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危険は危険だけど…キャンプで使うナイフや包丁、「銃刀法」違反に問われることは?

キャンプに欠かせないナイフや包丁などの刃物類。それらを携帯しているキャンプの行き帰りに職務質問を受けたら、「銃刀法違反」に該当してしまうのでしょうか。弁護士に聞きました。

ナイフや包丁で銃刀法違反に…?
ナイフや包丁で銃刀法違反に…?

 コロナ禍の影響によるキャンプブームが続いています。キャンプに欠かせないツールといえば、食材や木材を切るのに使うナイフ、包丁、はさみといった刃物類ですが、こうしたツールを持って移動するキャンパーの人たちが警察官から職務質問を受けた際、「銃刀法に違反してしまう可能性が高いのでは」という声もあるようです。

 実際、キャンプの行き帰りに職務質問を受けた経験のある人もいるようで、ネット上では「危険な物を携帯しているのは事実だもんね」「犯罪の未然防止としては大事なこと」「どうやって持ち運べばいいの?」など、さまざまな声が上がっています。キャンプの行き帰りに職務質問を受けた際、銃刀法違反で逮捕されてしまう可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

鉄砲刀剣類の所持使用を規制

Q.そもそも、銃刀法とはどんな法律ですか。

佐藤さん「銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)は銃砲(拳銃など)や刀剣類を所持したり、使用したりすることについて、危害を予防するために必要な規制を定めるものです(1条)。銃砲や刀剣類を外に持ち歩くと他人にけがをさせたり、自分がけがをしたりする危険があるだけでなく、気が大きくなってトラブルを起こしたり、巻き込まれたりする可能性も高まります。そうした危険を避けるため、銃刀法は一定の銃砲刀剣類の所持・携帯を禁止しています」

Q.銃刀法の規制対象となっている「銃砲」「刀剣類」について教えてください。

佐藤さん「『銃砲』は拳銃や機関銃など、『刀剣類』は刃渡り15センチ以上の刀、刃渡り5.5センチ以上の剣、一部の飛び出しナイフといったものをいいます(銃刀法2条)。これらは一定の例外を除いて所持が禁止されており、違反した場合の罰則も定められています。罰則は何を所持したかによって異なります。例えば、拳銃の場合、『1年以上10年以下の懲役』(同31条の3)、刀剣類であれば、『3年以下の懲役または50万円以下の罰金』(同31条の16)と定められています」

Q.キャンプで使用することの多い刃物類は「刀剣類」に該当しますか。

佐藤さん「一般にキャンプで使用するナイフや包丁、はさみなどは刀や剣ではないため、所持が禁じられている『刀剣類』には該当しません。ただし、『刀剣類』以外であっても、刃体の長さが6センチを超える刃物については『業務その他正当な理由による場合を除いて携帯してはならない』とされています(銃刀法22条)。キャンプで使用するためにナイフなどを持ち運ぶ場合は“正当な理由”があるため、銃刀法違反には当たりません。

ちなみに、違反した場合の罰則は『2年以下の懲役または30万円以下の罰金』(同31条の18)です。なお、刃体の長さが6センチを超えていなくても、軽犯罪法に触れる可能性があるので注意が必要です。軽犯罪法は『正当な理由がなく刃物、鉄棒その他、人の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯すること』を禁じており、違反した場合の罰則は『拘留(1日以上30日未満とし、刑事施設に拘置する刑)または科料(1000円以上1万円未満を支払わせる刑)』です(1条2号)」

Q.ネット上では、キャンプで肉を焼くときに使うことのある「鉄製の串」、釣り具の「針」、工具の「マイナスドライバー」についても気にする声があります。これらの場合はどうでしょうか。

佐藤さん「いずれも、先述の軽犯罪法に触れるかどうかが問題となります。軽犯罪法は人を殺傷するために作られた凶器の他、使用方法によっては人を殺傷することができる器具も含め、広く規制対象にしています。例えば、アクセサリー感覚で持ち歩けるような小さなナイフであったとしても、取り締まりの対象にされる可能性があります。鉄製の串や釣り具の針、マイナスドライバーも大きさや形状によっては規制対象に含まれるかもしれません。

しかし、軽犯罪法も銃刀法と同様に“正当な理由”があれば規制されません。そのため、キャンプや釣り、DIYなどのために鉄製の串や針、マイナスドライバーを持ち歩いたり、また、店で購入したそれらの物を持ち帰ったりしたとしても罪に問われることはありません。なお、一定の大きさのマイナスドライバーについては、軽犯罪法の他、『ピッキング防止法』(特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律)に触れる可能性もあります。この場合も“正当な理由”があれば規制対象になりません」

警察官の職質を受けたら?

Q.キャンプの行き帰りなど、ナイフや包丁を携帯している状態で職務質問を受けた際、どのような状況が想定されますか。「銃刀法違反で逮捕されないだろうか」と不安に思う人もいるようです。

佐藤さん「警察官は『異常な挙動、その他周囲の事情から合理的に判断して、何らかの罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、または既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる』(警察官職務執行法2条)とされており、職務質問はこの規定を根拠に行われています。

そのため、職務質問をされるということは『警察官の目から見て、何か引っ掛かることがあって停止を求められている状況』と理解してよいと思います。職務質問を受けたのがたまたま、キャンプの行き帰りで、ナイフなどを携帯していた場合、何のために持っているのか質問されるでしょう。その場合、キャンプで使うためであることを説明しましょう。

キャンプの行き帰りであれば、ナイフ以外にもさまざまなキャンプグッズを携帯していると思われるので、そうした物も示し、本当にキャンプ目的なのだと理解してもらうとよいでしょう。理解してもらえれば、銃刀法違反で逮捕されることはありません」

Q.キャンプを楽しむ人の中には、自家用車に刃物類を含むキャンプグッズを積みっ放しにしている人もいるようですが、この場合はどうでしょうか。

佐藤さん「積みっ放しにしているとキャンプと関係なく、運転中に常時、刃物類を携帯していることになるため、先述の“正当な理由”とは認められず、銃刀法違反や軽犯罪法違反の罪に問われる可能性があります。そのため、小さなナイフなども含め、使用方法によっては人を殺傷することができる物については帰宅後すぐに、家の中にしまうようにしましょう。

また、キャンプに不必要な数や大きさのナイフを持ち歩けば、“正当な理由”がないとされる可能性があります。あくまで、キャンプに必要な範囲で持ち運ぶことが大切です」

Q.キャンプやアウトドアレジャーを楽しむ人にとって、刃物は必需品です。どのような状態での保管・携帯が求められるでしょうか。

佐藤さん「銃刀法や軽犯罪法が規制している『携帯』とは『直ちに使用し得る状態で身辺に置く』ことなので、ナイフなどをむき出しで運ぶことはせず、必ず、ケースに入れましょう。その上で、箱などに入れて簡単に取り出せないような形で保管・携帯することが大切です。そうした保管・携帯であれば、誤って自分や他人を傷つける危険もなくなり、安心して、アウトドアレジャーを楽しむことができるでしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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