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ステロイドとの付き合い方 アトピー性皮膚炎【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

アトピー性皮膚炎への対応は?
アトピー性皮膚炎への対応は?

 6歳の男の子が、お父さんと一緒にクリニックにやってきました。お話を聞かなくても、見るだけで病気が分かります。その子の肌は、全身が湿疹でした。

筋道を立てて治すこと

「先生、アトピー性皮膚炎と言われてもう6年になるんですけど、毎晩かゆくて眠れないんです」

「ステロイド軟膏(なんこう)は使っていませんね?」

「そうなんです。近所の先生から、ステロイドを使うと体力が落ちると言われて、怖いので使っていないんです。でも、それにはちょっと疑問があって…」

 私は子どもに聞いてみました。

「君は、ステロイドを使うことはどう思っているの?」

「僕、野球をやっているので、体力が落ちるのが怖いです」

 アトピー性皮膚炎は、筋道を立てて治していくことが重要です。もちろん、ステロイド軟膏は危険ではありません。

 アトピー性皮膚炎の治療方法は次の3つです。

【悪化因子の除去】

 悪化因子には、せっけん・洗剤・衣服といった物理的な刺激、かくこと、汗、細菌や真菌などがあります。

 2歳未満のお子さんでは、これらに加えて、食べ物の関与が考えられます。食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は密接な関係にあるので、両者の治療は並行して行われることがあります。

 お子さんの年齢が上がっていくと、ハウスダストやダニ、ストレスが悪化因子になります。かゆいことは強烈なストレスですし、皮膚がきれいでないこともストレスでしょう。睡眠不足も、間違った食事制限もストレスになります。

 ダニやハウスダストを減らすには、今以上に掃除を小まめにすることです。湿度が60%を超えるとダニが繁殖しやすくなります。カビも増えます。また、汗も強敵ですから、夏には1日2回のシャワー(入浴)がとても有効です。

 せっけんは「敏感肌用」「低刺激」のものを選び、せっけん自体で洗うのではなく、せっけんを泡立てて、泡で洗うことを心掛けてください。洗った後は、泡を完全に洗い落とすことが重要です。

【スキンケア】

 次に、スキンケアです。お風呂から出たら、15分以内に保湿剤を塗ります。時間がたつと皮膚から水分が逃げていくからです。

 保湿剤はいくつか種類がありますが、プロペト(ワセリン)かヒルドイドでいいでしょう。肌が光るくらいに塗ってください。

【薬物療法(ステロイド軟膏など)】

 最後に、薬物療法です。基本はステロイド軟膏です。ステロイド軟膏には5段階の強さがあります。私は「最強」のものは使いません。それ以下で十分です。皮膚炎の重症度に応じて強さを選びます。

 次に、塗る量です。チューブを搾って、お母さんの人さし指の第1関節の長さに軟膏を乗せてください。この量が0.5グラムです。この量を、お母さんの手のひら2枚分の面積に塗ります。ぺたぺたと皮膚に乗せる感じです。すり込みません。

 これを1~2週間、1日2回やってみます。予定通り塗り終えても、ステロイド軟膏はいきなりオフにしません。塗る回数を徐々に減らします。そして、最終的には保湿剤だけに持っていきます。

 アトピー性皮膚炎は慢性疾患ですから、あっという間に治るということはありません。いい状態をキープして、お子さんの育ちを待ちます。次第に肌は丈夫になっていきます。

 それから、かゆくてどうしてもかいてしまう場合、抗ヒスタミン剤を内服するのがいいでしょう。かゆいという苦痛から解放されるし、かき壊しによる湿疹の悪化も防げます。最近の抗ヒスタミン剤は副作用も少なく、長期にわたって飲んでも安全なものがいくつも開発されています。

(小児外科医・作家 松永正訓)

松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

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