ストレス解消>感染リスク? 外で酒を飲む人、大人数で会食する人の心理とは
新型コロナウイルス感染の危険性があるにもかかわらず、なぜ、路上や公園で飲酒する人や大人数で会食する人が続出しているのでしょうか。専門家に聞きました。

東京都や大阪府など10都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日、期限を迎えますが、宣言が解除された場合でも引き続き、飲食店での酒類の提供は制限される可能性があります。ところで、感染対策の徹底を呼び掛ける立場の公務員や医師が、大人数で会食を行っていたことが次々に発覚したほか、今春以降、公園や路上で酒を飲む人も目立つようになりました。こうした動きについて、ネット上では「ふざけるな」「緊張感なさ過ぎ」「なぜ、自宅で1人で飲めない?」などの声が出ています。
新型コロナウイルス感染の危険性が指摘されているにもかかわらず、なぜ、公園や路上で飲酒をしたり、大人数で会食をしたりする人がいるのでしょうか。心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。
酒はコミュニケーションツール
Q.「新型コロナウイルス感染の危険性がある」「路上で飲むと通行人の迷惑になる」などと指摘されているにもかかわらず、なぜ、大人数で会食をしたり、路上や公園で飲酒したりする人がいるのでしょうか。新型コロナ対策を守らない人の心理状態について、教えてください。
小日向さん「新型コロナウイルスに感染して亡くなった著名人の訃報が報じられるようになってから、最初の緊急事態宣言が出た頃までは、この未知のウイルスに感染することは『死』という、人間にとって最も恐怖な出来事に直結するものと認識されていたのではないでしょうか。この『死への恐怖』という共通心理があったために、多くの人が活動自粛という共通の行動変容をしました。しかし、コロナ禍が長引き、共通心理は薄れていきました。
昨今の、新型コロナ対策の要請を守らない人たちの心理は個々の事情によりさまざまだと感じています。例えば、コロナ禍によってたまった自身のストレスとコロナ感染のリスクをてんびんにかけて、ストレス解消を選択する人、『コロナはさほど恐れるものではない』という『自分の正義』で判断する人、誘われると断れない性格で、対策を守らない人と行動を共にしているだけの人、『政治家や医師だってやっているのだから』という反発心のある人――などです。三者三様の理由があると思います。
また、自粛要請が続く日々で『カリギュラ効果(禁止されるほどやりたくなるという心理現象)』が働いていることも一因ではないかと思います」
Q.路上や公園で飲酒する人に対しては「なぜ、自宅で1人で飲めない?」といった声を多く聞きます。自宅で飲まずに路上や公園で飲むのは、なぜなのでしょうか。
小日向さん「屋外で酒を飲む理由は『屋外なら換気がよいので感染リスクが低いだろう』という心理も働いていると思いますが、飲食店の酒類提供自粛や営業時間の短縮といった環境要因も大きいと思います。『自宅で飲めばいい』という意見は理論的には正しいですが、若者や単身者は複数人で集えるほど家が広くない人も多く、近隣への騒音リスクも心配でしょう。家族と同居していれば、家族への配慮が必要となります。
『1人で飲めばいい』という意見も正論ですが、屋外飲酒の多数を占める『若者』と呼ばれる年齢層が飲酒する理由として、『飲酒自体が好き』という人は少数派ではないでしょうか。酒は人とコミュニケーションを取るときに感情を盛り上げるツールという側面が大きく、そうした人にとっては、1人でお酒を飲むことに意味はなく、誰かと飲むからこそ意味があります。結局、『酒は1人で飲めばいい』と考える人と『酒はコミュニケーションツール』と考える人が議論したところで、話はかみ合いません。
また、基本的には1人が嫌いではない人でも、長期化するリモート学習や仕事などで孤独感が増しており、『誘われたら乗る』というスタンスの人も一定数いるのではないでしょうか」
Q.路上や公園で飲酒する人や大人数で会食する人に遭遇した場合、どのように対処するのが望ましいのでしょうか。そうした人たちに自分の心を煩わされないための方法について教えてください。
小日向さん「他のリスク管理と同様の対処でよいと思います。例えば、交通事故を避けたければ、『狭い道でなるべく、車を運転しない』『歩きづらい道を通らない』などの対処をすると思いますし、自治体など、しかるべきところに改善を求めるという人もいるでしょう。そうしたリスク管理と同様に捉えればよいので、例えば、『飲食店や公園に行く頻度を減らす』『夜間に出歩かない』といったことが有効かと思います。
先述のように、今や新型コロナへの向き合い方は三者三様です。ストレスという観点で考えると『コロナだから』と特別視して神経を尖(とが)らせても、ストレスを増大させるだけです。そうした心の持ちようが難しいと思うのであれば、メディアで報じられる新型コロナに関する情報を取り入れ過ぎないようにしましょう」
Q.自分の家族や友人、知人が路上や公園で飲酒したり、大人数で会食したりしている場合、やめさせるにはどのような言葉を掛けるとよいのでしょうか。
小日向さん「先述のように、人にはカリギュラ効果といって、『禁止されるほどやりたくなる』という心理現象があります。『絶対見ちゃダメと言われると見たくなる』『テレビでピーという音が入ると、伏せられた音声を知りたくなる』など、誰にでも思い当たる現象ですよね。つまり、やめさせたいと思ったときは、強く禁止要請するだけでは逆効果になりかねないということです。
相手の事情や感情を聞いて受け止めた上で、『禁止』ではなく『説得』しましょう。また、成熟した社会ほど、何かをするときの動機付けとしては罰よりも賞を与える方が効果的だといわれています。従って、例えば、人と酒を飲むことが好きな人であれば、『新型コロナが収束するまでは、酒は家で1人で飲もう。その代わり、いつもより1本多く飲んでもOKにしよう』など、当人にとってのご褒美的なものを提案する方法もおすすめです」
Q.コロナ禍でストレスをできるだけためない方法や、人に迷惑をかけずにストレスを発散する方法について教えてください。
小日向さん「ストレス解消にはいろいろな方向からのアプローチがありますが、その一つとして、左脳と右脳をバランスよく使うという方法があります。脳は仕事や勉強のときは左脳が強く働き、単純作業のときは右脳が強く働きます。従って、一例ですが、体を動かすのが好きな人はサイクリングやランニング、インドア派の人は『絵を描く、料理をする』といった繰り返し作業で没頭できることを、仕事や勉強の合間に取り入れてみてください。
ただし、運動も作業もそこに創造性を取り入れるとストレス解消になりません。『作業に没頭できる』ということがポイントです」
(オトナンサー編集部)
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