ての治療はおよそ1年かかります。

 がんが完全に治っても、治療の後遺症が後になって出てくることを「晩期障害」といいます。普通の生活が送れるかどうかは、晩期障害の重さによるといえます。ただ、免疫力は普通の状態に回復していますから、幼稚園や学校などには問題なく行くことができます。

 がんを克服した子は頭髪が薄かったり、体力があまりなかったりするため、からかいやいじめの対象になることがあります。ただ、こうした無理解は、子どもに限ったことではありません。子どもの意識は大人の心の映し鏡です。大人である私たちが無知や偏見を捨てることが、がんを生き延びた子どもたちを支援する第一歩になります。

 私の連載は今回をもって最後となります。最終回は、私の専門である小児がんについてやさしく書いてみました。これまで、1年間にわたって記事を読んでいただき、心からお礼を申し上げます。

 小児科医は、あなたのお子さんが育っていく人生の伴走者です。かかりつけ医との間でいい関係をつくって、何でも相談できるようにしてくださいね。

(小児外科医・作家 松永正訓)

松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

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