無理にむいてはいけない、子どもの「包茎」【ぼくの小児クリニックにようこそ】
千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。
「先生、うちの子、おちんちんを痛がってしまって、おしっこもできないんです」
お母さんが、慌てた様子で3歳の男の子を連れてきました。早速診察すると、包皮が切れて血がにじんでいました。
「お母さん、おちんちん、むきましたね?」
「ええ、ママ友同士で話していたら、子どものおちんちんは親がむくものだって」
私は「うーん」とうなってしまいました。
「3歳で3分の1」が標準
生まれてくる赤ちゃんは「真性包茎」です。つまり、陰茎の先端まで完全に皮が覆っている状態です。0歳児の赤ちゃんが成長していくと、陰茎の先端が少しだけむけるようになります。専門用語を使うと、「亀頭」が少し見えるようになるのです。
そして、3歳くらいになると「3分の1くらいが露出」するようになります。3歳で3分の1、これが標準です。この段階でむきになって、包皮をむこうとする親が多いのですがそれは不要です。不要どころか、子どもにとって苦痛でしかありません。とにかく痛いです。
特に、皮と亀頭が癒着しているお子さんは、無理にむくと皮や亀頭の表面が裂けます。こういうときは、むくのを直ちにやめて、ステロイドや抗生物質の軟膏(なんこう)を塗るとすぐに治ります。
3歳を過ぎると、2通りの経過をたどります。一部のお子さんは、根元まで徐々にむけていきます。ただし注意が必要なのは、むくことが可能だとしても、普段は完全に皮がかぶった「仮性包茎」の状態にあるということです。
大人のように、根元まで皮がむけっ放しということはあり得ません。仮性包茎は、子どもにとって正常なのです。異常ではありませんので、誤解しないでください。
そして、一部のお子さんは「3分の1くらいが露出」したままとどまります。包皮が亀頭とかたく癒着しているためです。しかし、これをむく必要はありません。思春期になって第二次性徴を迎えると、陰茎がぐんぐん伸びていきます。すると、徐々に癒着が剥がれて、亀頭は完全に露出します。
最も恐ろしいのは「嵌頓」
無理に包皮をむくことで最も恐ろしいのは、包茎が「嵌頓(かんとん)」になることです。根元までむけるとしても、子どもの陰茎の皮は、先端の穴がとても狭いです。このため、むいたはいいものの元の状態に戻せなくなってしまうことがあります。亀頭の首のところで、皮によってガッチリと締めつけられてしまうのです。これが嵌頓です。
嵌頓を起こすと、包皮はむくみ、亀頭はうっ血しますので、皮がますます陰茎に食い込みます。当然、激痛となります。クリニックで整復することが不可能なときは、小児外科医のいる入院施設で全身麻酔をかけて戻すことになります。
大人になっても、真性包茎のままの状態でとどまる人は、1%といわれています。それ以外の99%の人は、亀頭が常に完全に露出した状態か、または仮性包茎になります。「仮性包茎は男の沽券(こけん)に関わる」という意見もありますが、医学上、何ら問題はありません。
子どもの包茎は、次の3つのケースで手術になります。まず、「亀頭包皮炎」を繰り返すお子さんです。ばい菌が付いて赤く腫れ上がってしまうことですね。次に「バルーニング」といって、排尿のときに包皮が風船のように膨らんでしまうお子さんです。そして、最後が、一度でも嵌頓を起こしたケースです。
ただ、最近では手術を行わなくても、ステロイドの軟膏を塗ると皮が薄くなって伸びることで、仮性包茎の状態になることが分かってきました。従って、入院して全身麻酔で手術をする機会は激減しました。むく必要はありませんよ。放置してください。
(小児外科医・作家 松永正訓)
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